第120話 実演

 カプリュスは立ち上がると、先導して部屋を出る。


 鍛冶場とは別の方向に折れ、また鉄の扉がある部屋を開けると、25メートルプールほどの大きさがある長方形の部屋だった。


 入ってすぐには、試し切り用と思われる皮鎧やプレートメイルを着せた人型や丸太が立っているスペースがあり、その奥に弓の試射ができるよう簡単なテーブルと奥にシンプルな標的が2レーンほど設えられていた。


 石動イスルギは部屋を見回し、天井近くの壁にいくつか穴が開いているのを見つける。


「銃を撃つと煙が出ますが、大丈夫ですか」

「おう、壁の穴は換気用に外につながってるから問題ねぇ」


 頷いた石動は、シャープスライフルをテーブルの上に置いた。


 次いでマジックバックから雷管代わりの魔石を入れたケースと、50-90紙巻薬莢弾を取り出す。

 シャープスライフルの外付け大型ハンマーをハーフコックにすると、魔石を嵌め込む。それからレバーを下げてチャンバーを開き、薬室に弾丸を込めた。

 レバーを戻して薬室を閉じると、ハンマーを起こし、石動はシャープスライフルを構える。

 標的までの距離は20メートルもないので、タング・リアサイトを起こすまでもない。

 

 室内なので発射音が響くだろうと、前世界で狩猟時に愛用していた耳栓型イヤマフをはめると、後ろを振り向いてカプリュスに伝える。


「かなり大きな音がしますので、しっかり耳を押さえていてください」


 ロサは言われるまでもなく、しっかり耳を畳んで押さえている。

 それに倣い、カプリュスも耳を押さえた。

 確認して前に向き直った石動は、シャープスライフルを構えると、標的の黒点を狙い引き金を落とす。


 バアァァァァンッ!


 室内なので野外で撃つより大きな銃声が響き、銃口から黒色火薬の煙が盛大に噴き出した。

 発射音とともに振動により、天井から僅かに埃が舞い落ちてくる。


 石動は続けてあと2発撃つと、レバーを下げてチャンバーを開いたまま、シャープスライフルをテーブルの上に置いた。


 神妙な顔つきのカプリュスと共に標的まで歩き、黒点の真ん中近くでほぼワンホールになっている3発の弾痕を確認する。

 顎髭を触りながら弾痕を見つめていたカプリュスは、急に駆け出すと、重い台に設えたプレートメイルの人型を抱えて戻ってきた。標的の前にドシンッと人型を置くと、人型を指さしながら石動に頼み込む。


「たのむ! 今度はこれで試してくれ!」

 

 頷いた石動はプレートメイルを確認してみる。胴体は厚さ5ミリくらいの鋼板で出来ているようだ。軽くたたいてみると澄んだ金属音がして、良い品質だと感じさせられる。


 テーブルまで戻った石動は、マジックバッグからさっきとは別の50-90弾を取り出す。

 先程のは鉛弾頭だったが、新たに取り出したのはキングサラマンダーの時に鉛弾頭では通用しなかったので、その後念のために造った銅製弾頭の弾だ。

 金属プレートを撃つなら、こちらの方が鉛弾頭よりも貫通性能は良いだろう。


 いずれ鉄芯入りのアーマーピアシング弾も造らないといけないな、とも考えながらシャープスライフルに銅弾頭の紙薬莢弾を装填する。

 

 分かりやすいように、3発プレートメイルの胸当てに撃ち込み、最後に兜の額に撃ち込んだ。

 固定されたはずの兜が、着弾の衝撃で人型から外れそうになりながら、グワングワンと回転し停まる。


 今度はロサまでついてきて、3人でプレートメイルの状態を確認した。


 胸当てに当った弾は3発とも背中のプレートまでも貫通していた。

 背中に空いた大きな射出口を見たカプリュスは目を丸く見張り、腕組みをしながら顎髭を触って唸り出す。

 兜は額に穴をあけた弾が兜の中を一周したようで、潰れた弾頭が残っていた。

 その衝撃で兜を固定していた木製の添え木が折れ、添え木に巻いていた革のベルトがちぎれかけ、ブラブラとぶら下がり揺れている。


 その様子を見たカプリュスは、唖然としたように口を開けたまま、言葉が無い様子だった。

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