第107話 調査
すべてのガラス瓶に硝酸を汲み終えたら、慎重にマジックバッグの中に保存して、蝙蝠たちが戻ってくる前に洞窟を出ることにする。
「(前世界ではありえない光景だな。大学の実験室で友達に話したら馬鹿にされて笑われそうだ。まぁ、ファンタジーの世界だから、ってことで納得しよう)」
石動は、絶対また来ると心に決め、今度はもっと大量に採取できる方法を考えておくことを、自分への宿題にした。
名残惜しげに池を見ていたが前を向くと、すこし先を歩くふたりに遅れていた分をとり戻そうと、石動は足早に駆けだした。
また来る、とカッコつけたのに、と石動は思ったが、あのあと都合5回、洞窟に入った。
蝙蝠たちの食事時間が夜明け前と日暮れ前であることがわかり、その日の夕方と翌日、翌々日の朝夕に入ったのだ。一回の調査時間をあまり長く取れないので、やむを得ず回数を重ねるしかなかった。
それでも分かったことは、硝酸の池の先はだんだんと天井も横幅も低く狭くなっていることだ。
冒険者たちの話の通り池から30メートルも進むと、奥に食事に出ていない蝙蝠の集団がいて、近づいてくる石動達に気づいて「チッ、チッ」と警戒音をたてはじめる。
おそらくそれ以上近づくと、追いかえそうと大挙して襲い掛かってくるのだろう。石動達は警戒音がきこえてから先は進まず、ゆっくり後退して引き返した。
あとは洞窟の壁の断層を調べたり、硝石を削って堆積している厚さを測ったり、硝酸の池の深さを探ったのち、調査を終えることにした。
なによりフラッシュライトの電池が切れたのが、調査終了の原因として大きい。次回来るときは何らかの照明器具を工夫する必要があるだろう。
「ザミエル殿、では明日の朝には出立でよろしいか?」
「ええ、協力してくれたおかげで、満足のいく調査ができたよ。エドワルド、ロサ、ありがとう」
「礼なんて要らないわ、どうってことないし。それより、私はまたあのジャングルで虫に噛まれながら帰るのが憂鬱よ」
この盆地に来て四日目の夜、焚火を囲んで夕食を食べながら、調査協力のお礼を石動が言うと、ロサがげんなりした顔をして顔を顰める。
「それなんだけど、次回来るときのために、このジャングルもある程度調べといた方がいいと思うんだ。肉食獣もいるみたいだし」
「うーむ、初日に見た猿の死骸であるな。確かに危険な生き物がいることは間違いないのであろう」
「そこで、馬車の迎えまであと2日あるから、このジャングルの周辺部から入った辺りを中心に、川上の方を回って帰るのはどうかな? さすがに夜はジャングルの中ではなく、岩場ですごした方が良いと思うしね」
「そうであるな。下流に回ると河が湖のようになっていたから、あれを渡るのはホネだろうて」
「しかたないか。ジャングルを横切って調べるよりは良さそうね」
皆の念頭にあるのは初日に見た、大きな猿が喰われていた死骸だ。大型の肉食獣か魔物がこのジャングルの食物連鎖の上位にいることは間違いない。その正体を確認できれば対応も取れるので、安心できる。
石動のそんな提案に2人とも同意してくれた。
明日は盆地の周辺部から20~30メートルほど入った辺りを、岩壁に沿って反時計回りに川上を目指して出立することでまとまった。
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