第159話 名誉マイスター

 ただ、冷静に考えてこの銃だけでは六発撃ち終わったのちに、再装填に時間がかかりすぎる難点があるので、不安がある。


 西部劇風にSAAの二丁拳銃というのも悪くないが、それでは12発で終わりだ。

 12発でも足りない事態になるなら逃げるしかないとは思うが、二丁めの銃は再装填が簡単にできるものがいいな・・・・・・。


 そう考えた石動イスルギはバックアップ用の銃の構想を練り始め、製作に取り掛かる。

 そうだ、ロサへの専用銃も造らなければ・・・・・・。


 石動はエルドラガス帝国に行く準備で、非常に忙しい。

 忙しいのだが、とても楽しそうに見えるのは決して気のせいではない。




 そんな忙しい日々をおくる石動のもとに、カプリュスを通じて王城のプラティウム王から呼び出しがあった。

 カプリュスと共に王城に向かいながら、石動はふと思い出して尋ねてみる。


「そういえば、クプルム殿下はどうしてるんですか?」

「フフン、下働きとしてガンガンにこき使ってやっとるわ。最初はギャーギャーうるさかったが、もう王位継承者ではないから殿下でもないし、プラティにも遠慮しないように頼まれてるんでな。しっかりと今の立場を思い知るようにして厳しく教育してやったら、最近は諦めたのか大人しくなったな」

「・・・・・・何を教育したか、聞いても? いや、やっぱやめときます」

「下手すりゃあの馬鹿にワシらも殺されていたかもしれんのだし、そりゃもう厳しく教えてやったぞ。ワハハッ!」


 石動はカプリュスの笑い声を聞きながら、プラティウム王、本当にそれでいいのか? と聞きたくなった。

 まぁ、クプルムの身から出た錆だし、仕方ないかと思い直す。


 いつものように衛兵に書類を見せると、近衛騎士がやってきて案内に立つ。


「あれっ、今日は私室の方ではないのですね」

「そうだな。謁見室でお待ちだぞ」


 いつもの打ち合わせなどで使う、王の私室ではない方角に案内されているのに気がついた石動が、カプリュスに確認すると意外な返事だった。


 えっ、なにかやらかしたっけ? と石動は心の中で少し焦ったが、カプリュスが笑顔だし、なるようになるだろうと開き直ることにする。


 

 威厳のある大きな扉を開けた先に、前世界の50メートルプールほどの大広間があり、最奥の数段高い場所に玉座があった。


 他国からの来賓を迎える時や、公式行事の際にしか使われない特別の部屋である。

 何度も王城を訪れていた石動も、この部屋に入るのは初めてだ。 


 玉座にはプラティウム王が座り、その横に第一王子であるアウルム王太子が立っている。

 一段低い場所には宰相が立ち、他にも数人のドワーフ達が並んでいた。

 

 王の前に進んだ石動とカプリュスは、片膝をついて頭を垂れて跪く。


「よく来られた、ザミエル殿よ。面を上げてくれ。そして直答を許す」


 石動とカプリュスは頭を上げて、プラティウム王を見る。


「ザミエル殿は近々、エルドラガス帝国に赴くそうだな。まだ我が国に滞在してもらいたいが、無理も言えん。残念だが、我々が引き止める訳にもいかないのだろう。

 そこでだ。

 貴殿が我が国へ齎した貢献に対して感謝の意を表したいと思い、本日この場を設けた次第だ。

 儂や皆からの気持ちを受け取ってほしい」


 プラティウム王は宰相に目をやり、頷いて見せる。

 頷き返した宰相は、巻紙のようなものを広げると、よく通る声で読み上げた。


「ザミエル・ツトム・ウェーバー殿。

 貴殿は旋盤や銃の製造技術などの提供により、我が国の技術発展に多大なる貢献をもたらした。

 よって、ここに名誉マイスターの称号を与えるものとする。

 署名、プラティウム・レクス・クレアシス三世」


 宰相は読み終えると、隣に控えていた従者を引き連れて石動の前まで進むと、立ち上がるように促す。そして証書と共に従者が手渡したケースに入った勲章を手渡してくる。


「おめでとう、これであなたも工房主の仲間入りだ」

「ありがとうございます」


 宰相は微笑みながら石動に話しかけると、元の立っていた場所に戻っていく。


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