第138話 接近
そんな
抱きしめられた石動がハッとして、上向きに顔を上げると、ロサのエルフらしい美しい顔が目の前にあった。
そっと抱き寄せると、ロサの唇が近づき、石動は優しく口づけする。
そしてしばらく二人は、お互いのぬくもりを確かめ合うように抱き合ったままだった。
その時、抱き合っていたロサが心の中で「(リーリウム、ありがとう!)」と感謝の言葉を叫んでいたとかいないとか・・・・・・。
後日、ロサがリーリウムにアドバイス通りにしたら上手くいった、と報告した時、リーリウムが「ロサ、グッジョブ!」と親指を立てていいね!としながら、「(ザミエル、チョロッ!)」と心の中で呟いたというのはまた別の話。
その翌日から、石動はロサと一緒にカプリュス工房の作業室に通うようになった。
石動も簡単な作業をロサに手伝ってもらったり、工程を説明することで、自身の考えがまとまり易いことに気がつく。つまり能率が上がったのだ。
単純に相方がいてお互いに軽口を叩きながら作業すれば、時間が短く感じると石動は分かった。要するにロサがいると楽しいのだ。
今までは、ロサはこんなことは興味がないだろうとか、専門的な話をしても退屈では、などと石動はなんとなく遠慮していた。
ところがあの晩の一件以来、遠慮なく話してみたら、ロサは話し相手としてだけではなく助手として優秀であることが判明したのだ。
石動の説明を一度聞いたら理解し、疑問は的確に質問してくる。
作業も女性なのに力持ちで、手先も器用だ。
石動はロサの知らなかった面を知り、改めて見直す思いだった。
「(そりゃそうか。あのアクィラの妹だもんな。それに力が無いと強弓は引けないよね)」
コミュニケーション能力も抜群で、最初は女に何ができる? とロサが作業室にいることに否定的だったカプリュスやラビスもあっという間にその能力を認め、仲良くなってしまう。
そして、ロサのおかげで思わぬ展開になるとは、石動も予想していなかった。
「ラビス~、この石炭みたいなのがもうなくなったんだけど、お願いしていい?」
「わかりました。ロサさん、これは石炭ではなくコークスですよ」
ロサが作業室で使う鍛冶場の炉に入れるコークスをラビスに頼んでいた。
「コークス? 石炭とどう違うの?」
「コークスとは石炭を蒸し焼きにすることで、石炭が持つ不純物である硫黄・コールタール・硫酸などを抜いたものですね。そうすることで燃やした時に石炭より燃焼時の発熱量が高くなって、高温で燃えるようになります。金属を溶かすには高温が必要ですからね。それに蒸し焼きする工程でタールなどが副産物として得られるので重宝しているんです」
「へぇー、石炭にはそんなにいろいろ含まれてるんだ。他にはどんなものがとれるの?」
ロサが感心したように言うと、ラビスは嬉しくなったようで言葉を続ける。
「あとは軽油とかコークス炉ガスとかですかね。ガスからも採れるんですよ。たとえばベンゼンとかエチレンとか・・・・・・」
「なんだってっ! 今、エチレンて言ったかっ?!」
ふたりの会話を聞くともなしに聞きながら、製造中の銃機関部を組み立てていた石動が、不意に大声をあげた。
ラビスが石動の剣幕にびっくりして、目を丸くしたまま、答える。
「え、ええ、コークス炉ガスからの副産物としてエチレンガスを副産物として採っているんです。ドワーフの農場は地下に作ることが多いので、農作物の病害防止や果物を成熟させるの使うんですよ」
「ラビス、それ、是非分けてほしいんだけど、お願いできるだろうか」
「わかりました。何に使うのか知りませんが、どのくらい要りますか?」
「そりゃもう・・・・・・できるだけたくさん?」
「分かりました・・・・・・この部屋に持ち込める工夫がついたら、連絡しますね」
「是非お願いします!」
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