これ絶対に守らないやつね?
何だか悔しくてもやもやしていると、ヴィンセントの背後からゆっくりと人影が現れて、わたくしは悲鳴をあげていた。
「見いつけた」
目を見開いた、ゴーストのようなアルバートだった。
「ああ、ロード・ロビンソン。久方ぶりです」
ヴィンセントが振り返って微笑む。
「久方ぶりです。じゃないでしょう! 別に久しくもないですし! ヘレナを勝手に連れていくなんて聞いていません!」
「ええ、そうですね。おかげでレディ・ヘレナと芸術について存分に語り合えました。レディ・ヘレナは今まで会ってきたどのご婦人たちとも違い、本当に興味深い。ぜひまたお会いしたいな。もちろんロード・ロビンソンもご一緒に」
「そうでしょう、ヘレナは本当に興味深く……ってもうその手には乗りませんよ! 今後は僕をまくのをやめていただきたい!」
「今後は善処します」
はい。これ絶対に守らないやつね?
不本意ながらも資料集めは助かったので黙っていたのだが、ヴィンセントの慣れた笑顔を見て『うわあ』と思ってしまった。わたくしとしてもなるべく疎遠になっていきたいのだが……。
ヴィンセントがアルバートの言葉をすり抜けながら、持っていた三冊の本をルイに渡した。わたくしはヴィンセントとアルバートが話しているのを確認して、そっとルイのそばへ立つ。
「あなたも嵐のような主人をもって大変ではない?」
「正直控えていただきたいこともございますが、旦那様をお支えするのがわたくしの仕事ですので」
全肯定しないところが逆に誠実でいい。
「ありがとう。本はお願いするわ」
「かしこまりました」
ルイは主人とは対照的にまったく笑わなかったが、誰に対してもそうなのだろう。
さすがにこれ以上は本を探せる状態ではなかったので、帰ることとなった。
「レディ・ヘレナ、また今度」
家の前で馬車を降りるときに、笑いかけられた。わたくしは一瞬迷って、一番無難な言葉を選んだ。
「ごきげんよう。ロード・ブラッドロー」
数日後、メイド宛に送られてきた三冊のエチケットブックを受け取って、わたくしは就寝前に寝室のテーブルに向かって本を広げた。オイルランプに照らされたオレンジ色の紙面を追っていく。
胸を大きくする方法
昨今の婦人は腰を細くすることと同じくらい、胸とお尻を大きくすることが求められるようになりました。こちらでは胸を大きくする方法として、実際に筆者が行って効果があった、またはあったかもしれない方法について記載します。お尻は後述を参照してください。
図書館ではちゃんと読んでいなかったが、筆者の実際の体験らしい。どこまで本当か分からないし、効果がなくても失うものはないのでいいのだが、単純に胸が躍ってしまう。
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