誅戮のヘイトレッドⅡ
藍染三月
プロローグ
忘れえぬ恩怨1
鳴き声が聞こえた。それは、
僕は窓枠から顔を覗かせて、羽ばたく
赤々と眩しい
窓から覗き見たその姿に、僕は動揺した。
妹は、花を握りしめていた。扉を開けようともせず、玄関の前で
「シャノン、どうしたの? どこか怪我でもした? 誰かに、何かされた?」
「ううん……」
「えっと、お花、綺麗だね。虫でも付いてた?」
「ちがうの」
村の近くにある花畑は、僕達がよく行くせいで、村の子供達に荒らされてしまった。村の大人も、子供も、僕達から居場所を奪っていく。
「ねえ、メイ。お母さん、死んじゃうの?」
「え……まだ、いや、そうじゃなくて……」
「最近、前より顔色が悪くなってる」
「死なないよ。お母さん、元気になるよ」
「ならないよ。病気は、お薬飲まないと治らないって本で読んだでしょ」
そんなことは僕だって分かっている。
「シャノン、大丈夫だから。家に入ろう」
「お花」
「うん、お花。どうしたの?」
「お母さんに、元気になって欲しくて持ってきたの」
シャノンの、母に対する
母はあと何回、月の
母は
それだけなら、まだ良かった。村人は僕達に食料も薬も仕事も分け与えてくれない。お金を出しても売ってもらえるのは残飯程度。ずっと寝込んでいる母を診てくれる医者もいない、薬なんて一度もくれたことがない。僕達に早く死んで行けと、言外に告げているようだった。
だから僕は
思い出した怒りが
「本当は、お薬持ってきたかったの。でも薬屋のおばさん、お金がないとダメだって。お金の代わりにお手伝いするって言ったら、呪われた子供なんて雇うわけないだろって」
『呪われた子供』。
アレとか、ソレとか、呪いの子とか。そんな風に虐げて、僕達を呪っているのは、
胸中で村人を罵倒しても何の
空を泳いでいる
「薬は僕が頼んでみるから、もう意地悪な人達に話しかけに行かなくていいんだよ。危ないから家にいよう? ご飯も僕が貰ってくるから、家で絵本でも読んでいて」
抱きしめてやろうとした僕の前で、シャノンが顔を上げる。泣き出しそうな
「ねえ、私が悪いの? 私が呪われてるの? だから村のみんなも意地悪するの? だからお母さんも死んじゃうの?」
「違うよ、呪われてなんかない。僕達は何も悪くなんてない」
「でもお母さん死んじゃう……!」
「死なないから!」
「っ……お母さんも、シャノンも、僕が守るから。大丈夫だよ。大丈夫だから、お母さんが起きたら、お花渡してあげよう?」
「こんなの渡しても、お母さん元気にならないよ……」
「だから泣いてたの? 元気になるから渡してごらん。苦いお薬なんかより、シャノンからのプレゼントの方が、お母さん喜ぶよ」
濡れたオッドアイの
僕もたわませた唇で
「じゃあ、先に家に戻ってて。僕はパンでももらってくるから」
村の方へと駆け出していく。蹴り上げた砂埃が夕焼けを受け流す。
(一)
僕は母や妹のように屈したくなかった。感情を押さえて大人しく閉じこもる
媚びへつらって
二人に美味しいものを食べさせてあげたい。二人を
『僕に殺されるかもしれない』と
それでも、母と妹の明日を守れるのなら構わなかった。
どうしてか泣きたくなって、鼻をすすった。持ってきた食べ物と、草木の
「……スープ……冷めちゃうな。急がないと」
まだ
ほどなくして家に辿り着く。村の建造物を見てから自分の家を改めてみると、ひどく
鍋を持っている右腕で紙袋を抱いて、左手で扉を開ける。食べ物をテーブルの上に置いてから母の部屋へ向かった。
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