断片を集めて

斜芽 右上

第1話    花

「…あれっ、私…何してたんだっけ」

 ふと目を覚まし、辺りを見渡す。普段と変わりのない風景が広がる。

「今は…十二時! 寝すぎたなぁ…」

眠る前の段階で私が覚えている時刻は二十三時。どうやら「寝落ち」していたらしい。

ボンヤリとした感覚を覚ますために日光を浴びる。

「う~ん…やっぱ目覚めには太陽が必要よね~」

 そんなことを言っていると隣から、

「こんな時間まで寝てたの、お前だけだぞ」

 と、呆れとも捉えられる声をかけられる。

「な、なによ! 先に起きてただけで!」

 プイッと私は顔を横に向けるような感覚で反論する。

「事実を述べただけだ」

「なによその冷たい態度!」

 私のことは二の次といった態度に、今度は本気の怒り声をだした。

「賑やかな奴だな…」

「賑やかで悪かったわね!」

 何で目覚めたその時から嫌味を言われないといけないのだろうか。

 隣にいるヤツに腹を立てていたが、それも次の一言で一気に収まることになった。

「あ、そうだ…俺ももうすぐ出るからな」

「あれ…そうなの?」

 初耳だった。

 聞けば予定ではもう数週間後に出る予定だったのだが、急な予定変更があり今日ここを出ることになったそうだ。

「ま、お前のその賑やかな性格を最後に見れたのは土産物としては十分だったのかもな」

「どういう意味よ~!」

「…フッ、まあ名残惜しくないと言えば噓になるという事だよ」

「素直じゃないんだから~…!」

 そんなことを言っていた矢先。

 ―これ、持っていくの?

 —うん! きれいだし。

「…そろそろお別れの時だ」

「…そうみたいね」

 私たちの目の前。そこにいるのは、人間の親子。

 私たちを育ててくれていたという点では、この子供の女の子ですら親である。

「じゃあ、俺は行くからな。今年もお前に任せるぞ」

「…うん!」

 私は隣のヤツに頷くように返事を返した。

 ―じゃあ、これ持ってくのね?

 —うん!

 その会話が聞こえたと思うと、既に私の隣のヤツはその女の子の掌の中に移動していたのだった。


                 *


「…う。う~ん…」

「…ろ。起きな! またアンタ寝坊して!」

「えっ、今何時?」

 慌てて時計を見る。

 午前十二時。

「アンタ、去年もおんなじおことしてなかった~?」

「あ、アハハ…」

 返す言葉もない。

 また、この時期に寝坊してしまった。

 今年は姉御肌の方に注意されて、少し恥ずかしくなる。

 もっとシャキッとしないと。





 私は、花。

 とあるマンションのベランダで飼育されている、花。

 何度も何度も同じ花の種として生まれ変わっている。

 あの、窓の向こう側にある部屋の壁の時計で時刻を知り、同じサイクルを送り続けている。

 …ちなみになぜ怒られるのかというと…。

「あんたがいつも寝坊するせいで毎年アンタが次の代を産むことになってんの! 今年こそ私だと思ったのに…」

 …とまあ、こういう具合である。


                         -終-

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