第173話 視察
一週飛んで、すみませんでした!
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そんなある日、突然マクシミリアンが遠出をする話が持ち上がり、
目的地はブルクハウゼン侯爵家の領地で、侯爵家令嬢でありマクシミリアンの婚約者でもあるアルベルティナに同行して領地視察に行くのが目的だ。
マクシミリアンが乗る馬車の周りには近衛騎士が20名ほど、護衛のために騎馬で馬車の周りを固めて同行することになっている。
突然の視察だが「視察」とは名ばかりで、離宮に籠りきりの生活に飽きたマクシミリアンが外出したいと駄々をこね、やむなく安全な外出先として侯爵領に白羽の矢が立ったというのが本当のところだ。
侯爵もいつもなら帝都の屋敷にいるのだが、たまたま領地にどうしても外せない用事があり滞在中なので都合が良いということらしい。
そうと決まれば、早く外に出たいマクシミリアンは素早く行動を起し、あちこち手を回し視察の許可を取ってしまったのだ。
出発の日、朝早くからアルベルティナ嬢が侍女を伴い皇城に来ていて、マクシミリアンと連れ立って馬車に乗り込む。
マクシミリアンが乗る馬車にはアルベルティナ嬢に侍女一名とロサが乗ることなり、石動は御者役の近衛騎士と並んで御者台に座り、辺りを警戒することにする。
皇族が乗るような馬車なので中もさほど狭くはないが、女性比率が高いのもあって石動には気詰まりに感じたので、外の見張りを買って出たというのが正直なところだ。
ブルクハウゼン領までは、早馬で駆け通したなら一昼夜で着くくらいの距離なので、それほど遠くない。ゆっくり馬車で行くならば道中どこかで一泊したうえで、翌日の夕方には到着するのが普通らしい。
遠くなくても二日も高貴な女性たちと、密室である馬車の中で顔を突き合わせる度胸は石動にはなかった。
「(ロサ、ありがとう!)」
石動は心の中で、馬車内での護衛を引き受けてくれたロサに、両手を合わせてお礼を呟く。あとで、ロサになにか埋め合わせをしなければ、と心の中にメモしておくのも忘れない。
マクシミリアンから今回の視察の話を聞いた時、当然、石動は護衛する身にもなってくれと長距離の外出に反対した。
するとマクシミリアンからは、逆にずっと城に閉じ込められる身にもなってほしいと反論されてしまう。
大きな体を丸く縮めながら、切々と冒険者稼業をしていた時の自由な暮らしが懐かしい、また外で狩りがしたいと涙目で訴えてくるマクシミリアンに、石動は根負けしてしまったのだ。
石動などは正直、そんなに元の冒険者稼業が良いなら第三皇子などという肩書を捨てて逃げ出せば良いのに、と思ってしまう。
第二皇子との跡目争い問題が片付くか、どちらかが死なない限り、どこに行っても暗殺者の影がつきまとうのは確実だ。
仮に逃げたとしても、ひとりでは何処かの路地裏か、人気のない山の中で死体になって転がるのが関の山だろう。
ここは嫌でも踏みとどまり、戦って生き残るしか、マクシミリアンに道はないのだ。
仕方ないので石動は頭を切り替えて、マクシミリアンの外出時に第二皇子陣営がどう出るかを、見極める良いチャンスだと考えることにした。
流石に皇城内では諜報部や暗部も手を出しにくいだろうから、マクシミリアンが外出すれば隙が生じたとばかり、手を出してくる可能性が高いと石動は思っている。
そういえば、第一皇子の死亡も乗馬での外出時だったな。
石動がそんなことを考えつつ御者台に座っていると、馬車が走り出して皇城の門をくぐった辺りでふと、なんとなく首筋あたりに視線を感じたような気がして皇城を振り返る。
皇城の数えきれないほどある、どれかの窓から、誰かがこちらを見ていたような気がしたのだ。
逆光でもあり、どの窓の人影からかは分からなかったが、石動は充分気を付けなければと感じ、気を引き締めた。
石動が視線を感じて振り返った先の皇城の窓には、マクシミリアン一行が出発していく様を見下ろしているふたりの人影があった。
「ほう、あの男、こちらを振り返って見たぞ。なんだか視線が合ったような気がするな。なかなかに勘の良い奴だ」
「ふむ、なんらかのスキルが働いているのかもしれませんな」
窓辺に立ち、出発する馬車の隊列を見下ろしていたのは、ベルンハルト第二皇子と諜報部のラファエル部長だった。
ベルンハルト皇子が囁くような声で、ラファエル部長に問いかける。
「どうだ? 万事、抜かりはないか?」
「はい。まずは、小手調べといったところでしょうか。帝都を出れば、見通しの悪い山や森も多いですからな。そこには盗賊も出没すれば魔獣も跋扈する地ですので、皇族の馬車とはいえ、どんな事故が起こるかわかりませんぞ」
「ククク、無事に侯爵領に着けば良いな」
「まことにおっしゃる通りで。少しは楽しめると良いのですが。まぁ、この程度のことで終わるようなら、それまでの者と言うことなのでしょう。私の手間は省けますがね」
「まったく、そなたも人が悪い。我も事故が無いことを祈っておくこととしよう」
二人の人影は窓辺を離れると、影のように皇城の奥に消えていった。
石動と並んで御者台に座る近衛騎士は、クレアシス王国から帝国までの道中で、護衛として同行してくれたサンデル騎士だった。
フィリップやヤコープスも、騎馬で進む護衛の近衛騎士の中にいたので、知った顔がいるのは石動にとっては心強い。
「久しぶりだよね、サンデルさん。三人とも元気そうで良かった」
「いやいや、ザミエル殿こそご活躍で。聞いてますよ、皇帝閣下が観覧された銃のお披露目の事は。我ら近衛騎士団の中でも話題になっていました」
「そうなの? 悪い噂になっていなければいいけど・・・・・・」
「脳筋ゴリラどもの第三師団の連中が、部隊自慢の鎧と盾を簡単に銃で撃ち貫かれた事に、大きな衝撃を受けていたそうです。脳筋ゴリラどもは、たとえ鎧は貫けても俺は貫けん! などと強がりを言っているそうですが、ワイバーンや亜竜ですら敵わなかったのに馬鹿なのではないか、と笑い物になっているそうですよ」
「いやいや、サンデルさん達もワイバーン倒してたじゃん! ていうか、もうワイバーンの件はそんなに広まっているの?!」
「そりゃもう! 亜竜を単独で倒すなんて、にわかには信じ難い偉業ですからね。それに私らはザミエル殿が撃ち落とした奴を、ただ止めを刺していただけですし。
ワイバーンをそんなに簡単に倒せるような武器なら是非導入してほしいと、皆興奮していましたよ」
「あちゃ~、あの時とは全く違う銃なんだけどな・・・・・・。そうだ、討伐のことがバレてるんだったら、皇帝陛下に亜竜の素材とか献上しなくて良いのだろうか?」
「マクシミリアン殿下が何も言わないなら、献上なんてしなくて良いんじゃないですかね? あまり気にしなくていいと思いますよ」
「う~ん、そんなもんかな・・・・・・」
石動は御者台に座ってサンデル騎士と気楽な会話をしながらも、着剣済のウィンチェスターM12を膝の上に置き、油断なく構えていた。
石動は今回の旅のために散弾も通常の
3インチマグナム弾とは、通常の
全長が長くなった分、火薬量や散弾も多めに詰めることが可能となり、威力も射程も増大する。
まさに「マグナムバックショット」という名にふさわしい。
石動は今回の旅では、暗部による奇襲などの対人戦が起こる可能性が高いと判断した。
マグナムバックショットは、威力としては熊でも足止めできるような装弾なので、人に対してはオーバーキルではあるものの、接近戦での優位さを考えるとこれほど頼もしい装弾はないと考えている。
なにせ一発撃つたびに、鉛球が15発も敵に向かって飛んでいくのだ。
近距離で戦う敵にとって、弾幕をかいくぐるのはまず不可能であり、悪夢でしかない。
中・長距離を狙うなら、マリーンM1895かモーゼルKar98kに持ち替えれば良いだけ、と割り切っているからだ。
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お待たせしました!
完全復活、という訳にはいかず、限定復活ではありますが、なんとか投稿出来てホッとしました。
病状は詳しくは言えませんが、どうも車で言うところのエンジンにトラブルがあるようで、復活には時間がかかりそうです。
まだ週のうち何日かは調子の悪い日があったりするので、現状、週一回・一作品の投稿がやっとの状態。
そのため、私としては苦渋の選択ですがこちらの「異世界スナイパー」を優先して週一回の投稿を目指すことにしました。
体調が回復したり、余裕ができれば別途投稿中の「人狼転生」も書き続けたいと思っているので、不定期にはなりますが投稿したいと考えています。
ちょっと、新作での毎日投稿は無理がありましたかねー(苦笑)
楽しみにして頂いている読者の方には、大変申し訳なく思っております。
伏してお詫び申し上げます。すみません!
これからも執筆活動は、細々でも続けていきたいというのが私の願いですので、どうかご理解の程を何卒よろしくお願いいたします。
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