ドラゴ×ウィッチ ─竜と魔女が恋した世界─
中尾タイチ
第1話 アルタ
─お前は特別な力を持っている─
─世界の運命すら変えてしまうほどの力を─
─強くなれ、アルタ─
……………
重くのしかかる瞼の隙間から、白い光が差し込んでくる。
抵抗する瞼を持ち上げ、朦朧とした意識の中、どこからともなく小鳥達のさえずりが耳へと届き、脳が朝である事を認識するのに一呼吸おいた。
「夢……か…。」
まだぼんやりとした頭の中で、先程までみていた夢の事へと、思考を巡らせる。
遠い記憶。まだ幼子だった。物心ついて間もない頃の記憶。
自分を抱き上げ、穏やかな笑顔を向けながら、自分に語りかけてくる男の顔は、モヤがかかったようにはっきりと思い出せない。
─あれは…誰だったんだっけ?─
何度考えてみても、モヤが晴れることはなく、そうしているうちにだんだんと目が冴えてきた。
「…そろそろ行くか。」
そう呟き、青年は──、アルタは重たい身体を起こし、訓練場へ向かう準備を急いだ。
─この世界の陸地の大半を占めるユルガドミア大陸には、中心部に王都であるドラグニアが位置しており、大陸の四隅に、ドラグニアを囲むようにして、四つの大きな都市が存在する。
アルタが住む街──サヴァロンは、大陸の南方の海側に位置する。四大都市に属し、漁業や造船業が盛んな都市だ。
アルタは、サヴァロンの警護兵団に所属する兵士の一人だった。
……………
──キィィィン!!!──
金属製や革製の、それぞれの装いを身に纏った兵士たちの歓声の中で、金属と金属がぶつかり合う音が、サヴァロン警護兵団の訓練場に響き渡る。
半径五十メートル程の、さほど広くもない訓練場の中心で模擬戦を行なっているのは、アルタと、全長二メートルはあろうかという、筋骨隆々の逞しい男だった。
双方互角の鍔迫り合いが続き、アルタが後方へ跳躍して距離をとり、そのままお互いにピタリと動かなくなり、じっと睨み合う─。。
大柄の男が、模擬戦用の剣を頭上高くに構え、深く息を吸った後、眼前のアルタをじっと見据える。
次の瞬間、男の双眸がカッと見開かれ、猛々しい咆哮と共に、地面を割らんかという上段斬りが、勢いよく振り下ろされた。
「おおっ!」兵士たちの歓声があがり、大きく舞った砂埃が晴れていく。そこにアルタの姿はなかった。
─しまった。
焦りを見せた男は、すぐさま周囲を警戒しあたりを見渡す。だが、アルタの姿はどこにも見当たらない。
「──上だっ!」
ハッと顔を見上げた男の頭上に振り下ろされたのは剣──ではなく、かかと落としだった。
ドゴッ
─鈍い音を響かせた後、男はそのまま倒れ込んだ。
「──ウオオオオ!!!」
一呼吸おいた後、観戦していた兵士たちの一際大きい歓声が場内を包み込んだ。
「すげぇ!アルタの奴、ナバルの野郎をぶっ倒しやがった!」
「まじかよ…ナバルはうちの兵団の中でも一、二を争う怪力だぞ!?」
「でもよ、ナバルの剣はアルタの野郎に受けられてたじゃねえか!」
「そりゃお前、アルタの方が怪力ってことじゃねえのか!?」
兵士たちが思い思いの称賛や疑念を口にする中、アルタは息をつき、剣を納めた後、頭を抑えながら起き上がるナバルの方へ歩み寄った。
「ナバルさん、大丈夫か?」
アルタが声をかけ手を差し伸べると、ナバルはやれやれといった風にアルタの手を取った。
「お前なぁ…最後の蹴りはなんだよ…。」
「別に剣以外使用しちゃいけないってルールはないだろ? それに、殴りや蹴りの方が俺は強いんだ。」
アルタがけらけらと笑いながら力こぶを見せるポーズをとる。
ナバルはため息をつき、苦笑いを見せながら。
「腕なんか俺より全然細いくせによ…ったく、大した野郎だよおめえは。」
どこか清々しさを感じさせる声でナバルが言いながら立ち上がると、観戦していた兵士たちが一斉に二人の周りに集まってくる。
「おいアルタ!すげぇじゃねぇか!二番隊の頭を倒しちまうなんてよ!」
「こりゃ隊長の座も危ういんじゃねえか?なぁナバルよ。」
一人の兵士がナバルにちょっかいをかけると、彼は少しムッとした表情で言い返す。
「うるせぇ!俺じゃなかったら今頃気絶でもして医務室行きだ!」
どっと笑い声が響く中、ナバルが思い出したように口を開く。
「そういやなアルタ、ティアマトさんがお前に話があるから来いって言ってたぜ。」
「団長が?」
─ティアマト。
サヴァロン警護兵団の団長を務める男の名だった。
────────
ここまで読んでくださりありがとうございます!
初の創作で、拙い文ではありますが
もしよろしければ
ブックマークや☆☆☆などしていただけると励みになります!
随時更新して参りますので
よろしくお願い致します!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます