第180話 シュパーギンPPSh-41サブマシンガン

 前世界でのMk2手榴弾に使用される炸薬がTNT火薬だということもあるが、TNT火薬は衝撃に鈍感で毒性が少なく、金属に反応・作用しないという特性を持ち、取り扱いしやすい安全な火薬として定評があった。


 軍隊であまりに広く使われた結果、TNT火薬は軍用火薬のベンチマークとなる。

例えば原子爆弾などの威力はTNT火薬の威力と比較して標記されるようになったほどだ。広島級原爆なら15キロトン(TNT15,000トン分)といった具合に。

 

 幸い、TNTすなわちトリニトロトルエンの原材料となるトルエンは、クレアシス王国で精錬したものを大量にストックしてあった。

 トリニトロトルエンを作るには、トルエンを混液で2段階ニトロ化する必要がある。

 石動イスルギは錬金術スキルの腕の見せ所とばかり、早速準備に取り掛かった。


 作業台に魔法陣を広げた石動は、錬金術スキルを発動させる。

 

 トルエンに一定の割合で混ぜた硫酸と硝酸の混液を「調合」し「組成」する。

 すると出来上がったものは「モノニトロトルエン」だ。

 それをもう一度「調合」「組成」させると「ジニトロトルエン」が出来る。

 更に「調合」「組成」すれば、やっと「トリニトロトルエン」の完成だ。

 最後に「錬成」をかけ、出来た黄色っぽい結晶を見ると「トリニトロトルエン」という言葉が頭の中に浮かんできた。


 TNT火薬の完成だ。


 錬金術スキルが上がったせいか、以前、ジニトロトルエンを作った時より、スムーズに出来ている。それに加えて、スキルアップの副産物として、一度作ったものは原材料に「錬成」をかけるだけでショートカット作成できるようになっていたのは嬉しかった。

 石動はこの際なので、TNT火薬は多めに作っておくことにした。


 手榴弾の弾体は、鋳型として砂型を造り、溶かした鉄を流し込んで大量生産しておく。

 鋳型の鉄が冷えるまでの間に、信管部分の作製に精を出す。

 構造は銃などに比べればシンプルなので、さほど手は取られなかった。


 弾体が固まると、バリを取りTNT火薬を詰め、信管を嵌め込んで調整していく。

 石動はいつしか黙々と手を動かし、集中して作業に取り組んだ。


 こうして1日の終わりには、Mk2破片手榴弾200個が完成する。


 Mk2破片手榴弾のTNT火薬使用量は約60グラムと、意外に炸薬量が少ないが、これは炸薬を少なくして弾殻を重くすることにより殺傷力を高める狙いによるものだ。

 石動は、逆に火薬量を2倍以上の150グラムほど入れて爆発力を高めた手榴弾も100個ほど造っておいた。

 こちらは区別のため弾体表面にパイナップルのような溝は作らず、ツルっとした外観にして分かりやすくしてある。


 そのため外観がM26手榴弾こと通称「レモン」に似ているが、使用する炸薬はRDX火薬ではなくTNT火薬のままだし、弾殻裏側に破片用の切れ込みが入った鋼製ワイヤーも張り付けていないので、似て非なるものだ。

 どちらかと言うと、Mk2破片手榴弾よりも大きな爆発力によって、衝撃波などでの周辺破壊効果を狙ったものなので「攻撃型手榴弾」に近いかもしれない。

 今のところ「非殺傷型手榴弾」の出番はなさそうだから、差し当たってこれだけあればいいだろう。


 石動は満足した。

 今日の目標はこれで達成だ。

 明日はいよいよ、かねてから懸案だった「サブマシンガン」の設計と作製に取り掛かるとしよう。

 


 手榴弾を作製した翌日、作業台に向かった石動は、少し悩んでいた。


 諜報部暗部との屋内での遭遇戦においてショットガンは極めて有効な銃器だったが、全長が長いので取り回しに難があることと、装弾数が少ないので煩雑にリロードを繰り返す必要があった。

 そのため石動は今後の事を考え、取り回しが良く、接近戦で有効に弾幕を張ることができるサブマシンガンを新たに作成しようと決めたのだ。


 それにクレアシス王国を出立するまでに箱型弾倉ボックスマガジンの製作が間に合わなかったのが心残りだったので、石動がエルドラガス帝国に来てからは、まずプレス加工機などを製作するなどして研究を続けてきた。


 いままでの石動の銃製作は基本、鋼材からの削り出し加工であり、プレス加工はほとんど使用していなかったので、新たな工程が必要だったのだ。

 プレス加工は製造工程を簡略化でき、大量生産向けの加工法ではあるが、蒸気機関ですら未発達なこの世界で、動力が人力では大量生産など不可能でありメリットは少ない。


 しかし、箱型弾倉ボックスマガジンなどの加工には、正確に鋼板を曲げ、大量に加工するプレス加工技術が必須なのだ。


 そのため石動は、鋼材を圧延加工して鋼板にしたのち、それをハンドルプレス機で圧力をかけることで、せん断・曲げ・絞りなどの加工ができるラインをようやく造り上げた。


 まだまだこれからも製造工程の精度を上げ、内容を詰めていく必要はあるが、今のところ大量生産を前提としていない家内手工業的なプレス加工工程としては、これで充分間に合うだろうと石動は思っている。


 プレス加工の手段を得たということは、新たに銃を造る選択肢が広がったということでもある。


 そこで石動は悩んでしまった。

【サブマシンガンはどのモデルを造れば良いか】問題に直面したからだ。

  石動がガンマニアであり、更にオタクであることが、その悩みを深くしていた。


「(う~ん、特殊作戦群時代になじみのあるヘッケラー&コックのMP5とかは、プラスチックの加工技術がないから、現状では造れないしなー。スキル的にも加工能力的にも第二次世界大戦前後の銃あたりでないと難しそうだ・・・・・・)」


 石動はアメリカで、米軍との合同訓練で個人的に仲良くなったグリーンベレー隊員の家などに招かれた際、ガンコレクターだった隊員から様々な銃器を撃たせてもらった経験を思い出す。


「(トンプソンM1928は連射速度が速いせいか、銃は重いのに45口径の反動が強くて扱い難かったな・・・・・・。同じ45口径でもグリースガンM3A1は、連射速度が遅いこともあってコントロールしやすい銃だった。

 シュマイザーMP40も悪くはなかったけど、思ったより銃が大きかったという印象が強いかも。

 スターリングL2A2も良い銃だったな、コンパクトで撃ちやすいし。ただ、ステンMKⅡはちょっと好きになれなかった。個人的な感想だけど、いまいち信頼がおけないというか・・・・・・歴史的銘銃に失礼かな。

 グリーンベレーのイチ押しはカールグスタフM45だった。ベトナム戦争でも使用され、どんな過酷な状況の中でも抜群の信頼性があると熱く語ってたっけ・・・・・・)」


 実は、石動はサブマシンガンを造るにあたって、すでにこのモデルは絶対に造ると決めている銃があった。


 それは旧ソビエト連邦赤軍が採用していたシュパーギンPPSh-41サブマシンガンだ。


 特徴的な71連ドラムマガジンを装着したその外観や、速い連射速度が発する発砲音から、ヨーロッパではバラライカ、日本ではマンドリンと俗称された銃である。


 PPSh41は世界大戦中の1941年に、それまで採用されていたPPD1940サブマシンガンを改良し、生産性を向上させ制式となったサブマシンガンだ。

機関部、銃身被筒などを鋼板プレス加工と電気溶接で成型することで、大量生産を可能としている。

 また、銃身被筒の先端が斜めになった部分は簡易的なコンペンセーターの役割を果たしていて、銃口から出たガスは此処にぶつかり、被筒上方に開いた穴から吹きだすように設計されているのだ。

 そのおかげで銃全体の反動を抑制し、上方に抜けるガスの反作用で銃口部の跳ね上りも減少させる効果がある。

 連射速度が毎分700~900発と速いのにコントロールしやすいのは、銃自体が重いせいもあるが、このような合理的な設計と小口径高速弾を使用するためでもあった。


 円盤状のドラムマガジンに71発も詰め込まれる弾薬は7.62x25mmトカレフ弾だが、これはモーゼルミリタリーC96に使用する7.63x25mmマウザー弾のコピーであり、形も大きさも全く同じなので新たに銃弾を造らなくてもそのまま利用できるというのは、石動にとって大きな利点だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る