花婿は辺境に追放された魔術師!? 私まで魔女呼ばわりとか、さんざんな新婚生活なんですけど~!

小花ソルト(一話四千字内を標準に執筆中)

第一編

序章

第0話   少女たちの壁

 今宵は待ちに待った、国内の重要人物ばかりが招待を受けるパーティがあり、メリアナも少女たちの例に漏れずめいっぱいオシャレして、何度も鏡の前でくるくる、どこもおかしくないかの確認と、とびきり可愛くメイクしてもらった自身にテンションが上がる。


「うふふ! 顔がニヤけすぎないように気をつけないと」


 鏡の中の自分と、笑顔で約束。少しの緊張を伴いながら、颯爽と控え室を後にした。


「あ、メリアナちゃん遅〜い。さっきすごく美味しいベリージュースが配られてたのよ、惜しかったわね〜」


 廊下に設置された猫足ベンチに、花のようにふっくらしたスカートを並べて、メリアナの友人たちがキレイなグラスを傾けていた。しゅわしゅわと泡が踊っている。


 その美味しそうな見た目に、メリアナは思わず声をあげた。


「いいな〜!! 今日はなんでも記念になるから、全部経験したかったー」


 ガックリするメリアナに、友人の一人が一口くれた。ベリーのサイダージュースだった。自分だけ貰えなかったのが残念でならない。


(よし! ビュッフェは絶対に全皿制覇する!)


 固く決意したのだった。



 廊下にたむろする仲良しな彼女たちを遠目に蔑むは、レースたっぷりの豪華なドレスをまとった淑女たち。


「また来ましたのね、あの成金上がりの小鼠さんたち」


「ねえ、ご存知〜? あの遅れて走ってきたメリアナって娘、二代先はド田舎の雑貨の小売業者ですってよ」


「まあ! 名もない田舎業者の出身ですの? どうりで粗雑な仕草でありますこと。お飲み物も回し飲みして、ハァ〜不潔!」


 大きな扇で顔半分隠し、余所者と己とをくっきり隔てている。


 そんな者が視界に入っても、メリアナたちはどこ吹く風。互いに初対面だった頃は、二チームとも真っ向から対立したものだが、生粋の貴族相手に本音のこもった嫌味など言おうものなら、しばらく父の商談にひどく響いたものだった。


 だからメリアナたちは、心底パーティを楽しむと決めた! 美味しい物を食べ、滅多に会えない友人たちと互いの無事を喜びながら一日中おしゃべりし、パーティ参加者である貴族の殿方や、名のあるイケメンに大はしゃぎし、人脈を繋ぎ、地元に帰るその日まで、友人と一緒に王都でお買い物! 楽しい楽しい思い出で、いっぱいにしてやるのだ。


 嫌がらせや理不尽に対する一番の仕返しは、自分が楽しく過ごす事、そして幸せな人生を選ぶこと。現に今、立ちっぱなしで悪口言ってる暇人よりも、なんにも気にせずベンチを占拠しておしゃべりしている自分たち、どちらが幸せに見えるかは一目瞭然と、メリアナは考えている。


(ふふん、そこで重たいドレスを肩からぶら下げたまま、突っ立ってればいいわ)


 成り上がりには成り上がりの、意地があるのだった。


 ふくよかな体型のメイドが、貫禄ある太い腕で大きなお盆を持って歩いてきた。


「さあお嬢様方、お時間ですよ。グラスをお預かりいたします」


 いよいよパーティ開演の時刻だ。年に数回の大勝負の日。少女たちが元気にお礼を言い、立ち上がった。広がったスカートは花のようで、活き活きと彼女たちを飾っていた。


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