第15話 目標

 ラタトスクは右手を顎に添え、は考え込むように呟く。

『問題は「錬金術師」や「鍛冶師」と「鑑定」の上限99だね。ドワーフの王で昔、スキルレベル60をカンストした伝説の鍛冶神がいたと言われていて、その作品は神器と呼ばれているほどなんだ。

 錬金術師の始祖と言われている人もスキルレベル50位じゃなかったかなぁ。文字通り、不思議な金属や薬を創り出していたらしいよ』

「自分は錬金術なんてやったことも見たことも無いんだけどな。もちろん鑑定なんてのも元の世界にはないものだし。(マンガの主人公みたいに"錬成!"とか"鑑定!"とかキメて見たいかも・・・・・・)」

 ニヤニヤしながら妄想する石動イスルギを呆れたようにラタトスクは眺める。

 ハッとして石動はラタトスクに尋ねる。

「さっきも聞いたけど錬金術のスキルって魔法とどう違うんだろう。何かを創り出すのが錬金術だとしたら、それって魔力無しに出来るものなのだろうか? 自分には魔法でも使わないと不可能に思えるんだけど」

『まあ、魔法やスキルの無い世界から来たのなら、ツトムにとってスキルは魔法のように感じるかもしれないね。でも、魔法を使えない人間でもスキルならレベルに応じていろいろなことが出来るようになるのは間違いない事実だ。ツトムの場合は上限レベルは凄いけど、現在のレベルは1だから錬金術も鑑定もほとんど何も使えないと思うよ』

「ええっ?!」

『だからまだスキルレベル1で初心者なんだから仕方ないでしょ。これからレベルが上がるにつれて出来ることが増えたり精度が上がったりするはずだよ。

 そういえば「鍛冶師」のスキルレベルが既に5なのは何か身に覚えがある?』


 不思議そうに尋ねるラタトスクに、石動は心当たりがありうなずく。


「自分の親父が町工場をしていたから、小さいころからそれを見ていたり使ったりしていたからかな。高校生の頃には自分でガスガンのカスタムパーツとか自作してたし・・・・・・」

『?? ほとんど後半は何言ってるか分からなかったけど、鍛冶は少し経験があるということだね。

 だったら、しばらくはこの集落で暮らしてみたらどうかな。街の中には鍛冶屋もあるし、錬金術を学ぶ場もあるからね。

 スキルのレベルを上げていけば、ツトムのやらなければならないことも見えてくるかもしれない』

 

 ラタトスクは再び花が咲いた様な笑顔を石動に見せると、うんうん、とうなずいて見せた。


「ラタちゃん、自分は凡人だよ。スキルが凄いだの何だの言われても今一つピンとこないしね。自分は勇者でもなければ歴史を変えるような偉業をなせるような人間だとはとても思えない。だから、期待されてるようで悪いんだけど、自分は自分の出来る事しかできないし、やるつもりもないよ」


 石動がラタトスクの眼を見ながら静かに言うと、それを聞いてラタトスクは同様に石動の眼を見てじっと考え込んでいた。


『では、ツトムはどうしたいんだい?』

「さしあたっては特にないな。まずこの世界に慣れる必要があるし。あっ、銃が無いんだったら自分で造りたいかな。そのために鍛冶を勉強して鉄砲鍛冶になるのはいいかもね!」

『フフフッ、いいんじゃないかな。面白そうだ。応援してるよ』


 ラタトスクは悪戯っぽく微笑みながら、思惑ありげに、でも楽しそうに頷いてみせた。

『(・・・・・・フフフ、鉄砲鍛冶だって? 鉄砲を造るということがこの世界にどれだけ大きな影響を与えるか、ツトムは分かっているのかね。いずれにしても面白くなりそうだ)』

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