ドリームチーム

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其の一  スネークドラゴン       遠之 えみ作


「で、あるから、今を大事に生きるのだよ。はい、パンジー。また君だね。で?」

「先生、宇宙は拡大してるって言いましたが、そのダークエネルギーを操っているのは何ですか?」「操ってる訳じゃない。自然の驚異だよパンジー。じゃ、今日はここまで!」 えええ‼まだ終業のベルも鳴ってないのに‼、と、不満を漏らすパンジーを尻目に、ドクターはさっさと教室から出て行った。即座にパンジーが追いかけて、背広の裾からはみ出している豊かな尻尾を捕まえたところでチャイムが鳴った。「はい、時間です」何か言おうとしたパンジーの口元を、鋭い爪が光る指で押さえると、アライグマのドクター、スコーンは悠々と引き上げて行った。

仕方なく教室に戻ったパンジーの姿に皆くすくす笑っている。 「おい、パンジー、オマエまた半分だけバレてるぞ!」 パンジーは興奮すると、身体の一部が勝手に本来の姿を現してしまう。擬態している時のパンジーはスレンダーで、おしゃれな女の子だ。が、言われてみると腰から下だけふくよかで、ピンク色の足がのぞいている。言ってきたのは吹雪と云う名のパンジーの兄妹だ。デリカシーのない男の子で生意気で勉強もできない。と、パンジーは思っている。パンジーは四つ仔である。最後に生まれた。一番最初に生まれたのが、生意気で勉強ができない吹雪。数秒後につくしと名付けられた男の子。これがすこぶる付きの臆病な子で…三番目がサクラ、最後がパンジーだった。

この星に生きる者は、使命を持って誕生するキャリアと、使命を持たないノンキャリアとにハッキリ分かれている。

使命を託された者には特別な能力が与えられた。優れた身体能力と長い寿命である。

では、そんな特別な能力を与えることが出来たのは誰なのか?使命とは何か?

物語はここから始まる。


四つ仔の仔豚が生まれて二度目の夏を迎えた頃、世界中を旅していた四つ仔の父親が率いる楽団が戻ってきた。二年ぶりの帰国に村は喜びに溢れ、仔豚たちもすっかり有頂天になって、普段あまり仲の良くない吹雪とパンジーさえも、今日ばかりは手を取り合ってダンスの輪に参加している。

歓迎のお祭りは夜遅くまで続いた。

村人たちの一番の楽しみは楽団の土産話しである。と云うのも、この惑星には鉄道も飛行機も車もない。自転車すら。余程の事がない限り、わざわざ村から出て行く事はないし、隣国から訪ねて来る事も滅多にない。

今は西暦2530年だが、この惑星が誕生したのはほんの300年ほど前である。

楽団の土産話しは村人だけではなく、取り分け四つ仔を喜ばせた。と、云うのも楽団のリーダーが父親なのだから鼻高々である。特に、謎の多い北の都の話は村人たちを釘付けにした。村人たちはじめ、四つ仔も殆ど外の世界を知らない。四つ仔は生後2年で10歳程度だが、後2年もすれば成人に達する。成人に達した後がノンキャリアと違い長い時間を生きる事になるのだ。四つ仔に与えられた寿命は今のところ誰も知らないが、それはいつか突然、本人にだけ解かる仕組みになっている。さて、楽団の土産話しの中にはこんなエピソードもあった。ソプラノ歌手のタンゴが、ある老婆に請われステージではない街中で美声を披露したところ、非常に喜んでお礼にと水晶玉をくれたのだと言う。

シルバーフォックスのタンゴが、赤いビロードの袋から恭しく水晶玉を取り出すと同時に村人が殺到した。誰一人として見た事がない水晶玉は、途轍もなく美しく輝きを放って村人たちを引き寄せた。

村人たちは重なり合う様に、妖しく光る水晶玉に恐々触れたり、一部の者は複雑に絡み合う光のハーモニーに心奪われウットリするやら、踊り出すやらで大盛り上がりだったが、……この様子を大樹の上から眺めていたスフレの目が鋭く光った。

この村の長老、齢297歳の梟スフレは目まぐるしく首を回し記憶を辿った。ここのところ老衰が目立ち始め、寿命が迫っている事を意識せずにはいられない。ところが、2年前に偉大なるメシアからのメッセージを受け取った。明けがたの事だった。スフレの住まいは大木に設えたツリーハウスである。いつも通り村の巡回に出かけようとドアを開けた時、夥しい光の粒が部屋一杯降り注いだ。光の粒はメシアの姿になり、すぐに4匹の仔豚に姿を変え、またすぐに光の粒と云う具合に形を変え、縦横無尽に部屋の中を駆け巡り、ある文字を残して空高く舞い上がり、あっという間に消えた。僅か十数秒の出来事である。

メシアからの暗示で疑う余地はないが、 スフレは考え込んだ。どういう事か、、、

 ある文字……それは、メサイア。――救世主――


歓喜の輪の中で燦然と輝いている水晶玉の横に降り立ったスフレは、注意深く辺りを見回してからタンゴに聞いた。「その老婆は何と言った?何を言っていた?」村人たちの間に不満の声が漏れた。いつもこうなのだ。スフレは心配性のあまり、時として楽しみをブチ壊す厄介な隣人だが、長老に据えたのはメシアであるから従うしかない。一人だけ、長老にモノ申せる存在の銀狼テイラミスはここのところ臥せってばかりだ。折角、甥のタルトが長旅から戻っても、テイラミスが祭りに顔を出す事はなかった。長老級の羊のシフォンはテイラミスに付きっきりらしく姿が見えない。

少々、美酒に酔ったタンゴが美しい声で答えた。

「願わくば、、、わが師、アウトクラトウルの御加護を賜らん事を、、、あと、何だっけ?」「ペガサスが、、」タルトが話し出したと同時に「アウトクラトウル?アウトクラトウルと云ったか?」とスフレが被せてきた。

「……え、ええ、、」 スフレのお節介には慣れっこのタンゴも、これまで見た事もないスフレの厳しい眼光に圧倒され後退りした。

テーブルから降りたスフレは、梟からいつもの姿に戻り興ざめしている村人たちに向かって言った。「これは魔女の物だ!魔女が水晶玉を手放すなど有り得ないが、見たところ紛れもない魔女の水晶玉だ!」スフレは水晶玉を手に取り高く掲げた。四つ仔たちも興味津々、いつの間にか、ちゃっかり大人たちの股座をかいくぐり、スフレの唾がかかりそうなくらいのポジションをキープしていた。つくしだけは吹雪の背中に隠れる様にしがみついていたが。

「有り得ないのだ!」スフレはもう一度言った。「水晶玉は魔女の生命そのものだ。」 しかし、この意味は、一部の選ばれた者には解かるが、一般のアニマル人には解かろうはずがない。メシアの魔術は、使命を持たない者の寿命を自然のままにと位置付けている。勿論変身もできないから、産まれた時の姿で本来の寿命を全うする。キャリアの中には、美しい顔立ちで産まれる者がいる反面、当然それ以外の容姿で産まれる者もいる。これはメシアが人間社会に倣って講じたものだ。更にこれらは、アニマル人たちには、何の不思議もなく、疑問も一切持たぬ様メシアの永遠の魔術に依ってコントロールされている。

大工である羊のシフォンは295歳だ。これまで、数え切れないほどの親類を出迎え、見送っている。いつか自分の寿命も尽きる日がきっと来るだろうから、跡継ぎが現れるのはいつか?と、思っていたところで55年前にカスタードが産まれた。

元気な産声をあげるカスタードの姿が、仔羊だったり人間の姿になったりするのを見たシフォンは飛び上がって喜んだ。遂に二世が現れた。しかしそれは、同時に自分の寿命が近い事を意味するのだが。 「まあ、いいじゃないか。この頃は出迎えも見送りも、ちょっと億劫になっていた事だし。」これはシフォンの偽ざる本音である。歳を取らない訳ではない。何百年もかけて氷河の一滴の如く確実に時間は進んでいくのだから。


すっかりシラケた場を立て直そうと、楽団が各々の楽器をかき鳴らし、タンゴが打って変わってアップテンポの歌を歌い出すと、静まり返っていた会場に再び活気が溢れ、村人たちの顔にも笑顔が戻った。

スフレが水晶玉を手にじっくりと眺めている。四つ仔はスフレを囲む様に背伸びをして、魔女の水晶玉を飽く事なく眺め回していたが、「目、じゃね?」と呟いた吹雪の一言にスフレの顔色が変わった。「またあ!アンタはいつだってそうなんだから!」すかさずパンジーが牽制したが、「…いや、今のは目だった気がする」と、サクラが言ったもんで、慌てたパンジーは吹雪の後ろにしがみついているつくしに目を向けて「アンタにも見えた?」と聞いた。つくしは小刻みに首を横に振るばかりでパンジーのあからさまな舌打ちを浴びる事に。パンジーはサクラにだけは一目置いているのである。

「確かに目を見たのだな?」スフレの重苦しい声に吹雪とサクラは頷いた。

スフレは再びゆっくりと水晶玉を回し始めた。目の前にいる四つ仔はただの仔豚ではない。使命を持って送られた救世主だ。多様な種の中で、取り分け特別な使命を持って送られた豚は、この惑星誕生後初めてである。しかも、一気に四つ仔とは。この惑星に尋常ならざる厄災が降りかかろうとしているのではないか……

やがて、クルクル回される水晶玉の中でナニかが意図的に動き出した。

細長い糸の様なそれは、四つ仔の眼の前を通り過ぎ、一周回って再び四つ仔の前に姿を現したが、一周回る毎に一本の糸が二本に、三本にと形を変えていった。

六周目になろうかという時、その物体は四つ仔の眼の前で止まった。

らせん状に体をくねらせ、水晶玉にペタリと張りつき突然アッカンベーと長い舌を出した。ビックリした吹雪とサクラだったが、そこは、村では有名な悪ガキである。二人揃って「なんだコイツ!」と言ってアッカンべーの倍返しをしていたら、スフレが水晶玉を高く持ち上げ「かかわるな!」と怒鳴った。その声は陽気に騒いでいる村人たちには聞こえなかったが、使命持つ者にははっきり聞こえた。

スフレは危惧していた事が図星だった事に身震いした。


10日後。

深夜、テイラミスの家に客があった。地下室に集まったのは、スフレを筆頭にいづれも使命を担う者たちである。テイラミスは臥せったままだったが、最重要会議と云う事で二世のタルトに支えられながら出席した。

テイラミスは先ず、四つ仔の誕生に疑問を抱かなかった不手際を詫びた。「平和ボケだったのね、あの時すぐに動いていれば、間に合っていたかも知れない。」深く首を垂れるテイラミスに、「あとの事は我々に任せて、ゆっくり休んでおいで」とスフレが言うと皆口々に「我々にも責任がある」と言ってテイラミスを励ました。テイラミスにも120年前にタルト二世が誕生している。テイラミスがここのところ、めっきり弱って臥せっているのは寿命が近いせいだとと云う事を当然皆知っている。当の本人、テイラミスも。

「これから、この惑星の秘密を説明する。ワシを含め一世の者しか知りえない事だ。しかし、これからは二世の時代になる様だ。」 そろそろ来るはずだが、と、スフレが言ったところで外から賑やかな声が聞こえてきた。四つ仔である。「あんな子供を!」と言う若い二世の声を制して「さて、これで頭は揃ったで、核心に入ろう」

スフレの重苦しい声が地下室に響いた。

四つ仔のうち、吹雪だけが眠りこけていたが、スフレは構わず話し出した。


  ―――デリヌス星、フラワー村―――

ルーツは地球と言う惑星だ。メシアとは、地球と共に誕生した謎の生命体である。

何億年もの長きにわたり、姿を変えながらその時代に溶け込み、人類の誕生と共に自身も進化していった。メシアには名前がない。必要としなかった。しかし、弟子が増えるにつれ、アニマルの惑星を形成するにつれ、弟子から名前がない不自由さを指摘されたメシアは「呼びたいままに」と言い、誰彼なくメシアと呼ぶ様になったのである。メシアが自身の能力に気付いたのは誕生後すぐである。風を操る、嵐を起こす、氷河に閉ざされれば氷河になり、灼熱の焔が降り注げば焔となり、数多の生命体が滅びた後、新たに誕生した生命体の進化を幾たびも見届けた。大いなる力によって生み出された自身の存在を、無意識に受け入れていたメシアだったが、愚かな一部の人間が起こした「核戦争」により存在意義を見出していった。核戦争によって地球は荒れ果て、人口は核戦争前の半分にまで減ってしまったと云うのに、愚かな権力者たちに依って、僅かな資源を巡っての戦争は激化の一途を辿った。

これまで、風の様に、雨の様に、時には流星となり気の向くまま宇宙を駆け巡っているばかりだったが、瓦礫と化していく地球を見るうち、自身の超能力はこの為に与えられたと気付いた。与えられた超能力を発揮するのは「今」を於いてない。「核」は人間が作り上げた脅威である。自然の脅威とは一線を画すものだ。核戦争ごときで地球が滅びる事はないとしても、生命体は滅びる。確実に。

地球の誕生と共に自身も生命を吹き込まれた。恐らく、この為に。人智を凌駕する程の超能力を使って、まだ僅かだが生き残っているアニマルを、「種」を保存しなければならない。そうすべきである。それこそ自身に課せられたミッションである。アニマルは「核戦争」などしない。必要以上の強欲にまみれるのはいつの時代も人間だけだったではないか‼

メシアは雨粒の中から何滴か拾い上げると生命を吹き込んだ。生命を吹き込まれた雨粒はたちまち魔女の姿に変わり、その数は少しずつ増えていった。魔女の姿を人間にしたのはメシア自身も人間の姿を借りていたからである。雨粒を魔女に仕立て、魔力を与えるのはメシア自身の寿命を縮める。寿命と云うより命を削るに等しい。

何億年も皺ひとつなかったメシアの顔に、うっすらと浅い皺の跡が見え始めたのもこの頃である。メシアが自身に課した最大のミッションは、かつての地球の様に、緑豊かな大自然の中に大河が流れる様な惑星を探す事にあった。

探す傍ら魔女の教育も怠らず、大忙しの毎日だったが、メシアはここで思わぬ事件に遭遇した。

メシアは固有に感情移入した事がない。美しい花を見れば美しいと思うし、香しい香りには顔がほころぶ。だが、それだけだ。それ以上の感傷も、干渉も一切持たない。魔女たちの中で、初期の頃の男の魔法使いが人間と契りを交わし、子供まで産ませたのは想定外の出来事だった。メシアは迷った。魔術を解いて露に帰すのは簡単だが、問題の魔法使いは魔女の中では飛び切り秀逸だ。右腕と言っても過言ではない。たったひとつの過ちで追放するには惜しい。

それに、他の魔女たちが言うには、――いたって人間的――らしい。これから創造しようと云うメシアの理想は、魔女たちが言う――いたって人間的――そのものだ。かくして、この問題は不問に付されていく。メシアにもう一つ呼び名がつけられたのもこの頃で、これも、魔女によるといたって人間的、らしい。

もう一つの呼び名はメシアより身近に感じる「マスター」と云ういたって平凡な呼び名だったが、人間に近いと云う理由で大多数の魔女に支持された。マスターにとっては正直どうでもいい事だったが。


目指す惑星が見つかったのは25年後。地球では相変わらず暴力と略奪が蔓延り、都市はどこも瓦礫の山と化していた。

メシアは先ず、様々な「種」をデリヌス星と名付けた惑星にテレポートさせた。

一頭一頭テレポートする度にメシアの顔、腕、手足には皺が刻まれていった。


魔女には一人一人千年の寿命を与えている。魔女に寿命を与える度、マスターの姿はまた、確実に老いていくのである。

そして、新惑星に「種」を根付かせる為に、マスターは持てる限りのエネルギーを惜しみなく放出した。アニマルにも性格があり、賢い者と平凡な者に分かれる。

マスターのメガネに叶った者だけに与えられた特別な能力。選ばれた者はキャリアと呼ばれ、それ以外はノンキャリアと呼ばれた。一番最初にメシアの目に留まったのが若い雌狼だった。

非常に賢い狼で、メシアに代わって、次々生まれ変わっていく仲間たちに、メシアの理論と教義を叩き込んでいくがトラブルも多かった。人一倍気位が高く、一旦癇癪を起こすと手が付けられず新米のキャリアたちを震えあがらせてしまうのだ。そこで、ある魔女が一計を案じ、デリヌス星の一角をフラワー村と名付け、スイーツ作りに異能を発揮するこの雌狼を惑星一のパティシエとして据えたのち、新しく産まれ変わってくる者の名付け親、ゴッドマザーに仕立てて面目を保ったのである。思惑がハマったのは云うまでもない。雌狼は自らをテイラミスと名付け、使命を与えられた仲間たち全ての名前を付けていったが、297年後に四つ仔が産まれた時は、命の焔が消えかかっていた為、アニマル人二番手の梟スフレが四つ仔の名付け親となった。


「先ずは、北の国へ行って魔女を捕まえなきゃならん。ワシが行く。タルト、タップ

ついて来てくれ!。あとの者は東国、南国に分かれてリーダーに伝えてほしい、西は……西の国はワシが戻ってからでも遅くはなかろう。あの国は何時でも臨戦態勢だからな、では、よろしく頼む‼」とスフレが締めて皆散りじりにテイラミスの家を後にした。パンジーは憂鬱だった。まだ知らない事が多過ぎる。この惑星の謎は解ったが、これから何が起こるのか見当もつかない。アライグマのドクターもこの会議に出席していたが、「私に何も聞くな!」と顔に書いてある。サクラは深刻な面持ちで腕組みをしたまま天井を仰いで微動だにしない。アライグマドクター同様「話しかけるな!」と顔が言っている。つくしは……四つ仔を引率して来た父親の股座に縋りついて離れようとしない。つくしは、まあ、仕方ないとしても、パンジーのイライラは今だグーグー眠り続けている吹雪にぶつけられた。

「起きなさいよ!アンタここに何しに来たの!」又か、と云う面持ちの父親は、外で待ってるからと言ってつくしを連れて出て行った。パンジーが、起きなさいよ!と吹雪の体を揺すると、「ブヒ―?」とひと声あげたが、起きる気配はない。パンジーが吹雪の耳元で「起・き・ろ――‼」と怒鳴ると「ブヒ、ブホ、ブヒん?」と返事を返してきた。「コイツ!タヌキブタ!」と、パンジーが拳を振り上げると、それまでグーグー眠っていたはずの吹雪が、振り下ろしたパンジーの腕を捕まえダルそうに言った。「ウルサイウルサイ、よいこは夜寝るもんだぞ、なあサクラ」サクラの返事はないが、代わりにドスのきいた嗄れ声が地下室に響いた。

「いつまでもつまらない事を云うでない!お前たちはメシアが送って下さった四つ仔なんだよ!力を合わせるんだ!」 ポカンとしているサクラとパンジーの前にグイと進み出た吹雪は「大丈夫だ、テイラミスばあちゃん。オレに任しとけって‼」

テイラミスは度の強い眼鏡の奥から胸を張る吹雪を眺めていたが、突然狼の姿を現し吹雪の丸い顔をズルリと舐めた。これを見たサクラはコチコチに固まるに留まったがパンジーは白目を向いて卒倒した。


北の国までの距離は凡そ3580㎞。この惑星は小さい。総面積は2億3千万㎢、しかない。陸地面積は1億8千万㎢。こう云うと陸地は広いと思うだろうが、殆どが荒涼たる高山で現状は近付く事さえままならないのだ。

そして何故か高山は北の国に集中している。 使命ある者だけが知りえる謎だが、

いずれ又…

梟のスフレ、銀狼のタルト、灰色鼠のタップは北の国に到着するなり精力的に動き出した。タルトの案内で、タンゴが美声を披露した路地はビルが建ち並ぶ一角だった。楽団の面々はこの近くのホテルに滞在し、少しずつ移動しながら公演を続けていたのである。公演を終えてホテルに戻る途中、一人の老婆に呼び止められた。全身埃っぽい薄汚れた格好で、伸び放題の髪の毛が蔓の様に絡まり顔を隠している。

冥途の土産にとしつこく付きまとわれ、渋々歌ったタンゴだったが、当然、あっという間に人垣ができて、これに気を良くしたタンゴはもう一曲サービスに歌った。

老婆は非常に喜び、何枚も重ね着しているマントの中から、これまた薄汚れたズダ袋を取り出すとタンゴの手に握らせた。この時は、楽団のメンバー全員が二世かノンキャリアだったので、水晶玉の意味を知らず受け取ってしまったのである。


魔女の行方は思いの外早く突きとめられた。

三人が先ず見当をつけたのが酒場だった。古くからの言い伝えで魔女のねぐらは酒樽の隅と決まっているからだ。しかも酒樽を置いている酒場は限られている。

三人は何食わぬ顔で四軒目の酒場のドアを開けた。客はなく店内は静かである。スフレは恰幅のいい老紳士のいで立ちである。タルトは銀色の長い髪を後ろで束ねラフなスタイル。タップはソフト帽を目深に被って顔半分隠しているが、立ち居振る舞いから身分の高さを醸し出している。三人を見た酒場の主人は、上客と踏んだらしい。ヴィンテージの赤ワインがお勧めだと声を掛けてきた。

三人は積み上げられている酒樽の近くに座り、バーカウンターの中でグラスを磨いている主人にお勧めのヴィンテージワインをオーダーすると、早速目を凝らして辺りを見回し始めた。

見たところ魔女の姿も気配も感じないが、喜色満面で酒を運んできた主人に、先ずタルトが探りを入れた。体の大きなホルスタイン主人は街中で歌ったタンゴの事を覚えていて、更に、薄汚れた老婆の事も知っていた。

「今日あたりは5番街かね、辻占いをやってるのさ。俺も結婚と商売繫盛を占ってもらった事があってね……」 主人が話しながらオーダーの酒とグラスを置き、ツマミを取りに一旦バーカウンターに戻った。戸棚から皿を出したりナッツの袋を取り出したりしていたが、振り向いた時には三人の姿は消えていた。テーブルの上には十分な酒代が置かれていた。

5番街のビルの谷間にそれらしい老婆を見つけたのはすばしっこい灰色鼠のタップである。老婆は折りたたみの椅子に座り、ビルの壁に身体を預け眠りこけていた。

婆さん、とスフレが呼びかけると、老婆は絡みつく髪の毛の間から覗いている片目を開けて「いらっしゃい」と言った。ところどころ歯が抜けているのか言葉が不鮮明で聞きづらい。

「何を見るかね?」言いながらズダ袋の中から割れた小鉢と小石を取り出した。

スフレが懐から深紅のビロード袋を出すと、「おやまあ!上等ないいものをお持ちじゃありませんか。久しく手にした事がない。」 チョット…触らせて、と老婆の手がビロード袋に伸びたのをタルトが邪険に振り払った。何をするんだと抗議する老婆に「お前の商売道具はこれじゃないのか?」と、スフレが袋の中から水晶玉を出すと、老婆は「キャッ‼」と叫んで壁に這いつくばった。

「お前だな?魔女の……名前は、名はなんという⁉」 「知らない知らない!何にも知らない‼」 壁を横に伝って必死に逃げようとする魔女だったが、多勢に無勢、と云う程のものではないにしても、勝ち目はなさそうだ。魔女は諦めたらしく椅子に座ると、木っ端で組み立てたテーブルに突っ伏した。「名前を言ってくれ、ワシはフラワー村の梟スフレだ。連れは銀狼のタルトと灰色鼠のタップ。ワシは一世だが、この二人は二世でアノ事件を知らない」タルトとタップが顔を見合わせた。スフレの言う事件とは口に出して言うのも憚られるこの惑星の黒歴史に他ならないと聞いた事はあるが、真相は封印されたままだ。


「もう…遅いんだよ…」余程しばらく経ってから魔女が絞り出す様に言った。

疲れ果てた顔で三人の顔を交互にながめ眇めていたが、「寿命がないのさ…」と云う言葉にスフレは飛び上がった。

「なに?待て待て!どういう事だ?」「だから、今言った通りさ。寿命も記憶も…」盗まれたと言う。誰に!と怒るスフレに魔女はスマナイと詫びながら小さな声で

    ――スネークドラゴン――と言った。

「噓をつくなよ、お前は記憶を盗まれたと言ったのに、寿命がないとかスネークドラゴンとか、ちゃんと憶えてるじゃないか!」 

「…だからさ、全部じゃないのさ…ところどころ、いや、ほとんど!」

「よく聞くんだ!メシアは2年前に四つ仔を遣わした。この意味は解るな?」

魔女の顔が益々強張り、ヘタヘタと地面に座り込んだ。スフレは、今目の前でボロと埃に塗れている魔女が産まれた時の光景を思い出し、急ぐあまり気色ばった自分を恥じた。スフレの目くばせで、タルトが件の酒場から持ち帰った赤葡萄酒を懐から取り出し、タップがグラスに注ぐ。グラスはついでに持ち帰った物だが、、、折があれば返すつもりだ。

赤葡萄酒を前にした魔女の顔はハッと輝き、「いいのかい?」と何度もスフレに念を押しながら、震える手でグラスを掴むと一気に飲み干した。二杯目も三杯目も。三人はこの様子を静かに眺めていた。一本一滴残らず飲み終えた魔女は「ありがとう…」と言って、暫く考え込んでいたが、やがて決心がついたらしく話し始めた。

「いい機会だから、タルト、タップも聞いておくれな」


魔女の話はこうだ。

地球からこの惑星に「様々な種」をテレポートするには多大なエネルギーが必要だった。更に、惑星を負のエネルギーから護るために、丸ごと、魔術で覆い、守らなければならないとマスターは考えた。

既に、数多の魔女を生み出していたマスターのエネルギーは確実に限界へと向かっている事は、マスター自身よく解っていた。それでも、やるべき事としてマスターは突き進んでいく。

アニマルをアニマル人とする変容は殆ど魔女に任せながら、マスターは惑星の覆いに注力した。惑星を、一応東西南北と四分割したが、北の大地を魔法界の地と定めた。魔女以外足を踏み入れる事は出来ない。北の大地が桁違いに広いのはこの為である。


惑星がスタートして、100年ほどは平和そのものであったが、、、

ある日、マスターは魔女の数が少なくなっている事に気付いた。暫くぶりに洞窟で教壇に立ち、教義を論ずるマスターの目に入ってきた光景は奇異なものだった。

これまでになくガランとしているのだ。魔女にとってマスターは絶対無比の存在である。何があっても、マスターの教義だけは無視しない。それは、マスターに近付く事に依って、マスターから発散されるエネルギーの恩恵を受けられる。より強いパワーを吸収できる。逆にマスターがその気になりさえすれば、片目をつぶっただけで、指を軽く鳴らしただけで、魔女の姿は露と消えてしまう。それ程威力があるのだ。

マスターは前列に座っている古参の魔女に問い質した。しかし、皆、何をしているのだ、と云うマスターに応えられる者はおらず、困惑気味に互いに顔を見回すばかりだ。

その中で、唯一後ろの方から「恐れながら」と声を上げた者があった。声を上げたのは男の魔法使いで、まだ若い。マスターは教義を終わらせ、この若い魔法使いを自分の部屋に招き入れ改めて問い質した。「恐ろしいのです、こんな事があっていいものでしょうか……」マスターの部屋に入るなり若い魔法使いは話し出した。名をライカと云う。

「偶然スネークと一部の者が話しているのを耳にしました」

それは数日前、ライカが洞窟の一角で修行をしていた時だったと云う。

ライカはいつも通りマントに身を包み、蝙蝠の様に天井からぶら下がり精神統一に務めていた。 暫くすると、複雑に繋がり絡み合っている洞窟のあちこちから、6人の魔女が集まって来た。ライカは思わず息を殺した。集まったのがスネークはじめ、スネークの腰巾着ばかりだったからだ。マスターの往年時には有り得ない事だったが、マスターのパワーが下降するにつれ、スネークの存在が色濃くなっていった。

「これで全員か?」洞窟に響き渡るスネークの声に6人全員が頷いた。

「まあ、いいとするか、既に大半の奴は消し去った。老いぼれはもうパワーがない。明後日が朔日で襲撃には打ってつけだ。恐れるな!諸君!いよいよ無念を晴らす時が来た‼」


「無念とは…?」マスターの問いにライカは首を振った。スネーク一派はそれで散り散りに姿を消したと云う。


「なるほど…そういう事か…」暫く考え込んでいたマスターの眼光に光が差した。

「どういう事でしょうか?」恐る恐る尋ねるライカにマスターは言った。

「6人だった。目を盗んで人間と契りを交わしたのが6人だったのだ」人間と契りを交わすのがどういう事か知らないライカは、勿論、何故それが無念に繋がり仲間を裏切りマスターに盾突く事になるのか理解できない。

しかし、今は説明している時間が惜しい、古参の魔女に聞くのだ、と言うなりマスターの姿は忽然と消えていた。


スネーク一派の反乱による戦争、粛清が始まったのはスネークが計画した朔日の前日。ライカの進言があった翌日である。急襲された形のスネーク一派は初めこそ慌てふためいたが、すぐに態勢を立て直し逆襲に転じた。スネーク一派はたった6人とは云え文字通りの精鋭部隊である。パワーの衰えたマスターが指を鳴らしても、息を吹きかけても、6人には通じなかった。6人全員が反射布で全身を覆ってマスターの魔術を撥ね返すからである。

戦争は52年続いた。

この間にスネーク一派は3人に減っていたが、マスター軍団の方も壊滅的だった。

夥しい数の魔女が露と消えたが、マスター軍団に手を貸してくれたアニマル人一世たちの命もまた、然りである。

戦争が激化する中、遂にスネーク一派はスネーク一人を残すのみとなったが、マスターのエネルギーも尽きようとしていた。最早、スネークを封印させるべく水晶玉は、命の焔が消えようとしているマスターと、生き残った3人の魔女のパワーでは力不足で到底封じ込める事はできない。最後の頼みは新しく魔女を生み出す事である。新しく創造した魔女の心臓、則ち水晶玉にありったけのエネルギーを注入すれば、スネークと言えども逃れる事はできない。

マスターと共に消えゆく3人の魔女は、生き残ったアニマル人一世の見守る中、最後の魔女に、こう言い残して消えた。「心配する事はない。スネーク一派は壊滅した。スネークはこの通りお前の心臓である水晶玉に封じ込めた。寿命も殆ど残っていない。ひきかえ、お前には私たちのエネルギーを一滴残らず注入したから二千年の寿命がある。この先この惑星を守っていくのがお前と、今ここに居る者たちの使命だ。」マスターがこう話している間にも二人の魔女が露となり消えた。

私は行くが、私は死ぬ訳ではない。精神は永遠に生き続ける。皆、この惑星を頼むぞ。  そうそう、私には名前と云うものがないはずだったが、、、実は先頃天上より賜った。

      ――アウトクラトウル――

これが私の……名前…らし…い……

最後の魔女が露と消えた。次は…当然マスターも、、、とアニマル人一世たちが固唾を呑む。ところが、露と消えるのかと思いきや、天上から眩い程の光が降り注ぎ、光の渦がマスターの身体を包み込む様に天上へと上昇して、、、そして、消えた。


「私の寿命は風前の灯火さ…ああ…そうさ、なのに、ドラゴンの寿命は二千年はあるはずさ…」 だから、どういう事か解る様に説明しろ!とイキるタルトに構わず魔女は続けた。 「私の寿命が尽きた時、ドラゴンの封印は解かれる。」

「知っているぞ。お前があの時の…最後の魔女だな?」 ハッとした顔で魔女はスフレを見つめた。 「何があったのだ?」静かに問いかけるスフレ。魔女は暫く沈黙していたが、イラつくタルトを諌めるスフレの手を取り、哀願する様に 「私を許してくれ」と言い話し出した。

「駆け出しの私でも、魔術は面白い様に操れた。何でも思い通りさ。しかし、全ての魔女がそうだった様に、私も古文書には目を通して、更なる高みを目指して修業した。一日も欠かさず。スフレ、あなたなら知っているだろう、魔女はアニマル人の前でいたずらに魔術をひけらかすのは御法度だ。だが、未熟な私は…」魔女はここで一旦言葉を切ってさめざめと泣き出した。

タルトが腕組みをして怒りを抑えている。時間がないのだと顔に書いてある。

タップも、スフレとて思いは同じだが、待つしかない。

「……つい、…」 やっと口を開いた魔女の一声が「つい」で三人は仰け反った。

「つい、何だ?」しびれを切らしたタルトがスフレの前にグイッと出た。

「…つい、、、」言いあぐねている魔女に、タルトが覆い被さる様に正体を現す。耳まで裂けた赤い口を開いたタルトの姿にタップは素早く身を隠したが、魔女は特段驚きもせずスマナイと言った。「…その、…つい、ドラゴンが封じ込められてるのをいい事に、、、ドラゴンと話をする様に…」 「あの者と関わったらタダでは済まない、知らなかった訳ではあるまい!」流石にここでは スフレの厳しい声が飛んだ。

「ああ…勿論知っていた。知っていたが、その、何というか…私は独りで、」

折角魔術が上達しても、誰にも認めてもらえない、自分自身が新しい魔女を産み出すにはまだ修業が足りない。そんな鬱々した気分を抱え いつも通り洞窟に籠って古文書を紐解いていた時、声をかけてきた者があった。 スネークである。

スネークは寿命が尽きてしまう前に懺悔をさせて欲しいと持ち掛けてきた。最初のうちは魔女も掟を盾に聞く耳を持たなかったが、数段上手であるスネークの泣き落としに、ほんの少しだけ感情移入してしまった。糸口が解れた隙間から、スネークは実に巧みに未熟な魔女を手玉に取っていく。

「どんな話に乗ったのだ?」スフレの厳しい質問に、魔女は初めてオドオドし出した。「言えよ!時間がないんだよ!」掴み掛かるタルトをタップが必死になって押える。

「悪気はなかったんだよ!コントロールする自信があった!」

スネークは禁じられている人間と契りを結び、子を成してしまった。マスターの怒りに触れながらも、仲間の助言で罰を逃れたばかりか、マスターが罰を与えなかったのは、ひとえに、マスターに継ぐ実力の持ち主だったから、と、耳打ちする者があった。スネークに野心が宿った瞬間である。みるみるうちに老いさらばえていくマスターを見るにつけ、この惑星の支配者になるという野望は膨らむ一方であった。

スネークの他にも5人の魔女が人間と契りを交わしていたが、子を成したのはスネークだけである。

崩壊寸前の地球から新しい惑星にテレポートできるのはマスターだけである。いかにスネークが優秀であっても、マスターのパワーの前では段違いの差があり、他の5人とタッグを組んだとしても到底不可能だった。

だが、テレポートする度にマスターは確実に衰えていく。この現象を目の当たりにしたスネークはほくそ笑んだ。時間はある。待っていればいいのだ。

しかし、ここで思いがけない計算違いが起きた。マスターが人間のテレポートを拒絶したのだ。元々、人間の強欲に嫌気が差して進めたテレポート計画である。アニマルの為の惑星。そこに人間の入る余地はない。それが例え、弟子と契りを交わした人間であってもだ。スネークにはテレポートのパワーがない。スネークは跪きマスターに懇願したが全く相手にされなかった。勿論、他の5人とて扱いは同じである。それでもスネークは諦め切れず、子供たちだけでも助けてくれと懇願したがマスターの気持ちは動かなかった。スネークには妻と男の子二人の家族があったのだ。

こうして、廃虚と化して行く地球に愛する家族を捨ておかねばならなかったスネークは自分の非力を嘆き、救い出されたアニマルを憎み、マスターと、マスターこそ唯一無二の絶対神と崇める大多数の魔女を恨む様になった。尊大で粗暴に身を費やしていくスネーク。勿論、 惑星を支配するのはスネークであって老いぼれのマスターではない、と、傲岸不遜に言い切るスネークに賛同する者など殆どいない。スネークはこれらの非賛同者を次々と葬っていき、ひたすら腕を磨き復讐のチャンスを窺っていた。


「そして、とうとう戦争が始まった。それは解っている。」スフレの物静かな言葉に魔女は小刻みに頷き、再びスマナイと言って話を戻した。

「ドラゴンは、私が得意になって魔術をひけらかす度、細かなアドバイスをする様になって…」

勿論、最初のうちは完全に無視していたが、アドバイスは的確に問題点を捉えている。スネークを反逆者として嫌悪していた魔女だったが、繰り返される絶妙なアドバイスを聞くうち、心に隙間が出来ていった。ダメ押しはスネークの心の告白である。

禁じられている人間との契りで、マスターから厳罰として妻子を見捨てる事を余儀なくされて歯向かった事。一日も妻子を思わぬ日はなかった事。今こうして、囚われの身であっても… スネークの巧みな話術に乗せられた魔女は、ここでひとつミスを犯してしまう。感情移入しただけならまだしも、スネークの目を見てしまった事だ。何が起ころうと魔女同士目を合わせてはならぬと云う鉄の掟を忘れて。

「ドラゴンは…私から少しずつパワーを盗み、記憶を盗み…」 ある日、突然自分の名前を思い出せなくなっている事に気付いた魔女は、名前はおろか、魔術を唱える呪文さえ思い出せず、水晶玉のスネークにどういう事かと尋ねた。スネークは大笑いである。ゲラゲラゲラゲラ……「惜しかったなあ、もうチョイだったが、まあ、いいさ。お前の寿命は俺が受け取った!領収書はいるかい?長生きしろよ、と言っても無駄だったな。お前の寿命はあとどれ位かな?お婆ちゃん‼」 洞窟内に響くスネークの嘲りに魔女はやっと気付いた。 慌てて洞窟内の水鏡に己の姿を映して見た魔女は気を失ってしまった。若々しく美しい女の姿はヨレヨレのみすぼろしい老婆の姿へと変貌していたのである。


「いつまで?」 それまで魔女の長い話を大人しく聞いていたタルトが突然割り込んできた。

「いつ…つまり……」タルトにしては語尾が控え目で言いにくそうである。

しかし、「いつ死ぬか?」の魔女の問いには三人同時に頷いた。

「今夜中か、明日か、一年後か……」三人は同時にため息をついた。

「とにかく、私の寿命が尽きた時、ドラゴンは封印を解かれる。」

「その、、、スネークがドラゴンとはどういう事か?」これまで、一言も発してこなかったタップが疑問を呈した。

「それはワシから説明しよう」スフレが憔悴しきっている魔女を気遣い 訳を話し出した。戦争に負けて最後の反逆者となったスネークは、抵抗も虚しく水晶玉に囚われたが、この時、地底の奥深くに君臨する魔王と取引を交わした。魔王の遣いであるドラゴンの姿と引き換えに永遠の命を手に入れた。ドラゴンの生殺与奪権は魔王……だけだ。永遠の命さえあれば、いつか必ず復活できる。そしてやがては宇宙の覇者となる。スネークの狙いはそこにある。

「そうだったな?」 重い口調のスフレに魔女は力なく頷いた。

それで自棄になって手放した……か、、、タルトがガックリと項垂れたその時、

タルトの手に握られた袋の中の水晶玉が、四人に気配を悟られる事もなくゴロリと動いた。












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