第18話 日常

 その後もロサは石動イスルギの服や日用品の買い出しに付き合ってくれたり、街の中を案内してくれたりといろいろ甲斐甲斐しい。

 ただ相手が美人で若い(若く見える)エルフなので、石動も嬉しい反面、何処まで好意に応えて良いのか距離を計りかねているところがあった。


 そんな石動の思いも知らず、ロサは軽く伸びをして身体をほぐすと、集まってきた友人らしきエルフ娘達と話しながら自衛隊体操に参加してきた。

 当初、石動も子供たちがキャッキャと笑いながら体操しているさまは微笑ましく眺めていたが、ロサら成人女性が体操している姿は、割と薄着なせいもあってあまり直視してはいけない光景だと気付く。


 特に「胸の運動」から「体の前後屈」のあたりでは、直視してしまうと目の前でブルンブルンと揺れる素晴らしいモノが目に入ってくるので、さりげなくスッと目を逸らしておかないと石動的にもイロイロとマズい。


 5分間キッチリ体操して身体を暖めたら、子供たちとは別れ、世界樹の周りをランニングだ。 


 直径100メートルほどの世界樹だが、神殿の付属施設や宿舎、神殿騎士などの兵舎や訓練場などが周辺に建っていて、一周5キロほどのランニングコースになっている。

 ランニングにも何故かついてくるロサと軽く会話しながら走り、広場に戻ると手を振って別れ、神殿の部屋に戻って水を浴びた後に朝食をとる。


 午前中は引き続き神官による座学で語学や歴史などの授業を受け、午後は日替わりで騎士の訓練場に行くか、町の中の鍛冶場に行く事にしていた。


 今日は鍛冶場に行く日だったので、石動は早めに神殿を出て町の中の鍛冶屋を目指す。


 途中の市場で旨そうな匂いに惹かれてイノシシ肉をタレにつけて焼いたボリュームのある串焼きと、これも焼きたての丸パンを買ってしまい、昼食代わりに交互に食べながらゆっくり歩いていく。

 初めて来た時ほどではないが、半年たった今でも街の通りを歩くと新鮮な驚きを感じることがある。

 エルフの男女やケモ耳の獣人らに交じって人族の商人が店頭で交渉していたり、荷物を満載した荷車を引く四つ足のトカゲの穏やかな目を見ると、そこで生活している自分が信じられなくなる時があるからだ。


「(まるでスターウォーズの酒場のシーンに入り込んだような感じ?)」

 そんなことを考えながら歩いていると、"カンカンキーン"と金属を槌で叩くリズミカルな音が聞こえてきた。まもなく目的地の鍛冶屋が見えてくる。


 最初、鍛冶屋というからてっきり職人たちはドワーフとかそんな感じと思っていたら、全員がエルフだったのには驚いた。

 そんな感想を洩らすとラタトスクからは不思議そうに首を傾げて、

『エルフは弓矢を使うイメージとツトムは言うが、では矢尻は誰が作ると思っていたのだ? いちいち買っていたのでは割が合わんだろう。それに獲物を捌くナイフや包丁は? エルフでも鍛冶をするのは当たり前ではないか?』

と呆れたような眼で見られた。


 納得した石動はまだ20代にしか見えないが実年齢は300歳になるという、エルフの割にマッチョな体形の親方に弟子入りし、修行させてもらうことになったのだ。

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