第56話 衝突

強い風が吹いている。バタバタと風の入る音がする。ここはモランプタワーの最上階だ。


ガラス窓は銃撃で消し飛んで風が入り込んでいる。辺りは埃と舞い散ったペーパーが散乱している。

さっきエレベーターから黒い服のやつらが乗り込んできたところだ。それから角丸、秋藤、加古田の3人組だ。

アブソルートの3人組が彼らの相手を始めた。マルコフ、ミカエフ、ナワリヌイの3人だ。

3 on 3の戦いは熾烈を極めた。角丸はボクシングのジャブのような動作を繰り返している。ほぼシャドーだが、威嚇だろうか準備運動だろうか。秋藤はナイフをカチャカチャして足でリズムを刻んでいる。いつでも来いよという雰囲気である。加古田は高速でiphoneをスクロールしている。パソコンが壊されたからiphoneを使うことにしたのだろう。一方でマルコフとミカエフはさっきからずっと乾杯してウォッカを飲んでいる。ナワリヌイは黒人部族の末裔らしいが、さっきから神に祈りを捧げる舞を踊っている。戦いは一触即発の状況だ。


先に手を出したのは角丸だった。角丸は素早くマルコフの前に距離を詰めると、ジャブを数発繰り出した。マルコフはパンチを食らったが、まるで効いた様子はない。多分ウォッカの力だろう。ミカエフは角丸の背後に回り込むと、タックルをしようと距離を詰めた。しかし、角丸の反射速度は恐ろしいものだった。距離を詰めたミカエフを数発のパンチで仕留めると、今度はマルコフにも詰め寄った。マルコフも大振りのパンチを繰り出したが、角丸はパンチをかいくぐると、カウンターのフックを放った。マルコフもその場でダウンしてしまった。すると、キエーっと雄叫びをあげてナワリヌイが頭上から飛びかかって来た。角丸はナワリヌイを抱えると、遠くへ放り出してしまった。恐ろしきは角丸の戦闘力である。

起き上がったマルコフを今度は秋藤が相手をした。秋藤はマルコフの突進をまるで音符を踏むようにリズミカルなステップでかわすと、足をかけてマルコフを転倒させた。秋藤は次々と降り注ぐビートをタップするDJのようにマルコフの連続攻撃をかわしていく。怒ったマルコフはウォッカの勢いでタックルを仕掛けると、秋藤はジャンプでするりとそれを避けて蹴りでマルコフを勢いよく前方へと押し出した。マルコフはそのまま壁に激突してダウンしてしまった。

ミカエフは加古田に向かっていった。ミカエフは銃を取り出して銃口を加古田に向けた。加古田はiphoneを素早く操作すると、ミカエフに向けて画面をスワイプした。突如、ミカエフの銃はロックされて使えなくなってしまった。ミカエフは銃を捨てて、素手で加古田に襲いかかった。加古田はさらにiphoneを操作すると、今度はQRコードをミカエフに向けた。ミカエフはQRコードを両目で捉えると、突如股間を抑えて倒れ込んでしまった。加古田がiphoneに貯めた力(性欲)を解放したようだ。勝敗はスカルアンドスネークの圧勝だ。


私は洗脳にかかったふりをして、脇でおとなしく戦況を見守っていた。流石にこれでは分が悪い。幸い、スカルアンドスネークの奴らも私の洗脳が解けていることに気付いていないはずだ。私は足元に転がって来たナワリヌイを踏んでおいた。これで気付かれることはないだろう。


ジャックは魔物のような形相でボルタ君を窓から突き落とすと、スタスタとこちらへ歩いて来てセルゲイの前で止まった。次はセルゲイを窓から突き落とすつもりだろか。

「セルゲイ、逃げろ!」、私はセルゲイに向かって咄嗟に声をかけてしまった。ハッと口を抑えてナワリヌイをさらに踏みつけた。ナワリヌイはウッと反応したが、逆らう気はなさそうだ。

セルゲイはジャックを前に仁王立ちで立ち向かうと、上からジャックを睨みつけた。しばらく向かい合ったのち、突如セルゲイはブッと吹き出して笑い出した。

「久しぶりだな、ジャック」

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