第48話:政治的停滞

 モスクワ臨時政府は権力を維持しようと暴走した。

 失敗を隠そうと禁断の兵器、戦略核兵器を放とうとした。


 確かに、戦略核兵器を使えば、モンスターどころかダンジョンを消滅させられるかもしれない。


 だが、これから全てのダンジョンから地上に出るモンスターが現れるとしたら、戦略核兵器でしか解決できないのでは、人類どころか全ての生物が滅んでしまう。


 愚かなモスクワ臨時政府の権力欲だけのために、モンスターやダンジョンに戦略核兵器を使わせるわけにはいかない。


 だから僕は1人でビキンダンジョンに向かう事にした。

 モンスターを倒せればそれが1番だけれど、倒せなかったとしても、お父さんとお母さんの手助けになる情報が手にはいる!


 そう強い覚悟をしていたのだが、危機感を持ったのは僕だけではなかつた。

 合衆国が再び特殊部隊を投入した。

 モスクワに強襲をかけて臨時政府を壊滅させ、占領政権を樹立した。


 中華が強硬な抗議を行ったが、合衆国は歯牙にもかけなかった。

 モスクワ臨時政府が戦略核兵器を使おうとしていた証拠を示し、しかたがなかったのだと言い切った。


 それでも抗議を重ねた中華だが、国連の流れは合衆国支持だった。

 ロシアが占領されてしまって、中華は同盟を組む相手がいなくなってしまった。


 だが、合衆国を支持している国も、ロシアを永続的に合衆国の支配下に置くのは反対だった。


 ヨーロッパ方面を割譲して飛び地としてもらえるのならともかく、そうでないのなら、時期を見て合衆国をロシアから追い出す。

 その上でロシアを分割して力を失わせるように動いていた。


 そんな世界各国の思惑が飛び交うロシアは、日本人が自由に入国できる状況ではなかった。


 僕がビキンダンジョンのモンスターを倒すためだと言っても、合衆国の占領政府からも国際ダンジョン協会からも許可をもらっていない。


 半独立状態になっている、沿海地方の政権からはどうか来て欲しいと懇願されているが、合衆国の占領政府は日本政府を通じて入国を拒否している。


 ロシアの巨大な利権をほぼ手に入れている合衆国は、欲の皮が突っ張った連中が暴走しているので、我が家でも自由自在に操れる状態ではなかった。


 合衆国にいる協力要員を使い潰す気なら、一時的に政権を動かしてロシアに入国できるだろうが、そこまでしなければいけない理由がなくなっていた。


 一時的な占領政府とはいえ、ロシアは合衆国の支配下にある。

 支配下のダンジョンでモンスターが地上に出ているというのに、手を打たずに住民に被害が出てしまうと、民主主義に盟主失格になる。


「おばあちゃん、合衆国がどのような方法で解決するのか見ていていいですか?」


「入国を拒否されているのならしかたがないさ。

 それに、連中が自国の冒険者を使い潰してくれるのなら助かるよ」


「家のライバルが合衆国の冒険者なのですね?」


「ああ、長年競い続けている宿敵だよ」


「そんなライバルなら、モンスターを倒してしまいませんか?


「連中が家でも調べきれない魔術や魔剣を持っているのは確かさ。

 それがどれくらい通用するのか、先に見られるのは運が良いとも言える。

 少々腹立たしいのは、この状態のダンジョンに潜って調べられない事だね」


 おばあちゃんの言う通りだ、トレジャーハンターを名乗るのなら、前代未聞のダンジョンがどんな状態になっているのか、自分の目で確かめたくなる!


「訓練を再開してくれますか?」


「いいね、そのやる気があれば、私たちの全盛期を超えるのも直ぐだよ!」


 ☆世界的アイドル冒険者、鈴木深雪ファンクラブのライン


Kenneth:くそ、我が合衆国は何をしているのだ!


豚キムチ:ロシア美少女を守らない合衆国を潰せ!


みゆき命:ロシア美少女を守らないペンタゴンの機能を停止させろ!


Benno:冗談なら笑えるが、本気で言っていやがる。


ノンバア:無茶な事を言っているけれど、気持ちは分かるわ。


ゆうご:ああ、ビキンダンジョンを放置するなんて、無責任すぎる!


Rafael:合衆国は昔から無責任な国だった。


Kenneth:ウソだ、合衆国は自由と平等の国だ……


豚キムチ:ふん、ロシア美少女を守らない国が自由と平等の国だと、クソが!


みゆき命:ふん、合衆国は差別と略奪と虐殺の国だ、ヤンキーゴーホーム!


藤河太郎:戦略核兵器が使われるのを防いだのは正義だが……


雷伝五郎:その後の占領政府は、原住民を虐殺して新大陸を奪ったのと同じだ。


Kenneth:ウソだ、違う、自由と平和のためだ、ロシアに自由と平和を……


豚キムチ:ふん、盗人猛々しいわ!


みゆき命:みんな、合衆国の電子機器を破壊するぞ!


Benno:こいつら本気だぞ、このままでは俺たちまで合衆国に狙われるぞ。


ノンバア:でも、間違った事は言っていないわよ。


ゆうご:そうだな、世界の危機を何とかするには、あのモンスターを倒すしかない。


藤河太郎:だがいくらなんでも合衆国と正面からケンカするのは危険だ。


雷伝五郎:これまでの俺たちの行動を把握しているはずだぞ。


Rafael:確かに表に出ている深雪ファンクラブが動けば直ぐに捕まる。

 

Kenneth:合衆国は自由と平等の守護者で、世界の警察なんだ……


豚キムチ:ふん、ロシア美少女ファンを舐めるなよ!


みゆき命:そうだ、同志は合衆国政府中枢部にもいる。

    :ロシア美少女を守るためなら命を捨てて動く!


Benno:本当にそうだと良いのだが、信じられないな。


ノンバア:私たちのできるのは、表の抗議、合法的な抗議だけよ。


ゆうご:そうだな、やれるだけやるしかない。


Rafael:俺たちはこれまで通り、できる限りロシアの情報を集める。

  :占領政府の犯罪を公表して合衆国の動きをけん制する。


藤河太郎:俺は日本政府を動かせるようにデモを企画する。


雷伝五郎:俺も手伝うよ。


ノンバア:それぞれができる範囲で母国の政府を動かす、いいね?!


Benno:サイレントリュウヤが動いてくれればいいのだが……


★★★★★★


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