第25話 前期試験終了

 昨日は、びっくりしてしまったわ。テルースったら、食堂の狭い場所だというのに、あんな魔法を放つなんて、どうかしているわ。


 それに、私が見たこともない魔法をいくつも、簡単に放つなんて。これじゃ、何のために、テルースに魔法を教えていたのか、分からないわ。


 今日の試験は、2科目だけで、後は、水魔法だけ。でも、昨日の出来事で、すっかり、自信を無くしてしまって、何も、やる気にならないわ。


 また一人、隣の教室に入っていった。先ほどと同じように、控室で、待機して、1人ずつ呼ばれて、隣の教室に入っていく。試験を終了した生徒は、食堂で待機する。そして、全員が終わってから、自由行動になるの。


 私が、試験を終えて、食堂で、待機していると、テルースが試験を終えて、やって来たの。そして、いつもと同じように私に話しかけてくれたわ。


 「ユイカ。疲れていない?」


 「大丈夫よ。テルースは、どう?」


 私は、まだ、昨日の事を引きずっていて、まともに、テルースを見ることが出来なかった。


 「ねえ、ユイカ、変だよ」


 そんな私を見て、テルースが、言って来たわ。でも、まだ、私の気持ちは落ち着かない。


 「えっ、何が、変なの。いつもと同じよ」


 「だった、僕の事を見てくれないじゃないか」


 テルースは、怒っているみたい。私も、いつも通り、テルースを見つめていたいわ。でも、身体が、言うことを聞かなの。 


 「そんなことないわ」 


 口では、言えても、身体が言うことを聞かない。テルースを見ることができない。いつまでも、もじもじしていると、係の先生が自由にして良いと言っている。どうやら、全試験が終了したようだわ。


 私は、テルースが、他所を見ている隙に、席を立って、こっそりと、食堂を抜け出したの。


 一旦は、自分の部屋に戻って、ベッドの中で、泣いていたの。でも、やっぱり、テルースの事が、気になって、気になって、じっとしていられなくなったの。


 ベッドから、抜け出して、テルースの部屋の前まで、行ったの。もう、戻って来ているかな?


 そーと、扉に、耳を押し付けて、部屋の中の様子を窺ったら、何か、音が聞こえた。テルースが、いる。


 そう思うと、自分を抑えきれなくなったの。ドアを開けて、中に飛び込んだわ。テルースは、びっくりしたようにベッドから、起き上がったけど、怒ってはいなかったわ。それで、思い切って、声を掛けたの。

 

 「テルース、正直に話してね」


 私は、テルースの顔をしっかり見て、聞くことが出来た。少しは、落ち着けているみたい。


 「うん。いいよ。なんだい」


 「あなた、本当に13才なの?」


 「あたりまえだろ。13才だよ。急にどうしたの?」


 「だって、あんな魔法を使えるなんて、もうすでに、上級レベルじゃないの」


 私は、思わず、口調を荒げて、怒ったように話してしまった。怒ってはいないのに。


 「もしかしたら、上級レベル以上かも」


 「どうしたの?」


 テルースが、戸惑いながら、私の質問に答えてくれている。でも、私の本当の気持ちは、分からないようだわ。


 「ユイカ、何を考えているの?」


 テルースが、直接、質問をして来た。もっと、私の事を考えてよ。私に訊かないでも、私の思っていることを分かってよ。どうして、分ってくれないの。


 「昨日も一緒に魔法の練習をしたでしょ」


 「そうだよ」


 「低レベルの魔法の練習で、悪かったわ」


 「そんなことないよ」


 私は、話しながら、どんどん、気持ちが滅入って来た。こんな私の事を好きになって貰えない。そう思うと、まともに、テルースの顔を見れなくなったの。おまけに、涙まで、出て来たの。泣きたくなんて、ないのに。


 泣くな! 泣くな! と思うと余計に涙が溢れてくるの。


 「僕のことを心配してくれたユイカのことをバカにするわけがないよ。本当だよ」


 テルースは、私を宥めようと、私のほほを両手で挟んで、軽く軽くキスをしてくれた。私が嫌いではないみたい。


 「僕の言葉が信じられない?」


 「そんなことないよ。でも、自信がないの」


 テルースは、もう一度、軽くほほに、キスをしてくれたの。それで、少しは、落ち着いたわ。


 「どうしたの?」


 また、テルースが、聞いて来た。どう答えたらいいの? もう、分からない。


 「あんな魔法を簡単に放つテラに、私はついていけないわ」


 思わず、口に出たのは、本当に思っていたこととは、違ったものだったわ。でも、少しは、本音だわ。


 「なぜ、魔法の事ばかり言うの。ぼくを好きなのは、魔法ができるからかい」


 本当は、魔法の事なんて、どうでもいいの。テルースの役に立ちたいの。でも、何をしたらいいのか、もう分からない。唯一、自信があった魔法の勉強が、テルースにとって、何の役にも、立っていなかった。私の自己満足だけで、テルースの足を引っ張っていただけ。こんな、惨めな事は、無いわ。本当に、役に立ちたかったのに。


 「違うわ。魔法ができると思っていなかったの。私の方が魔法が得意だと思っていたの」


 「魔法なんて、どちらでもいいじゃないの。どちらがうまくても、関係ないよ」


 「本当? 魔法がうまくなくてもいいの?」


 「ユイカのいい所は、魔法なんかじゃないよ。いつも、僕のことを考えて、親切にしてくれる。それだけでいいよ。僕の事を考えてくれるだけでいいよ」


 「そうなの。魔法が下手でもいいの?」


 テルースが、私を抱きしめてくれた。そして、キスをしてくれた。テルースは、私の事が、嫌いになっていない。


 「好きだよ。ユイカは、今のままでいいよ。そのままで、好きだよ」


 「私も、テラが好き。魔法はビックリしただけ。それで、自信がなくなったの」


 「何も変わりはないよ。今まで通りでいいからね」


 「はい」

 

 私も、やっと、素直になれた。少しは、笑って、テルースを見ることが出来る様になった。


 テルースが、私をベッドまで、運んで、キスをしてくれた。以前と同じように愛してくれる。そう思うと、もう、うれしくなった。それで、テルースを思いっきり、抱きしめたわ。もう、放したくないわ。


 じっとして、テルースを抱きしめていると、閉じた瞼をテルースの柔らかい唇が、そっと、触れてくる。そして、もう一つの瞼も、テルースの唇が触れる。それから、右の耳たぶに、それから、首筋に、触れた。


 更に、軽く歯で噛んでくる。もう、顔が火照って、頭の中が真っ白。何も、考えられない。そして、身体が動かない。いえ、動かすことさえ、考えられない。私は、人形のように、テルースのなすが儘になってしまった。


 テルースの顔が、私の胸に当たる。テルースは、私の身体の柔らかい部分を探すように、私を確かめるように、手や唇を動かしている。そして、テルースの硬い足が、私の太ももに触れて来た。


 もう、後の事は、何も、覚えていない。ついに、私は、テルースと一夜を過ごしたの。もう、テルースは、私のものよ。

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