第119話 ジュウ
ふと、
「その前に、もう一つ教えてください。鉱山の採掘や、この岩山を掘るのはどうやったんですか?」
「ん? 普通につるはしで掘っているぞ?」
「でも硬い岩盤にぶつかったら、つるはしでは掘れないんじゃ?」
「何言ってんだ。ドワーフにとって、そんなもん関係ねぇさ。並みのつるはしで掘れないなら、掘れるつるはしを造りゃ済む話だろ。この岩山だって、祖先から数えて300年掛けてここまで仕上げたんだぜ」
ガハハハッと笑うカプリュスを見て、石動は思う。
「(やはり、
石動はドワーフの生産能力を恐れず、火薬でコントロールすることに決めた。
黒色火薬なら簡単に分析できるかもしれないが、雷管やこれから造る無煙火薬の分析は無理だろう。そこでアドバンテージをとればいい。
「カプリュス工房長。これから造りたい物の実物をお見せしても良いですが、私の許可がない限り同じものを造らないと誓っていただけますか」
「おおっ?! えらくたいそうな話になってきたな。まあよかろう。ドワーフを守護する土の神、鍛冶を司る火の神に誓ってやろう。決してザミエル殿の許しなく同じものを造らないとな」
カプリュスはそう言ってから、キャビネットから酒瓶を取り出すと、デスクの後ろにあった二つの偶像の前に進んだ。像の前にある小さなぐい呑みのような陶器に酒をそれぞれ注ぐと、火を着ける。
よほどアルコール度数の高い酒なのか、青白い炎を上げて燃える酒を、ひとつずつグイっと一口で飲み干した。
「(ラタちゃん、あれは何をしているんだ?)」
『あれはドワーフの神に誓う時の儀式だね。右側の男性像が土の神で、左側のトカゲの顔をしたのが火の神だよ。ドワーフの間では、神との誓いを破ると天罰が下ると言われているから、どうやら本気のようだね』
「(そうか、ありがとう)」
カプリュスは膝をついて両神に祈りを捧げた後、ソファーに戻ってきてドカッと座る。
「これで満足か?」
「ありがとうございます」
石動は覚悟を決め、マジックバッグから壊れていない方の狙撃用シャープスライフルを取り出した。
そして、ゴトッとテーブルの上に置く。
カプリュスは身を乗り出して、シャープスライフルをジロジロと舐めるように眺めまわし、呟く。
「これはなんだ。どうやって使う? 見たことがねぇものだな」
石動はカプリュスの眼を見て、簡潔に答えた。
「これは銃です」
「ジュウ? ジュウってなんだ? 触ってもいいか?」
「どうぞ」
カプリュスはテーブルの上にあるシャープスライフルを手に取ると、重さを確かめるように手の上で上下させる。
そして銃口を覗き込み、銃身や機関部を触り、ハンマーをガチャリと起こしたが戻し方が分からずに戻せず石動に尋ねてきた。
「すまん、これはこのままでいいのか? 壊してないよな」
「その下にある引き金と呼ばれる部分を触ると、戻りますよ」
カプリュスが言われた通りに引き金に触ると、狙撃用に軽くしてあったのでバチンッと大きなハンマーが倒れ、引いた本人が少しビクッとしていた。
銃床部分に付けたタング・リアサイトを立てたり倒したりしたのち、銃尾までじっくりみたカプリュスは、シャープスライフルをテーブルの上に戻しながら、石動の顔を訝しげに見る。
「なんとなく、武器なんだろうとは分かるけどな。どうやって使うんだ?」
「実際に見せたほうが早いですね。弓などの試射ができるようなスペースはありますか?」
「あるぞ。こっちだ」
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