第102話 紹介状

 翌朝、朝食を済ませた石動とロサは、ノークトゥアム商会へ向かう。

 エドワルドは洞窟へ向かう準備と買い出しだ。石動たちも、あとで合流する予定になっている。


 ノークトゥアム商会のドアを開けると、昨日と同じ執事の服装をしたダークエルフの男性が、心得顔で案内する。

 応接室に向かうのかと思ったら、階段を登って三階の支配人室に通された。


「失礼します、支配人。ザミエル様がお見えになりました」

「うむ、入ってくれ」


 執事風ダークエルフが支配人室のドアを開け、石動たちを招き入れる。

 

 支配人室は磨き上げられたマホガニー材のような光沢のある木材を惜しげもなく使い、重厚に仕上げられた部屋だった。

 壁には歴代の商会長の肖像画が飾られ、革張りの表装が施された分厚い本が並んでいる。


 奥の大きなデスクでオルキスは書類と格闘している最中だった。


「すまない、ザミエル殿。もう少しでキリが付くので、ソファに座って待っていてくれないか」

「こちらこそ、忙しい時間に申し訳ない。なんなら出直しますけど?」

「いや、それには及ばない。君、客人にお茶の用意を」


 オルキスは顔を上げて石動に微笑むと、執事風ダークエルフに指示をする。


 慇懃な礼をして引きさがった執事に変わって、今度はメイドが紅茶とお茶菓子を持ってくる。

 石動とロサが紅茶を味わっていると、待つほどもなくオルキスが書類を決裁箱に放り込み、席を立つ。

 ズンズンと大きなデスクを回ってくると、向かいのソファにドカッと座り、オルキスは手を合わせた。


「いや~、待たせて申し訳ない! 支配人とは名ばかりで、私は体のいい事務屋ではないかと思う時があるよ。アハハッ」

「お仕事大変でしょう。そんな忙しいときに面倒なことをお願いして申し訳ありませんでした」

「なんのなんの、受けた恩を思えば、これしきの事。さほどのことではないよ」


 オルキスがパチッと右手の指を鳴らすと、ドアのそばで控えていたメイドがオルキスに書類を渡す。


「ザミエル殿、これがドワーフの工房への紹介状だ。ウチと付き合いのある工房でね、ウデはこの国でも三本の指に入るだろう。親方の名前はカリュプスという。ちょっと偏屈だが、ドワーフ自体が偏屈なやつばかりだからね、話すといい奴だよ」

「ありがとうございます! それではその親方に教えて頂けるのでしょうか」

「そのへんは交渉だね。ザミエル殿が気に入られれば大丈夫だろう。まあ、紹介状があるから無碍にはしないと思うよ」

「分かりました。それで充分です。それで、いつでも訪問して良いのですか」


 石動の言葉に、オルキスは少し、きまりが悪そうな顔をして続ける。


「それが今は立て込んでいるので、一週間後くらいにしてほしいって言ってるのだが、どうだろう」

「ちょうど良かった! こちらもこれから素材の調達で遠出したいと思っていたので、助かります」


 オルキスは明らかにホッとした様子で、笑顔になった。


「安心したよ。一週間とは参ったな、と思っていたのだ」

「こちらからお願いしているのに、我儘を言って申し訳ないです」


 石動が頭を下げると、オルキスは顔の前で手を振って、笑う。


「ダメなら他のドワーフに当ろうと思っていたのだ。では、カリュプスの所で問題ないな」

「ぜひお願いします」


 オルキスは紹介状を石動に渡し、紹介状のほかの書類を指さす。


「ほかに錬金術の素材を扱っていそうなところをリストアップしておいた。その書類に書いてある。錬金術を使う工房もいくつか書いてあるはずだ」

「何から何までありがとうございます!」


 石動は舌をまいた。昨日頼んだばかりなのに、ここまで至れり尽くせりとは・・・・・・デキル。

 さすがは商会の支配人を任されるだけのことはある、とオルキスを見直す思いだった。


 忙しそうなオルキスの時間をあまり取っては申し訳ないので、お礼を言って商会を後にする。

 

 次々と物事が進んで、石動は何か、見えない力に背中を押されている気分だった。

 頭をふって、馬鹿な考えを振り出すと、エドワルドに合流するべくロサと歩き出す。

 

 さぁ、いよいよ洞窟だ!

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