覚悟ガンギマリ系主人公がハーレムフラグをへし折りつつ、クールな褐色女戦士をデレさせて異世界を救うパワー系ダークファンタジー/ヴァンズブラッド
鋏池 穏美
第一部 第一章 プロローグ─夢の残火編─
第※※※話 黒衣の男
荒涼とした大地。
墓標のように石柱が乱立する。
日が傾いた薄暗がりの中に、怪しく
その街道を街に向かって歩く男がいる。男が向かう先には、街道と同じように陰鬱な雰囲気の漂う街。立ち並ぶ家々は明かりを灯してはいるが──
それでも尚、暗い。
「それにしてもどうにかなんねぇもんかね!」
街の酒場でゴロツキの集団がくだを巻く。
「どうにかってぇのは?」
「この街のことに決まってんだろ! あいつがマルタに来てから毎日生きた心地がしねぇって話だ!」
「ば、ばかかおめぇ! 滅多なこと言うんじゃねーよ!」
「しょうがねーだろ! 今まで奪うも犯すも自由だったってのによ! 勝手な決まり作って、違反したら即処刑だぞ!?」
「ばれなきゃいんだろ? そのためのこの酒場じゃねーか、なぁ親父?」
ゴロツキの一人が、奥で腰掛ける店主と思われる男に話しかける。
「鉄製の
「んー! んんー!!」
店主が顎でくいくいと示した先に、猿ぐつわをされた少女が捕らえられていた。くせ毛でふわふわの薄桃色の長髪に、整った可愛らしい顔。大きな瞳が涙でぐしゃぐしゃに濡れている。
「まったく親父も好きだねぇー。分かっちゃいるけど俺たちが楽しんだ後だぞ?」
「かまわんよ。わしは若い娘を拷問しながら犯すのが好きなんでな。わしが先ではお前らが楽しめないだろう? だがあんまり傷つけるなよ? 傷つけるのはわしの仕事だ」
「へへへ、分かってるって親父ぃ」
ゴロツキの一人が少女に近付いて顎をくいっと持ち上げ、下卑た笑い顔を見せる。少女は怯えた表情で身を
「それにしてもあの新参者の領主も街の奴らも分かっちゃいねぇ! 奪って犯してが楽しいんだろーが!」
「街の奴らも領主様領主様ってうるせぇもんな?」
「なんだっけぇ? パラン様だっけぇ? だっせー名前だよな? 確か平民だか農民の出らしーぜ?」
「はぁ? 俺らと一緒じゃねーか! 頭パッパラパーのパラン様ぁー?」
酒場がドっと笑いに包まれる。
「んじゃあそろそろ……」
ゴロツキが少女の服をナイフでゆっくりと引き裂いていく。破けた服の隙間からは、白く柔らかな肌が覗く。
「うへへぇー、たまんねーぜ」
残りの服を破り捨てようとしたところで、入口のドアが
「な、なんだぁ!」
酒場内のゴロツキ共が一斉に入口を見ると、そこには黒衣を身に纏った長身の男が立っていた。
黒衣の下にはパッと見で分かるほど、ギチギチに鍛えられた肉体が見て取れる。髪は黒くボサボサで、目にかかるほどの長さ。髪の隙間から覗く眼光は冷たく鋭いが、左目に大きな傷があり、隻眼。
両腕には肘の辺りまで覆われた
鞘はひどく長い鞘と、それの三分の一ほどの短い鞘が左右に一つずつ。
「お前らに聞きたいことがある。この街の領主はパランで間違いないか?」
焦るゴロツキ共を尻目に、黒衣の男が低い声で問いかける。
「はぁ? こっちゃあ取り込み中なんだよ! 邪魔すんな!」
「質問に答えたらすぐに出ていく」
有無を言わさぬ雰囲気の低い声。
「い、いやぁダメだ! よく考えなくてもダメだ! お前をここから帰す訳にはいかねぇ! 密告でもされたら処刑だからなぁ!」
「密告? 何を……あぁそういうことか。大丈夫だ、俺は何も見ていない。とにかく質問に答えろ」
黒衣の男が奥で震える少女に視線をやるが、特に表情も変えずに言い放つ。
「おいノヒン! 酷いじゃないか! 君は怯えて震える少女を放っておくつもりか!」
「ちっ、うるせーよわん公。付いてくるんじゃねぇって言っただろーが」
「わ、わん公だと! 僕の名前はヴァンガルムだ! つまりわん公じゃなくてヴァン公だね!」
「キャンキャン吠えて邪魔するんじゃねぇよ。俺に構うなわん公」
「キャンキャンじゃないですぅ! ちゃんと言葉を話してますぅ!」
「ちっ、めんどくせぇ」
「ノヒンのアホ! こうなったら僕だけでも彼女を助けてみせる! ヴァンガルム! 出る!」
ヴァンガルムが捕らわれた少女目掛けて駆け出し、普通に捕まった。
「それにしても見た事ねぇ種類の犬だな! 弱っちそうだが魔獣かぁ? こりゃ持ってくとこ持ってきゃあ高く売れそうだぜ!」
「く、くぅーん……」
「今更ただの犬のふりしても遅せぇよ!」
「い、痛いっ!! 何するんだ! やめろよ! 僕の尻尾は高くつくぞ!」
ゴロツキがヴァンガルムの尻尾を掴んで引っ張る。
「おい兄ちゃん! このわん公を置いてくなら帰っていいぞ!」
「そいつは元から俺のじゃない。好きにしたらいいさ。それより質問の答えだ」
「領主はパランで間違いねぇ。街の奥にある屋敷にいるぜぇ? まぁ屋敷っつっても改修されて城みてぇになってるけどな。元はソール出身らしいから趣味が悪ぃぜ」
「そうか」
ノヒンはそう言うと少女とヴァンガルムには目もくれず、酒場から出ようと背を向けた。
「う、嘘だろノヒン!? 僕やその子を見捨てるのか!? 薄情者! 君には人の心がないのか! その筋肉はなんの為にあるんだ!」
「あばよわん公、いい飼い主が見つかるといいな?」
ノヒンが振り返りもせず、右手をあげてひらひらと動かした。
「──って帰すわけねぇだろぉが! 隙だらけなんだよ!」
ゴロツキがノヒンの背中を目掛け、ナイフで襲いかかる。が──
「あばっ!!」
ノヒンの背中にナイフが突き刺さる寸前、ゴロツキの肘から先が吹き飛んで壁に叩きつけられ、顎から上も吹き飛んだ。
どうやら両腕に装着したゴツい黒錆の鉄甲で粉砕されたようだが、あまりの速さに何が起きたか誰も分からず、しばしの静寂が流れる。
「大人しくしてればよかったのにな。俺に敵意を向けるからだぜ? どうする? 続けるか?」
頭と腕を粉砕されたゴロツキの死体からは、決壊した川のようにビシャビシャと血が流れ出ている。
「う、うわぁー!!」
ノヒンと目が合ったゴロツキの一人が恐怖からか、壁に立て掛けてあった剣を手に取り、狂ったように斬り掛かる。
「なんだそのへっぴり腰は」
ノヒンが振り下ろされた剣を事も無げに右手で掴み、バキンとへし折った。そのまま刃先を奥の店主へと投げ付け、頭蓋を貫通させる。
見れば店主の手にはボウガンが握られ、ノヒンに照準を合わせているところだったようだ。
剣を振り下ろしたゴロツキも、手刀のようにした左手の鉄甲で体を貫かれ、絶命していた。
「どいつもこいつも遅せぇんだよ。敵意を向けた時には行動を終わらせとけ」
ノヒンが吐き捨てるように言いながら、ゴロツキに貫通させた手を体から引き抜く。
「な、なんなんだ! なんなんだお前は!」
「うわぁー!!」
「こ、殺せ! 殺しちまえ!!」
ゴロツキ共が一斉に武器を手に取り、ノヒンに襲いかかる。酒場の二階にも仲間がいたようで、総勢で三十人程だろうか。
「ちっ、めんどくせぇ。まとめてぶった斬ってやるよ!」
ノヒンが左の腰に下げた鞘に右手を入れると、ガチンと金属音がした。鞘の入口は少し特殊な形をしていて、手のひらが入るくらいに広い。
そのまま右手を引き抜いて横薙ぎに手を払うと、飛び掛って来ていたゴロツキの胴体がまとめて両断された。
横薙ぎにした勢いのまま、左手も右の腰に下げた鞘に入れる。すると先程と同じようにガチンと金属音が響き、そのまま勢いよく引き抜いて横薙ぎに払う。
まるで紙細工のように千切れ飛ぶ体。
噴水のように吹き上がる血飛沫。
ノヒンの鉄甲からは血に塗れ、両刃で肉厚・幅広の剣が伸びていた。
形状としてはグラディウスのようだが、長さはバスタードソード程はあるだろうか。鉄甲と同じように黒錆色の剣だ。
「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
獣のごときノヒンの咆哮──
相対した者が決して逃れられない圧倒的な暴力が、死の濁流となって襲いかかる。
「うへぇ、相変わらず人間離れしてるよ。僕より獣らしいじゃないか……くわばらくわばら」
ヴァンガルムが捕らわれの少女の縄を、なんとか噛み切った後で呟く。
「わ、悪かった! 悪かったから殺さ……なぐしっ!」
「ゆ、許してくれ! たの……むべら!」
ゴロツキ共の命乞いも意に介さず、黒錆の獣が命を喰らい尽くす。
「謝るくれぇなら俺に敵意を向けてんじゃねぇよ」
最後の一人を縦に両断し、ぬらぬらと剣に纒わり付く血を振り払ったノヒンが、冷たく言い放つ。
「おいノヒン! さすがにやり過ぎじゃないのか!? 途中から降伏して命乞いしてたぞ!」
「うるせーよわん公。俺は俺に敵意を向ける敵を叩き斬った。それだけだ」
「て、敵意なんて途中からなかったじゃないか! 君は無抵抗の人間を殺したんだ! 生きていたら悔い改めて更生するかもしれないだろ!」
「へー、更生したら罪は消えんのか? 泣いて謝ったら全部なしになんのか? じゃあ謝ってやるよ。すまん殺して。悔い改めるから許してくれ。これでいいか? 許されるんだろう?」
「き、君ってやつは! もう知らない! 勝手にしろよ! 僕はこの子と一緒に行く! 人でなし! アホ! アホ筋肉!!」
「元から勝手にしてるさ。よかったな? 可愛らしい飼い主ができて。せいぜい後悔しないことだな」
ノヒンが少女を
「やめろよノヒン! 怯えてるじゃないか! それに余計なお世話だ! 後悔なんてするわけないだろ! 行くよ! えーと……」
「マ、マリルです……。あ、あの……」
少女はノヒンを見つめ、何か言いたそうに
「………………」
ノヒンはそんな少女に冷たい視線を投げつけるだけで、そのまま酒場から出ていった。
「な、なんだよあいつ! マリルもあんな奴に感謝しなくていいんだよ!」
「で、でも……」
「まさかあんな冷たいやつだとは思わなかった! あんなのはもう人じゃない! 獣だよ!」
「そんなこと……ない……」
「マリル……?」
ノヒンの立ち去った入口を、じっと見つめるマリル。
「そ、それよりマリル? 家は?」
「家は……ないんです」
「え? 家がない? じゃ、じゃあ親は?」
「親もいないです……」
「……ってことは孤児院とか? それとも……」
「違うんです。両親は行商人で……旅の途中で殺されてしまったんです。そこからなんとかこの街まで辿り着いて……」
「そうだったのか……。でも困ったな……」
「ご、ごめんなさい……」
「い、いや! マリルは謝らなくていいよ! そういうことなら明日にでも領主様のところに行こう! 確かここの領主様は孤児院の運営に力を入れてる人格者だ! ノヒンとは大違いのね!」
「う、うん……。でも……あのね……」
「でももへちまもない! とりあえず今日はどこかの納屋でも探して忍び込もう! こう見えて僕は鼻が利くんだ!」
「こう見えて?」
「そう! こう見えて!」
ヴァンガルムが得意げに鼻をふんふんさせると、マリルは「そのまんまじゃない」と、可笑しくなって笑いだした。
「やっと笑ったね」
「え? あ……うん。なんだか可笑しくて……。ありがとうヴァンちゃん」
「ヴァンちゃん?」
「ヴァンガルムってなんだか長くない? ガルちゃんの方がいい?」
「えー? どっちも威厳を感じないなー。まあでも……ヴァンちゃんでいいよ。ヴァン君って呼ぶ人もいるしね」
「よろしくね。ちょっと頼りないわんちゃん」
「任せとけ! ……って今わんちゃんって言っただろ!!」
「ご、ごめんごめん。ふわふわもこもこで……ヴァンガルムって名前負けしてるなーって」
「い、いじるなよ! 僕は気高き孤高のヴァンガルム! 泣く子も黙るんだぜ!」
「えいえい」
「や、やめろって! やめ……く、くぅーん……」
マリルがヴァンガルムの喉元をつんつんすると、飼い慣らされた犬のようにお腹を出して転がった。
---
目を通して頂き、ありがとうございます。
一章はプロローグとなりますので、固有名詞などは気にせず勢いで読んで頂ければと思います。
誤字脱字などあるかとは思いますが、よければ評価や感想など頂けると更新の励みになります( ´ω` )
鋏池 穏美
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