1.魔王城の日常
★
「魔王様、お目覚めの時間です。
抑揚のない、まるで機械のような声に眠りを妨げられる。
『んん…イヤよ、まだ寝るわ…。どうせ、またあの
天蓋付きの所謂お姫様ベッドで眠っていたのは、艶やかな桃色の髪が美しい年端のいかない一人の美少女であった。
太陽と月が共存するこの世界では、
しかし、弱肉強食のこの世では敵が来れば
だが、美少女は闘いたくないのか、
「ルーシィちゃんは、相変わらずお寝坊さんやなァ。
突如、不躾にベッドに潜り込んできて、あまつさえ後ろから
そう、眠っていた美少女の名は『ルーシィ・ジュヌ・ディアーブル』。
歴代魔王の中で最も若い最若魔王である。
若いと言っても、魔族の寿命は短い者でも1000年のため、誕生してから500年は優に超えている。
しかし、見た目は桃色の腰まである毛先だけウェーブかかった長い髪にクリクリっとした猫目で瞳は碧、頭の上に二本の小さい黒い角と口の右端から一本だけ覗く小さい牙、普段は服に隠れていて見えないが背中に黒い羽。
身長は150㎝と小さく、華奢なため、光族から見れば、どこからどう見ても10代後半の可憐な美少女である。
そして、現れた男は、『アレス』。
光族で最凶と謳われる勇者である。
見た目は、左側だけ少し長いアシンメトリーの銀髪に切れ長の二重に金色の瞳。
黒縁の眼鏡をかけており右目の下に泣き黒子があり色気が漂う。口角はいつも上がっており胡散臭い笑顔と関西弁を振りまいている。
ぱっと見は身長も180㎝と高く(但し、光族にしては)スタイルも良い、年齢は28歳の美青年である。
そのため、女性に困ったことはない。
『一緒に寝るわけないでしょ。毎日毎日、一体何処から湧くのよ。出ていきなさい、変態!』
魔王、基、ルーシィは、一瞬で覚醒した頭を働かせ、男をベッドから蹴り落とそうとするが、簡単に脚を捕まれてしまう。
「朝から、大胆な格好やなァ。襲ってほしいん?お兄さん大歓迎やで。」
アレスは楽しそうにニヤニヤと口許を吊り上げながら言う。ルーシィはワンピース型の夜着で寝ていたため、脚を捕まれているせいでアレスに下着が丸見えな事に気づく。
頬を林檎のように赤く染め、素早く手で裾を抑え隠す。
そんな姿もアレスの加虐心を煽るだけとは露知らず。
『離しなさい、変態!二十数年しか生きていない坊やがお兄さんなんて我に向かってよく言えたわね!レオンも黙って見てないで早く助けなさい!』
恥ずかしさに耐えられず、最初から今までずっと傍観を貫いている、ルーシィの側近であるレオンに助けを求める。
「無理です。そこにいる変た…勇者は私の敵う相手ではございません。」
しかし、即答で拒否される。そうなのだ、この変態は、巫山戯ているようにみえて実は相当強い。
それも、底が計り知れない程。この世界では所謂“強者”なのである。
といっても、レオンも魔王の側近。決して弱くはないが、相手が悪すぎるのだ。
「ひどいなァ、さっきから人を変態、変態って。その可愛いお口でボクの名前“アレス”ってちゃあんと呼んでくれへん?そしたら、離したってもエエよ。」
お願いなんて可愛いものではない。この男は、自分の顔の良さを、魅せ方を分かっている。
目を細め色気を振りまきながらルーシィを蕩けた瞳で見つめる。
『…………………ァレス。……っ…言ったんだからさっさと離しなさい、この変態勇者!!』
長い沈黙の後、意を決して、苦虫を噛み殺すような小さな声で名を呼ぶ。
しかしその直後、何故か一瞬固まったアレスを見逃さず、今度は反対の脚でベッドから蹴り落とすことに成功した。
「あぁ、アカン。思った以上の、破壊力やん。」
顔を片手で覆い、ぶつぶつと独り言を呟きながら床を転げ回っている。
『ねぇ、レオン、それ今日のゴミと一緒に出せないかしら?』
「ゴミ回収の者が可哀相なのでお止め下さい、魔王様。」
床で一人悶々と転げ回る、アレスを冷たい目で見下ろしながら話す二人。
この様な光景は、最早、魔王城の日常と化している。
Next.
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