第55話 予行演習
1日を完全休養の日として寝て過ごした
同時にアクィラには、まず射撃に慣れてもらうために以前造った紙薬莢仕様のシャープスライフルで練習してもらう。
さすがは弓矢が得意なエルフと言うべきか、長距離射撃にもすぐに慣れ、標的の黒丸に命中弾がまとまるようになったところで、新しく作ったもう一丁の金属薬莢仕様のシャープスライフルの照準合わせをアクィラに教えながらやらせてみる。
金属薬莢の弾は貴重なので無駄には出来ないと思っていたが、アクィラの成長は目覚ましく、思ったよりも少ない弾の消費で照準合わせをやり遂げた。
そして今日はエルフの郷を出て、アクィラと従者兼護衛のウルススと一緒に、森を横切って外れをすぎ、そこから腰まである草が続く草原を抜けた先にあるヴァイン大平原まで来ていた。
左足に障害が残るアクィラだったが、それでもエルフだけあって流石に足は速く、石動の方が付いていくのにやっとだったが、ヴァイン大平原に着いた頃には日も傾いていた。
慎重に周辺を偵察し、まだ王国軍の姿が無いことを確認してから草原で野営をすることにする。
翌日は朝から3日かけて試射とデータ取得に勤める。
朝、昼、晩の気温の変化や風向き、風力など射撃に影響を与える要素を確認し、ノートに記録しておく。そして実際に500メートルや1000メートルでの射撃を行い、タング・リアサイトでの修正値を記録する。
実際、荒れ地から想像はしていたが、雨はほとんど降らず、日光が容赦なく降り注いで暑い。
そのため昼間は遠距離射撃を続けていると銃身から陽炎がのぼり、照準の邪魔をする。
また空気は乾燥しているので日陰に入れば涼しいが、ほぼ1日中強い風が荒野や岩山の間を吹きぬけているという、長距離射撃にはタフなコンディションだった。
石動とアクィラで様々に検討した結果、安全に隠れて狙撃できるのは崖の上の草原からしかないという結論で合意した。
その代わり、風速10メートル前後の風が吹く中で、最低でも500メートルを超える狙撃になる。
最終日にはウルススに600メートル程離れた岩山の間に、2メートル程の棒の先に南瓜を刺して立ててもらい、予行演習してみることにした。
最初は石動も対象を拡大できるレンズ付のスコープではなく、肉眼で狙う600メートル先の南瓜など、当てられるものなのだろうかと思っていた。
なにしろ心臓の鼓動と共に震えるピープサイトから覗いた先では、南瓜などゴマ粒の様なのだ。
しかし、念入りにデータをとって練習した成果で、石動も20発も撃つほどにコツを掴み、最終的には命中弾を送り込めるようになっていた。
アクィラは石動から教えられたスナイピングのコツや理論を砂地が水を吸い込むように吸収し、自分の物にして成長している。
南瓜への狙撃も"引き金を引くのでなく落とす"という感覚を掴むまで苦労したが、エルフだけに驚異的な視力や風や陽炎など自然を読む力は石動より上で、最終的には石動の倍の40発程は使用したが、なんとか命中させられるようになっていた。
石動はこのアクィラの上達具合に舌を巻く。
「(驚いたな。もう既にスナイパーとして自衛隊でもやっていけるんじゃないか。エルフが皆、銃を持ったらどんな無敵の軍隊が誕生するのだろう・・・・・・)」
少し背筋に寒いものを覚えた石動だったが、首を振って思い直し、得意げなアクィラを揶揄いながらウルススとも協力して痕跡を残さないよう片付けてから、ヴァイン大平原を後にしたのだった。
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