大文字伝子が行く151

クライングフリーマン

脱獄

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。

 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。

 愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署生活安全2課勤務。

 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

 夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

 須藤桃子医官・・・陸自からのEITO出向。基本的に診療室勤務。

 日向さやか(ひなたさやか)一佐・・空自からのEITO出向。

 飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。

 江南(えなみ)美由紀警部補・・・元警視庁警察犬チーム班長。EITOに就職。

 青山たかし元警部補・・・以前は丸髷署生活安全課勤務だったが、退職。EITOに再就職した。

 草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。警視庁から出向の特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

 渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当の事務官。

 河野事務官・・・警視庁からのEITO出向。一般事務官。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。故人となった蘇我義経の親友の妻であった同級生逢坂栞と結婚した。

 辰巳一郎・・・物部が経営する、喫茶店アテロゴの従業員。

 物部(逢坂)栞・・・伝子の大学の翻訳部の同輩。物部とも同輩。蘇我と学生結婚したが死別。物部と再婚した。

 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。今は建築事務所に就職し、演劇活動は休止している。

 福本祥子・・・福本の妻。福本の劇団の看板女優。

 福本明子・・・福本の母。

 久保田嘉三管理官・・・EITO前司令官。凶悪事件の交渉人を担当することもある。

 森淳子・・・元依田のアパートの大家さん。


 他。エマージェンシーガールズ。


 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==


 午前11時。 喫茶店アテロゴ。

 配達を終えた辰巳が帰って来て、言った。

「マスター、マスター。スクープです。EITOの青山さんと江南さん、付き合ってるみたいですよ。モールの映画館から手を繋いで出てくるのを見ましたよ。」

「辰巳。EITOの青山さんと江南さんって、お前の後ろの人達か?」

 辰巳の後ろには、当の青山と江南が手を繋いで立っていた。

 辰巳は、「あちゃあ。」と言ってバックヤードに消えた。

 着席した2人に、「ご注文は?」と物部は尋ねた。

「僕はホットコーヒー。」「私はアイスレモンティー。」

 物部が用意しだして数分後、2人同時に「マスター。」と言った。

「僕たち付き合ってるんです。」「見りゃあ分かるよ。それで?」

「実は、金森さん達のことが明るみに出る前から、こっそり付き合っていました。」

 トイレから出てきた高遠が、「遠距離恋愛ならぬ近距離恋愛ですか。一ノ瀬一佐となぎさちゃん、いや、橘一佐のことがあったから、言いだし難かった?」と言った。

 2人は頷いた。「成程、一佐に忖度してるのか。どうなんだ、高遠。『おねえさまの、一番上の妹』は。」

 高遠は、自分の席から2人の席に移動した。

「基本的には、吹っ切れてると思いますよ。時折淋しくなったら、ウチに泊まりに来るけど。伝子も分かってるから何も言わないけど。例えば、青山さんと江南さんが結婚しても、誰も文句言わないと思うけどな。EITOの警察組同士のカップルって、そう言えば初めてかな。あつこ警視と久保田警部補は、一応職場違うし。」

「じゃ、仲人を副総監にして貰ったら、一件落着じゃないか。」と、言いながら、物部は2人の前に注文の品を置いた。

「理事官はともかく、大文字に言いにくいんなら、俺が一肌脱ぐぜ。」と言う物部に、奥から出てきた、栞が「あんたの裸なんか誰も見たくないわよ。そう言う悩みなら、私が言ってあげるわよ。」と、言った。

 暫く江南の様子を見ていた栞が、「予定日は?」と江南に尋ねた。

「来年のご・・・あ。」「私は1月。伝子の子と私の子と江南さんの子は同級生ね。」

「え?先輩。まだ聞いて無かった。」と高遠は言った。

「あら。伝子は知ってるわよ。忘れたかな?仕事忙しいものね。」と栞は笑った。

「そうか。仕事のシフトのことだね。大ジョブ大ジョブ。来月中旬に2人入るって・・・あ、今月か。そう言ってたよ。伝子だって、出産控えてるから、仕事セーブしてる訳だし。昨日の作戦だって・・・副部長。EITOで特殊スピーカを開発したんですよ。」

「あれが、そうですか。」江南は、昨日の作戦を話した。

「美由紀。ここであまり話さない方がいいと思うよ。」と、青山が言うと、「大丈夫。正午まで貸切にしといたから。辰巳!」と物部が言った。

「札下げてますよ。」と、辰巳は同調した。

 正午。

 2人は帰って行った。辰巳は『貸し切り中』の札を外した。

 正午。福本邸。

 サチコやジュンコと戯れて、伝子と福本夫婦は、近くの土手から帰って来た。

「2人とも元気で良かったよ。」と、伝子は福本に言った。

「この間、江南さんが来てね、サチコが一瞬きょとんとしたから、もう覚えてないのね、ってこぼしてね。」「でも、気が付くと、猛烈に舐め回して。忘れる訳ないのにね。」と、福本と祥子が言った。

「私も、タイムラグがあったよ。でも思い出したみたい。」と、伝子は言った。

 縁側から入って、皆が寿司を食べ出してから、おもむろに伝子は江南のことを話し出した。

「おめでたいじゃないですか、先輩。じゃ、ウチの子とも同級生ね。ねえ、あなた。」

 祥子の弾んだ声に、「おめでたい、おめでたい。」と祥子の腹をさすりながら福本は言った。

「仕事、やりくり出来るんでしょ、伝子さん。」と、福本の母明子は言った。

「勿論。」伝子は笑った。

「そうか。EITOは無闇に転勤で済ませないんだな。」と福本の叔父、日出夫は言った。

「公務員は教師でも警察官でも自衛官でも、公序良俗の為、って未だに転勤で済ますからな。」

「ええ。愛宕も長い間、『転勤していない』扱いだったらしいですから。」と、伝子は言った。

 伝子のスマホに電話が入った。伝子はスピーカーをオンにした。

「大文字君、何か忘れてないかね?」「会議ですか?」「いや・・・本部に来てくれ。須藤先生がお待ちかねだ。」

「あ!!」

 オスプレイの音が近づいて来た。

 午後2時。EITO本部。医務室。

 入って来るなり、須藤医官は、伝子と飯星を平手打ちした。

「舐めてんのか!!」

 午後2時。司令室。廊下を伝って、須藤の怒鳴り声は聞こえた。

「そんな恐い人だったんですか。」と、河野事務官は言った。

「河野さんは、健診いつですか?」と草薙が尋ねた。

「来週の月曜ですね。」と、河野が答えると、「覚悟しておいた方がいいですよ。今まで怒鳴られなかったのは、一佐と警視だけですから。警視は、かかりつけ医が往診に来るから、須藤先生に呼ばれないんですけどね。」と渡が言った。

「いや、公式的なものはないみたいだよ。大文字君だって、池上先生が往診に来るじゃないか。」

 そこに、ノックをして、江南と青山が入って来た。

「理事官。お話しが。会議室かどこかで・・・。」と青山が言いかけると、「副総監が仲人を買って出てくれた。良かったな、青山、江南。」といきなり理事官が言った。

 2人が驚いていると、「さっき、アンバサダーが戻って来て、医務室に行く前に話してくれました。水くさいですよ、隠しているなんて、なあ、渡。」と草薙が言った。

「同感。異議無し。金森さん達の例もある通り、EITOは、職場恋愛に五月蠅くない。それに、青山さんも江南さんも、警察を退職してEITOに再就職したんじゃ無いですか。問題ないですよ。」

「渡も、『たまには』いいことを言うな。その通りだ。闘いのリスクがあることは、言わずもがな、だがな。」と、理事官は煎餅をかじりながら言った。

 その時、アラームが鳴った。警察からだ。

「久保田管理官です、繋ぎます。」と言って、司令室にあるディスプレイに警視庁の久保田管理官の映像が流れた。

「理事官。脱獄です。場所は府中刑務所。脱獄方法は不明。護送車を奪って、逃走中。」

「護送車のGPSは?」「稼働中です。ですが、何処まで終えるか・・・乗り換えられたら、追えません。」

「よし、河野、草薙、渡。各方面に緊急連絡だ。青山と江南は、着替えてオスプレイで待機。」

 管内警報が流れた。草薙がアナウンスした。

「府中刑務所で脱獄事件発生。アンバサダー、エマージェンシーガールズ、エレガントボーイは緊急出動して下さい。」

 すぐに、伝子が司令室に走って来た。今の伝子にとっては、緊急出動とは、司令室で指令のスタンバイをすることである。「助かったよ。」と呟く伝子に、理事官が「こら!」と言った。

 渡と草薙は笑いを堪えて、各方面への連絡を続けた。

 午後3時半。伝子のマンション。

 高遠は、福本と電話をしていた。「あ。高遠。臨時ニュース、放送してる。府中刑務所で脱獄事件発生、だってさ。」

 森が、鯛焼きを持って来た。「今夜も帰れないね、ここの『ご主人様』は。」

 高遠は、鯛焼きを頬張りながら頷いた。

 午後5時。調布市。神代植物公園。植物多様性センター情報館前。

 公園内はもう閉園時間だ。囚人護送車が到着した。

 護送車から下田組組長下田茂樹が降り立った。

 若頭の林道夫が出迎えた。武装した組員50人も従えている。

「どういうことだ、林。脱獄させてくれたのはいいが、いきなり取引だって?」

 下田は、不思議そうに言った。

「イヤなら、取引はご破算でいいですよ。下田組さん。」

 久光商会の久光は、笑いながら、銃や機関銃を持った部下20人を従えてやって来た。

 久光の部下の竹下は、鞄の中の袋に入った粉を見せた。

 林は、ジュラルミンケースの中の札束を見せた。

 竹下と林は、荷物を交換し、それぞれの車の方向に向かった。取引成立・・・と思いきや。久光商会と下田組は、お互いに銃を向けた。

 激しい銃撃戦になろうかという時、オスプレイが現れて、「ちょっと待ったあ」という声が響いた。

 両者は、たちまちエマージェンシーガールズに囲まれた。

 空から人が振ってきた。いや、パラシュートで伝子が降りて来た。

 伝子は、護送車の屋根に降り立ち、こう言った。

「あんたらの敵は、向かい合っている連中じゃない。私たちでもない。」

 エマージェンシーガールズの数人が、抵抗する、警察官に化けていた2人の人間を護送車から引っ張り出した。

 エマージェンシーガールズの結城とあつこは、その2人の変装を解いた。2人の内の一人は女だった。

「あっ!!」と、久光は叫んだ。「元国会議員の灘ともこじゃないか。気が付かなかった。変装していたのか。」

 情報館の中から、久保田管理官が現れ、下田に言った。

「下田、お前、『漁夫の利』って知ってるか?」

「旦那、これでも高校位出てるんですぜ。」「これは失礼した。どういう意味だ?」

「第三者がぼろもうけするって奴でしょ?」「そうだ。第三者がダークレインボーだ。お前らはなあ、利用されたんだよ。どっちのシマも取られるところだった、相打ちの上に。」

 下田組組長は絶句した。「じゃ、EITOは・・・。」「EITOの敵はダークレインボー、那珂国のテロ組織だ。平定しに来たんだよ。」

 久保田管理官に続いて、エマージェンシーガールズの伝子に扮した日向は言った。

「護送車に乗って、下田を連れて来た、その2人こそダークレインボーだよ。」

 日向はインカムを着けていて、小さなスピーカーのようなものが顎の下に見えている。

「噂は本当だったのか。窪内組や遠山組は・・・そうだったのか。」下田は、膝を折り、肩を落した。「俺達と闘いに来たんじゃなくて、助けに来たのか。」

 警官隊は、下田達を逮捕連行した。

 伝子(日向)は灘の隣の男に言った。

「もう、Chot GPTは諦めろ。失敗するだけだ。」「俺に言っても、意味ないだろ?言われた通りにやっただけだ。」「お前が持っている通信機の相手に言ったんだよ。」

 警察官に化けていた2人も逮捕連行された。

 午後6時。EITO本部。司令室。

「ふう。影武者も疲れるだろうが、腹話術使う方もきついな。」と、伝子は草薙に向かって言った。

 夏目が、伝子にスポーツドリンクを渡した。

「案外気が付かないもんなんだな。」「マイクとスピーカーが繋がってますからね。まさかインカムがダミーだなんて思わない。エマージェンシーガールズのユニフォームは、言わば全身タイツで、口の動きは分かり辛いし。」と、横から渡が言った。

「よし、渡。エマージェンシーガールズに撤収させてくれ。」「了解しました。」

 高遠は、伝子が敵の前でDDバッジを押し、長波ホイッスルを吹いたことで、善後策を考えた。

 それが、ユニフォーム内蔵のマイクイヤホンと、隊長または隊長格リーダーに持たせるインカムとスピーカーだった。

「流石に、声紋分析器の量産は出来なかったようだな。」と夏目が言うと、「まあ、これで闘い易くなった。青山達は出番が無かったから、また拗ねるかな。」と理事官が言った。

「はい。拗ねてます。帰還します。」と、青山が言ってきた。エレガントボーイのユニフォームにもエマージェンシーガールズ同様のマイクイヤホンが着いた。通信はまだ終っていなかった。

 渡と草薙がクスクスと笑った。

 今度は、高遠の声が聞こえた。高遠のPCルームの通信も繋がったままだった。高遠は、作戦実行中でも、思いついたことは発言していいことになっている。じっと、リモートで闘いに参加していたのだ。

「奥様―。今、赤飯炊いているからねー。おかずは塩鯖だよー。」

「家庭的なエーアイ。やつらが一番想定しにくいことだな。」

 理事官達が振り返ると、須藤医官が立っていた。

 草薙と渡は帰り支度を始めた。

 ―完―

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