第036話 クリスマス


「メリクリー」

「メリクリー」


 僕とカナちゃんはこの日のために買ったグラスにシャンパンを入れ、乾杯をする。


「いえーい」

「いえーい」


 僕達はシャンパンを飲むと、パチパチと拍手をした。


「色々、準備をしてくれてありがとうねー。それにしてもすごいね」


 目の前のテーブルには様々な料理が置かれている。


「ちょっと頑張りすぎちゃいました。ケーキもあるのに」


 いやー、これ全部は男の時でも食べられない。


「ありがとー。嬉しいよー」

「いえいえ。食べましょうか」

「そうだね。冷めないうちに食べよう」


 僕達はご飯を食べながらいつものように他愛のない話をしていく。


「そういや、カナちゃんは年末どうするの?」

「あー、31日に実家に帰って、2日には戻ってくると思います。先輩は?」

「僕は30日の朝に帰る予定。戻ってくるのは……僕も2日くらいかな」


 4日から仕事だし、そんなもんだろう。

 それまでに何か見つかればいいが……


「なるほど。じゃあ、2日か3日に初もうでにでも行きましょうか」

「いいねー。あ、31日までこっちにこの部屋をいるなら好きに使ってからね」

「ありがとうございます。でも、さすがに帰りますよ。自分の家、全然、使ってないですけど」


 ホントね。

 カナちゃんはほとんど僕の家に居座っており、自分の家に帰っていない。

 というか、僕はカナちゃんの家に行ったことがないし、どこにあるのかすら知らない。


 僕達はその後もご飯を食べ続けたが、さすがに全部は食べることができず、半分くらいを残し、ご飯は終了となった。


「片付けますね。冷蔵庫に入れて、明日また食べましょう」

「だねー」


 明日もクリスマスだからいいだろう。


「ちょっと待ってくださいね。片付けたらケーキを出しますので」


 カナちゃんがそう言って、テーブルを片付け始めた。

 僕はその間に寝室に行くと、クローゼットの中に隠していたプレゼントをこっそり取り、リビングに戻る。

 そして、何食わぬ顔をして戻ると、ソファーに腰掛け、カナちゃんを待つことにした。


 しばらく待っていると、カナちゃんがケーキを持って戻ってくる。


「クリスマスにはケーキですよー」


 カナちゃんがケーキをテーブルに置いた。


「すごいね。本当に上手だわ」


 店で売っているやつと遜色がない。

 パティシエになればよかったのに。

 あ、でも、その場合は僕と出会ってないからやっぱりダメ。


「えへへ。そうですか? ありがとうございます」

「カナちゃんはすごいよ」

「ふふ、切り分けますねー」


 カナちゃんはケーキを切り分けると、自分の分と僕の分を皿に乗せた。


「美味しそー」


 今日はカロリーは気にしない。

 何があっても食べる。


「どうぞ」


 カナちゃんに勧められたのでケーキを食べる。


「美味しいー! すごい!」

「ありがとうございます。頑張りました!」


 うんうん。

 すごい!


 僕達は切り分けたケーキを食べていく。

 そして、ケーキを食べ終えると、さすがにお腹がいっぱいになった。


「このケーキの残りもまたにしましょうね」

「うん。明日食べよう」

「冷蔵庫にしまってきます。先輩、飲まれますか?」


 まだ飲めるな……


「そうだね。シャンパンが残っているし、一緒に飲もうよ」

「はい」


 カナちゃんは残っているケーキを冷蔵庫に入れると、シャンパンを持って戻ってくる。


「メリクリー」

「メリクリー」


 僕達は再び、乾杯をすると、シャンパンを飲む。


「カナちゃん、今日は色々と準備をしてくれてありがとうね」

「いえいえ。楽しかったですよ」

「それにいつも色々とやってくれてありがとうね」


 僕はそう言いながらカナちゃんの手を握った。


「はい……でも、それも好きでやってることです。料理や掃除が好きなんですよ」

「いい子だなー」


 僕はカナちゃんの頭を撫でる。


「えへへ。そうですか?」

「うん。いい子にしていたカナちゃんにプレゼントをあげる」


 僕はそう言って、カナちゃんにプレゼントを渡す。


「あ、ありがとうございます。開けてもいいですか?」

「うん」


 カナちゃんは包装紙を丁寧に取ると、箱を開けた。


「わぁ……ネックレスですね。かわいいです」

「うん。カナちゃんに似合うかなって思って」

「着けてもいいです?」

「着けて、着けて」


 カナちゃんはネックレスを手に取ると、腕を首の後ろにまわし、ネックレスを着ける。

 カナちゃんの大きな胸元が薄っすらと輝いた。


「似合うよー」

「ありがとうございます! 嬉しいです!」


 カナちゃんは満面の笑みで頷く。


「よかったー」

「本当にありがとうございます! そんな先輩にもプレゼントがあります」


 カナちゃんはそう言うと、ソファーの近くに置いてある自分のカバンから赤い包装紙に包まれた箱を取り出した。


「何かなー?」

「ふふ、いい子にはサンタさんからのプレゼントです。どうぞ」


 カナちゃんサンタさんが箱を渡してきたので受け取る。


「見てもいい?」

「どうぞ」


 僕は慎重に包装紙を剥がしていくと、箱を開けた。

 箱の中にはシルバーの腕時計が入っていた。


「時計だ!」

「先輩は持っていないようでしたのでどうぞ」


 確かに持っていない。


「ありがとー」


 僕は腕時計を手に取ると、腕に巻いてみる。


「似合います!」

「うれしー」


 やったね!


「ふふっ、よかったです」

「うん」


 僕達はソファーに背を預け、手を握りながら体をくっつける。


「カナちゃんと付き合えて本当によかったよ」

「私もです……楽しすぎて家に帰らなくなっちゃいました」


 ホントにね。

 もはやこの家にある物の半分以上はカナちゃんの物だ。


「カナちゃんの家って賃貸だよね?」


 確かそう聞いた気がする。


「そうですね。アパートです」

「カナちゃんさー、もう解約したら?」

「解約ですか?」

「うん。家賃とかもったいないしさ、一緒に住もうよ」


 すでに同棲しているようなものだ。

 これ以上はカナちゃんの家の家賃や光熱費がもったいない。


「それもそうですねー……先輩がいいならそうしたいです」

「それがいいよ。僕、ずっとカナちゃんと一緒にいたいし」


 これかもずっと。


「ふふ、プロポーズみたいですね」

「そう思ってもいいよ。カナちゃんは良いお嫁さんになれる」

「えへへ……」


 カナちゃんがかわいく笑う。


「いいかもしれませんね。私、子供の頃からの夢があるんです」

「なーに? ケーキ屋さん?」

「それは好きなだけで夢じゃないですね」


 そうなんだ……


「じゃあ、何?」

「お嫁さんです。女の子は一度はそう思うものです」


 思ったことない……

 当たり前だけど。


「良いと思うよ」

「私が会社に入った時、本当に大変でした」


 うん?

 急にどうした?


「そうなの?」

「はい。だって、私しか女性がいませんもん。みーんな、よそよそしかったです」


 あー、確かに…………え?


「た、大変だったね」

「はい。でも、そんな中、先輩はちゃんと接してくれたし、色々と教えてくれました」


 これ、マズくない?

 カナちゃんが話している過去は……


「指導係だからね」

「はい。本当にありがとうございます。先輩は仕事ができるし、丁寧に私に教えてくれました。私ができなくて遅くなった時も手伝ってくれましたし、一緒に残ってくれました」

「そりゃね」


 それが指導係の仕事だ。


「だからあの日、先輩に手伝ってって言われて嬉しかったです。頼ってもらえたことが嬉しかったんです」


 僕達が付き合い始めた日か。

 そういえば、初めて残業させて自分の仕事を手伝ってもらった時だ。


「僕としてはごめんなさいだけどね」

「いいえ。私は嬉しかったです。そして、告白されて嬉しかったです。私も先輩のことが好きでしたから」

「ありがと……」


 本当にありがとう。

 本当にありがとうだが……


「私もありがとうございました。これまでもずっと楽しかったです。だから私はそんな先輩と一緒になれたらと思います。そして、これまでも漠然とそう思っていました。私の夢であるお嫁さんにしてもらえないかなって……」

「うん……僕もなってもらいたいと思っているよ」


 これは……


「だからこそ、変なんです。先輩、女の子ですよね? おかしいです。こう思うこともおかしいし、私が好きだった先輩は男性なはずです…………私の記憶がおかしいんですか? 変な話、私は初めて先輩に抱かれたことを覚えています。ちょっと痛かったこともそれ以上に嬉しくて気持ち良かったことも覚えています。ですが、先輩は女性です。おかしいんです…………そして、今もおかしいです。私は先輩に腕時計をプレゼントしました。お店を見て回って、これが似合うだろうと思って買ったんです。でも、はっきり言って、先輩には似合っていません。だって、それ男物ですもん」


 だよね……


「カナちゃん……」

「先輩、あなたは誰ですか?」


 どうしよう……

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