第190話 狼煙をあげろ!
この世界ではまだ石炭燃料が主なので、石油は殆ど使用どころか採掘すらあまりされておらず、そのため原油は市場にほとんど出回っていない。
原油があれば原油精製の際に抽出されるナフサなどの、ナパーム弾に使用される原材料が手に入るのに、現状ではむつかしいのが現状だ。
石動も原油を求めて冒険者ギルドにも調査依頼してみたが、今のところ、これといった成果は無かった。
何かいい手はないものかと石動が考えていた時、ふとエルフの郷がサラマンダーの集団に襲われたときのことを思い出した。
そういえばあのとき、サラマンダー達は口からナパーム弾のようなゲル化した火の玉を飛ばして攻撃してきていなかったか?
彼らの特性としてそういうスキルがあるのなら、もしかしてサラマンダーの魔石からゲル状の可燃剤が「抽出」出来るのではないだろうか?
そこで石動は試しに錬金術スキルを使い、魔法陣に修正を加えてから魔石を「抽出」「精製」してみたところ、サラマンダーの魔石からゲル状の可燃物を作り出すことに成功した。
サラマンダーの魔石に雷管の代用品としてだけでなく、こんな使い方があったとは・・・・・・。
石動は魔法陣と錬金術の新たな可能性を見つけた思いだった。
原料であるサラマンダーの魔石は、まだマジックバッグの中に大量の在庫がある。
これで焼夷弾を作る可能性が出てきた、と石動はほくそ笑む。
石動が取り出した赤いテープを巻いた焼夷手榴弾に詰められたゲル状の可燃剤は、このとき作り出したサラマンダーの魔石から「精製」したものだ。
そして石動がMk2破片手榴弾ではなく、焼夷手榴弾を取り出したのには理由がある。
先程、
ということは、皇城で石動の合図を待つはずのマクシミリアンに、この拠点の場所などの情報が全く届いていないと判断して間違いない。
それならば石動がマクシミリアンに合図を送るためにも、派手な狼煙を上げてやろうと考えたのだ。
石動は、PPSh41サブマシンガンをスリングで胸の下あたりに吊るすと、右手で焼夷手榴弾を握り、左手で安全ピンを抜いた。
余談だが、片手で手榴弾を握って安全ピンのリングを歯で噛み咥えて抜くのは、映画や漫画の世界だけの話である。
安全ピンを抜くには手榴弾にもよるが、3~8キロの負荷がかかるのだ。
2リットルのペットボトル2、3本分の重さを、歯で咥えて引っ張ることが出来る人間は、そうはいないだろう。
普通の人間が実際にやれば、歯が欠けたり抜けたりするだけで、重大事故につながりかねない。
石動はピンを抜いた手榴弾を監禁部屋の真ん中に放り投げると、素早く部屋を走り出てドアを閉める。
石動がドアから離れ、廊下の壁にもたれて蹲ったと同時に、部屋の中で焼夷手榴弾が爆発した。
ドアが爆発による衝撃波と爆風で吹っ飛び、廊下の壁に突き刺さるような形で燃えている。ドアの内側にはゲル状の可燃剤が飛び散り、炎が燃え盛っていた。
立ち上がった石動は油断なくPPSh41サブマシンガンを構え、周囲を警戒しながら、部屋の中を覗き込んでみる。
手榴弾の爆発により、衝撃波で屋根が抜けて星空が見えていた。
壁も衝撃によって穴が開き、隣の部屋とつながっている箇所があった。
一面に飛び散ったゲル状の可燃剤が壁や天井に飛び散っている。
ゲル状可燃剤は飛び散った先で激しく炎をあげて燃えており、すでに部屋の中は手の付けられない状態だ。
屋根が抜けた場所からも、ジェットストーブのような炎が夜空高く上がっている。
爆発に驚いて他の部屋から廊下に飛び出してきた男たちを、石動はPPSh41サブマシンガンを使い、短く引き金を引いて発砲する点射で倒していく。
発射サイクルが早いので、2~3発の発砲のみで抑えるのが難しく、石動が慣れるのに少しかかった。
あらかたこの階にいた部員たちを片付けたところに、何人かの男達が階段を駆け上がってくる音が聞こえてきた。
石動はMk2破片手榴弾を取り出すと、安全ピンを抜き、階下へ放り投げる。
ピーンッと安全レバーが外れ飛び、ガタンゴトンと手榴弾が階段を転がっていく音がしたかと思うと爆発音が響き、数人の悲鳴があがった。
石動はPPSh41サブマシンガンを構えて階段を駆け下りながら、手榴弾の爆発によって破片を受け、倒れて呻く部員達に容赦なく発砲する。
一階には
石動は「今行くから待ってろよ!」と呟きながら、階段を登ってきた部員たちに止めを刺し終える。
そしてPPSh41サブマシンガンの空になったドラム弾倉を抜き、マジックバッグから新たにフル装填のドラム弾倉を取り出すと、交換して再装填した。
皇城は小高い丘の上に建っているので、貴族街や城下街だけでなく、帝都の外まで容易に見渡せる位置にある。
そのため、とくに皇城の四隅にある、建物より高く造られた物見塔から眼下を見渡せば、城下で異変があればすぐに分かるようになっているのだ。
そして今、四隅の物見塔に近衛騎士を見張りに配し、異常があればすぐに報告するよう、申し付けたマクシミリアンは、見張りの騎士たちからの報告を待っていた。
「ザミエル殿につけた騎士からの連絡すらないとは・・・・・・。ロサ殿の言う通り何かあったとしか思えんな」
マクシミリアンは配下の騎士たちを武装させ、いつでも出動できるように準備させてあり、石動からの合図か騎士からの連絡を今か今かと待ちわびていた。
ロサにはすぐ後を追うと言ったのに、まだ出発すらできていないことがもどかしく、マクシミリアンはイライラして、つい爪を噛みそうになるのを堪える。
そこへ伝令役の騎士がマクシミリアンに駆け寄ると、膝をついて報告した。
「殿下! 城下で爆発と火の手が上がったのを発見、と物見塔から報告がありました!」
「それだ! 火の手が上がったのはどの地区だ?!」
「西門近く、25ブロックの倉庫街辺りになります」
「よし、分かった! 皆の者、騎乗せよ! 目標は25ブロック倉庫街の火災現場だ!」
「「「「はっ!」」」」
マクシミリアンは簡易椅子から立ち上がると、愛馬に駆け寄り素早く騎乗する。
その腰には冒険者時代から愛用している長剣があった。
「吾輩に続け!」
逸るマクシミリアンを先頭に、近衛騎士団50名が騎馬で皇城の城門を駆け抜けていく。
その頃、ロサも近衛騎士と共に、寝静まってひと気のない市場がある広場まで来ていた。
ひと気が無いのを幸いに、街中でも騎馬のまま進み、探索していたのだ。
そして、遠目に大きな爆発音とともに、真っ暗な夜空を焦がす火柱を目撃する。
「ロサ殿! あれは?!」
「間違いないわ! ザミエルの仕業ね。あそこはどの辺りかしら」
「おそらく倉庫街の方ではないかと思われます。急げば30分もあれば着くでしょう」
「20分で行くわよ!」
ロサと一緒に行動していたのは、帝都への旅でも同行していたヤコープス騎士だった。
二人は火柱が上がっている方角へと馬首を巡らせると、猛然と走り始める。
「(ツトム、待ってて! 今、私が行くから!)」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます