04
「カーニバルの花娘? 私が?」
息子の言葉に私は思わず聞き返した。
「ええ。花娘に選ばれていた令嬢の一人が怪我をして出られなくなってしまったそうで。それで代わりにマリアンヌに出て欲しいと頼まれたんです」
「まあ、可哀想に。でもどうして私に?」
「マリアンヌの花娘姿を見たいという声が多いんですよ」
「学園でもマリアンヌの人気は日に日に高くなっていきますからね」
私の隣に座るカミーユが言った。
「人気? 私が? ……どうして?」
「以前のマリアンヌと随分印象が変わりましたからね」
「それで人気になるの?」
「まあ、分からなくていいです」
そうやってうやむやにするのは、本当に兄に似ている。
最近、学園生活に馴染んで気持ちが若返ったせいか、カミーユが兄に見えて仕方ないのよね。
「でも花娘はやったことがあるから、他の人に譲ってあげて」
「それは母上であって、マリアンヌではないでしょう」
「でも一生に一度しかできないものなのよ?」
「もう既に陛下の元へ推薦状を出したそうなので。こちらから断るのは難しそうです」
「まあ」
「それにマリアンヌは学園には通っているとはいえ、社交の場にはほとんど出ていなかったので、実は怪我の後遺症があるのではとか色々噂がまだあるようなのです。それらを払拭するのにいい機会かと」
「でも……」
毎年二月に、カーニバルと呼ばれるお祭りが開かれる。
元々は、昔あった大戦の勝利を祝うものだったが、やがて春を迎える祭りとなっていったそうだ。
花娘というのはカーニバルの最終日のパレードに登場する十代後半の女性達で、春色のドレスをまとい、馬車から観客に向かって花を撒くのだ。
戦争を勝利に導いた女神をイメージしているそうで、花を撒くのは女神の祝福を与えるためだ。
この花娘に選ばれることは名誉なことで、私も学生の時にローズモンドと一緒に務めたことがある。
――ちなみにそれはゲームのイベントのひとつでもあったのだが。
「大叔母様が花娘をやった年のカーニバルは大騒ぎだったと祖父から聞きました」
カミーユが言った。
「そうなのよ。ローズモンドとアンドリュー様の仲を裂こうとしたある令嬢が、ローズモンドを襲わせようとしたのよね。でもそれをアンドリュー様が助けて……」
あれは王太子ルートで一番ハラハラするイベントだった。
何せ失敗するとヒロイン、もしくは王太子アンドリューが大怪我をしてしまうのだ。
ゲーム同様、ローズモンドと共に花娘に選ばれた私はそれを回避しようと根回しを試みたのだけれど、結局襲撃イベントは発生してしまい、街中で繰り広げられた逃走劇で祭りは大混乱になってしまったのだ。
「そういえば花娘としての役目は途中までしかできなかったのよね……」
パレードの後、王宮での晩餐会で国王陛下夫妻に花を捧げるのが最後の仕事なのだが、私はローズモンドをかばって怪我をしてしまい晩餐会には出られなかったのだ。
怪我自体は大したことはなかったのだが、兄やアルノーが過剰に心配して医務室に押し込められてしまったのだ。
「だったらやはり出るべきではないですか、最後の仕事を終えるために」
「……それは、そうかもしれないわね」
カミーユの言葉に私は頷いた。
「そうね、今年は無事に花娘を務めたいわね」
カーニバルの晩餐会にだけ出されるという特別な料理も食べられなかったし!
今年は是非食べたいわ。
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