嫌みではない
「さっきのローザのお話だけれど、わたくしもロード・デイルの行いは好きになれないわ。だってコルセットのように努力して変えられるものではないでしょう? わたくしだったら相手にもされないでしょうし、本当にたまたまアルバートさまが見そめてくださったからみじめな思いをせずにすんで、運がよかっただけで……ああ違うの! 嫌みとかではなくてね!」
マーガレットが気付いたように血の気を引かせて、顔の前で思いきり手を振る。
「そんなに揺らしたらこぼれてしまうから、落ち着いて。嫌みだなんてまったく思っていないから」
わたくしは吹き出しながらマーガレットがカップを持っている手を取って下ろさせた。
事実として、マーガレットはわたくしより胸の膨らみがない。バターフィールド侯爵家は家柄も財産も素晴らしいが、サイラスのばか息子のように、体型に重きを置いている者には選ばれないという重りを背負わされている。
けれど、マーガレットはわたくしの兄アルバートの婚約者だ。お互い行きすぎたくらい繊細なところが合ったのか、とてもお似合いで幸せそうだ。わたくしの義姉になるのがマーガレットで本当によかったと思う。
「ヘレナ、わたくしもロード・デイルを否定して悪いのだけど」
ローザが眉をひそめて口をひらいた。
「もう何の関係もない他人だし、いらいらしているからどんどん言ってもらって構わないわ」
「そう? それなら遠慮なく。最終的に体型で判断を下す男性はわたくしも好きになれないわ。もちろん後継者を産むためだって分かってはいるけど……どうしても嫌らしい下心のようなものが見えてしまって、気持ち悪いのよ」
事実として、ローザは昨今の基準でとても理想的な体型をしている。女性の幼なじみ宅への昼間の訪問ということで、控えめにしているはずだがお尻はしっかり大きさがあるし、腰は細いし、胸は大きい。首元までつまっている昼用のドレスでも大きいのがはっきり分かる。
「『そんなにお尻とお胸が大きいと重くて大変でいらっしゃるわね。まるで牛のよう』とか、嫌みを言われるのはしょっちゅうだし、あきらかにわたくしの家と不釣り合いな方からも求婚されるし、見せ物小屋の動物じゃないのよ。だからわたくしは体型を理由にする方は生理的に受け付けないわ」
ローザはばつが悪そうにマーガレットとわたくしに視線を移した。
「ごめんなさい、わたくしのぐちになってしまったけど。もちろんあなたたちだから分かってると思うけど、嫌みではないから」
「ええ、分かっているわ。ローザ」
マーガレットがおかしそうに笑う。
「大丈夫よ。婚約済みで幸せ気分全開のマーガレットに嫌みを言う利点がないし、そもそもあなたはそんな性格ではないし、それに、最近大勢の人に囲まれて困っていそうなのは何となく分かっていたから」
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