第127話 雷管作製

 よしっ、成功だ。


 石動イスルギはホッとして、大きく息を吐く。

 それから限界がくるまで、石動はB火薬とコルダイトを造り続けた。

 眩暈を感じ始めた時に、すこし残っていたニトログリセリンは、危険なので珪藻土に吸わせて容器に入れ、マジックバッグにしまい込んでおく。


「(フフッ、この世界で初めてダイナマイト造ってしまった・・・・・・。ノーベルいないし、いいよね?)」

 

 セーフルームに置いておくことも考えたが、万一を考えて異空間ともいえるマジックバッグの方が安全と判断したのだ。

 ノーベルの発明と同様に珪藻土に染み込ませれば、ニトログリセリンも安定するだろう。

 導火線もつけようか迷ったが、今回はパスすることにした。


 そのほかの出来上がった火薬類はセーフルームの中に置き、重いドアにカギをかける。

 明日は火薬づくりの続きと、雷管の製作にかかるつもりだ。


 翌日、作業部屋に来た石動はやる気十分だった。

 さあ、今日は遂に弾薬造りの最大の難関「雷管」を造りあげるぞ! と気合を入れる。


 厳密には、今までもエルフの郷で黒色火薬の金属薬莢弾に雷管を装着して狙撃に使用したし、腰のホルスターに入れた大型デリンジャーにはその金属薬莢弾が入っている。

 

 が、しかし。


 あくまでそれは火の魔石を使用した雷管で、前世界の物とは全く違う。


 この世界のもので代用できるなら出来るだけ利用したいが、火の魔石は非常に高価なので、コストパフォーマンスが悪いのだ。

 だから金属薬莢弾をコストダウンするためには、安く造れる雷管の開発が必要なのである。


 また、黒色火薬の性質は爆薬に近く、火が着けば爆発に近い燃焼を起こすので、火の魔石でも問題はなかった。

 しかし、無煙火薬は推進薬としての燃焼材なので、火の魔石では瞬間的に燃焼させるには力が足りず、心許ないのも理由の一つだ。

 前世界の雷管のように化学反応で爆轟し、薬莢内の火薬を一気に燃焼させるだけのパワーが欲しい。


 そこで石動は雷管用の起爆薬として、硝酸のほかはコストがかからず、この世界でも入手可能な材料を使って造ることができる雷酸水銀を選んだ。


 雷酸水銀の原材料は、硝酸と水銀にエチルアルコールだ。

 水銀は山岳民族の国「モンターニュ」やこのクレアシス王国でも産出するらしく、麓の街で豊富に購入することができた。エチルアルコールは酒精なので、ドワーフの国に無いはずがない。

 

 前世界では水銀の公害汚染が問題となって廃れてしまった、ごく初期の起爆薬だが背に腹は代えられない。

 現代で主流のジアゾジニトロフェノールなんてどうやって合成すれば良いというのか?

 石動にはサッパリ見当も付かない。


 石動としてはそこは割り切って、現実的に造れるものを造る、というのが現在の方針だ。


 今日も万一の事故を考慮して、セーフルームの中にある机の上で作業することにした。

 

 広げた魔法陣の上に濃度60%に調整した硝酸と水銀を置く。


 そのまま硝酸の中に水銀を入れて融解しても良いのだか、時間がかかるし不純物の除去も兼ねて、錬金術スキルを使うのが一番だ。


 スキルを発動し、硝酸と水銀を「抽出」し「調合」する。

 本当なら硝酸水銀溶液の温度の調整や管理などいろいろと面倒なのだが、スキルだと一瞬で完了するから助かるな、と石動はいつもながら感心してしまう。


 出来上がった硝酸水銀溶液とエチルアルコールを魔法陣の上に置き、世界樹の樹液で造った大きめのフラスコの中で反応させることにした。

 スキルでエチルアルコールを「抽出」しフラスコの中の硝酸水銀溶液と「調合」した。あっという間に化学反応を起こし、ボコボコと沸騰して泡立ってくる。

 スキルのおかげですぐに泡立ちも収まったので、「錬成」し「組成」する。本来なら必要な厳密な温度管理や、生成した結晶を水で洗ったりする手間もないので、非常に楽だ。

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