第17話 エルフの郷
ラタトスクの指示に従ったエルフ達によって、世界樹の神殿にある来客用の一室が、石動の部屋として与えられた。
石動としては城下町のような街中に住みたかったが、文無しで言葉もしゃべれない者が到底暮らせるはずもなく、神殿の中の貴賓室のような豪華な部屋に案内されたのだ。
食事や身の回りの世話も、巫女のような恰好をしたエルフの娘が専属でついて世話をしてくれる。
どうにも石動としては落ち着かない事夥しかったのだか、人間半年もするとなれるもので、巫女さんとも仲良くなった。
毎日、神官からみっちりと言語を教えられたため、簡単な文字の読み書きや日常会話くらいは不自由しなくなってきたおかげもあるだろう。
そうなると元々自衛官として規則正しい生活をしていた石動は、ここでの生活に慣れてくるのに比例して、だんだんと自分の日々のローテーションが出来上がりはじめる。
朝、携帯のアラーム音で6時に目を覚ます。
6時と言っても異世界には時間の概念が無いので、元いた世界の設定のままにしてあるが、特に違和感なく使用出来ている。
ちなみに携帯は通信機としては使えないが、カメラや時計にダウンロードしてある書籍のリーダーとして使っていて、太陽光発電パネルの携帯充電器で充電して活用中だ。
顔を洗うと巫女さんが用意してくれたエルフ謹製のシャツとズボンに着替える。
靴は前世界から穿いているハンティングブーツを履くと、神殿を出て神殿前の広場に向かう。
広場に着くと、携帯に録音していた「自衛隊体操」の音楽を再生しながらカラダを動かす。
初め奇異の眼で遠巻きに見ていたエルフ達だったが、最近ではすっかりその光景にも慣れて、エルフの子供たち数人と何故かロサを始め何人かの不定数の女性も一緒に体操するようになっていた。
「おはよう、ツトム。今日も良い天気ね」
ロサが広場のベンチから立ち上がり、石動に歩み寄りながら話しかけてくる。
出会った時にサーベルベアから助けて貰った事を恩義に感じているのか、ロサは何かと石動の世話を焼く様になった。
ロサに初めて会った日にラタトスクの説明が終わった後に神殿から出ると、仕留めたサーベルベアはエルフ達によって神殿前の広場まで巨体を運ばれていた。
ロサが切り取っていた耳を示して倒した証拠を見せ、石動を指さしてエルフ達に何やら演説すると、オオッという歓声と共に石動に対して拍手が起こった。
親しげに笑顔と共に背中を叩いて話しかけてくる者もいて、石動としては言葉が分からないが皆親愛の情を示してくれているのは分かるので、必死に笑顔を振りまくのが精一杯だった。
ふとロサの方を見ると、銃を撃つようなポーズをしながら身振り手振りで、石動がどうやってサーベルベアを倒したかを、まるで自分の手柄のように大勢のエルフ達に話しているのが見える。
その後サーベルベアは解体されたが、石動の申し出によりその肉は皆で分け合うこととなったので、さらにお祭り騒ぎになってしまった。
ついでにリュックの中から鹿の背ロースも出して提供する。
焼き肉祭りと化した神殿前広場で、ロサや背中を叩きながらやってきたエルフ達に代わる代わるお酌された石動が酔いつぶれてしまったのは仕方ないだろう。
そして翌日には、石動のもとにキレイに洗浄されたサーベルベアの素材として骨と毛皮、頭骨や牙、爪といった素材が山の様に届けられた。
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