第52話 始末

待ち合わせの場所は新宿の大久保公園だ。私はキングの指示には必ず従うようにしている。昔キングに反抗してボロボロにされた奴がいた。肉体的なダメージもあるが、それより恐いのは精神的な方だ。連日の拷問は精神を蝕み自我を保つことが出来なくなる。洗脳を受ければもはや自分でいることは出来ない。全くの別人に改造されて社会的に孤立し、都合の良い怪人にされてしまうのだ。私もああはなりたくない。


今回も何の意図があるかは聞かされていない。とりあえず時間になったらこの場所に来る様に言われただけだ。今日の予定に関係する案件だろうか。後でセルゲイたちと合流する予定になっている。


そろそろ時間だ。


「あ、ほんとに来てるぞ、あいつの言った通りだ」

「うちもたまには良いことしてくれんな」

「楽しませてもらおう」


黒いスーツに身を包んだ3人の男性が柱の陰から姿を現した。

現れた3人はパニッシャーと呼ばれる奴らだ。私もよく知っている。彼らはいわゆる会社に雇われた始末人だ。左の背が高いサングラスをかけた奴が角丸(かくまる)、暴力に強いやつだ。それから真ん中の細身の男が秋藤(しゅうとう)、知能犯で手先の器用な男だ。最後に右側にいる中肉中背のパソコンを持った男が加古田(かこだ)、司令塔の役目を持つ。


「お、おまえらは!何でここに?」


「お前もよく知ってるだろう、黒いテープに失敗した奴らの末路を」


「くそっ、しまった!」

逃げようとした瞬間、両腕を角丸と秋藤に抱き抱えられた。正面から加古田が近寄ってきて下を向きニヤっと笑った。次の瞬間、頭がぼうっとして意識が無くなった。後のことは覚えていない。



次に目が覚めたとき、何故か私は椅子に座っていた。

「こ、ここは?」

「ようやく目が覚めたようだな。」目の前には秋藤が立っていた。

クロスの形をした椅子に両手と両足を縛られていた。身動きは取れない。


「く、くそ、、離せ、離してくれ。」


「お前は黒いテープに失敗したのでここで死んでもらう、無事に助かったとしてもいずれ怪人になるだろう。お前も分かっているはずだ。」


「頼む、やめてくれ。」


「おい、」秋藤が振り返って合図すると、後ろから加古田と角丸がやってきた。

「おい、いいだろ、早くやらせてくれよ」角丸がぶっきらぼうに大きな声で怒鳴り散らした。

「まあ、まだ待て、こっちが先だ」、そう言うと加古田がスマホを取り出して画面を楓美子の顔に近づけた。「お前ら、耳を塞いでおけよ。」楓美子の網膜にはあるQRコードのような画面が映り、それから君の悪い音楽が聞こえてきた。これは音楽というより、ポルターガイストのような怪奇音だ。すると画面から体の太い蛇が現れて楓美子の頭に入っていった。蛇は楓の頭蓋骨に巻きつくと頭を締め付けて最後には楓の脳の側頭葉に噛み付いた。楓美子は何か嗚咽のような声を上げながら時折ビクビクと痙攣を繰り返した。角丸が手足の枷を外すと、楓美子はぐったりとその場に横になった。

「たぶんあちらから懇願してくるだろうさ」



「ああーーくそっ、またやりやがって!最悪だあいつら、クソ野郎!」、家に帰った楓美子は怒りがしばらくおさまらなかった。体がビリビリと痺れていた。なんだか強い酒を飲んだ後のように楓美子の体は乾いている。恐怖心と不安感に押しつぶされそうだ。頭の蛇が囁きかける「部屋を出ろ」。じっとしていられない。ひどい焦燥感に苛まれて部屋を飛び出した。

楓美子はそれから三日三晩新宿の夜を踊り明かした。ホテルのパーティールームを借りて、マッチングアプリで募集して数人の若い男を呼びつけた。それからホストクラブのように男たちに金をばらまいた。財布の中身はすでに空っぽだ。酒を飲み尽くした後男たちにもう払う金が無いと言うと、怒った男たちに担がれて公園の砂場に埋められた。私を埋めた後、気が済んだのか男たちは去ってしまった。もう指一本動かす力も残っていない。このまま気を失ってしまいそうだ。

耳をすますと頭の蛇が何か言っている、「さからうな」、ウンと頷くと気分が楽になった。


スカルアンドスネークの術式は簡単には解けない。これからはやつらの指示に従わなければならない。逆らえば、また暴れることになるだろう。術式を解くにはやつらを上回ることを示さなければならない。


それからひとつだけ分かったことがある。

どうやらキングに裏切られたようだ。

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