スイカ

久石あまね

第1話 夏休み

 「叔母さん、今日から夏休みの間、よろしくお願いします」


 玄関の引き戸を開け、中に入った嶺井司は涼子叔母さんにあいさつした。


 「はるばる東京からよく来たなぁ、疲れたやろ?スイカでも食べるか?中入りぃ、リビングのソファでゴローンとしとき〜」


 司と涼子叔母さんは冷房の効いたリビングルームにスリッパをスタスタと音をさせて入った。


 「冷房が涼しいですね~、気持ちいいなぁ〜」


 「せやろ〜、このエアコン3日前に修理したばっかやねん。だからめっちゃ効くねん。寒なったらいつでも言ってな」


 涼子叔母さんは母の妹だ。

 司は高校二年生。東京に住んでいて、東京の高校に通っているが、どうにも学校に馴染めなく、夏休みの期間だけ、大阪の涼子叔母さんの家に行くことになった。涼子叔母さんの家で過ごしたいという司の希望が叶ったのだ。


 司は黒いソファに座った。

 

 「はい、スイカ。いっぱい食べや。若いんやからあんた」


 涼子叔母さんは大きなお皿に溢れるぐらいのスイカを載せていた。


 「こんなにたくさんのスイカ、初めて見ました」


 「嘘やろ」


 「ホントですよ、なんで嘘つくんですか」


 「あんたお世辞うまなったな、健気なふりしてるだけやろ」


 「違いますって」


 「ホントのこと言うてみ?」


 司は苦笑した。


 涼子叔母さんは本当に変わらない。


 涼子叔母さんのお茶目な振る舞いは、司の疲れた心を和ますには十分過ぎるものだった。

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