第51話 施設

幼い頃より施設で育った私は、物心ついた時には大人をだます技術を教え込まれていた。お陰で人をあざむくことは得意だ、私が会社のスパイだと気付いているものは社内にはいないだろう。


施設というのは都内の児童養護施設だ。ある資産家の寄付により運営されている。特殊なのは能力開発系のプログラムが幾つか準備されている所だ。私は幼い頃から、計算やパズルの試験を定期的に受けてきた。もちろん成績は児童生徒の中でもトップだった。

施設にはある目的があった。それは+worldの世界で活躍できる人材を養成することだった。彼らの目的は、+worldの世界で力を誇示し、この世界を支配することだった。そのために仮想空間に適合する人間を施設内で選別していたのだった。私はゲーム内で優れた成績を納めてきた。射撃、格闘、運転など、何をやっても私の右に出るものはいなかった。そして卒業試験を経て能力を手にいれることができた。そう、砂の能力である。


卒業試験というのは、いわゆるサバイバルの試験であった。能力を申請するにはポイントを100点取ることが必要だ。私たちは100人から1人を選別するための殺し合いを余儀なくされた。1人1ポイントが付与されており、100人を倒したものが100点を取って能力を申請できるのだ。

戦闘はいわゆるPUBGのような、エリアが狭くなって最後の一人になるまで戦うタイプの戦闘である。私はエリアに召喚されると、自動小銃とチェーンを武器にし、巨大バスに乗り込んでプレイヤーを轢き殺す作戦に出た。これが私の勝ちパターンだ。

巨大バスに乗ってエリアを疾走しているとたまに外に出てウロウロしているプレイヤーがいる。あれを狙ってバスで轢いてしまうのだ。時にはプレイヤーから銃で蜂の巣にされることがあるが、バスだと並大抵の攻撃では歯が立たない。銃を撃ってくるプレイヤーに正面から突っ込むと大体こちらの勝ちだ。


エリアが一地域に制限されるほど狭くなってくると、バスでの移動が難しくなってくる。エリアは砂漠の丘陵地域で制限された。

私はバスを降りると、チェーンを持って砂漠の丘に登った。複数人の敵プレイヤーが丘陵を登ってくる。私はチェーンを手に振り回すと、敵のプレイヤーをチェーンで絡め取って動けなくした。チェーンを振り回すと大体勝てることが多い。最後の敵には接近を許し、危なくナイフで刺されてしまうところだった。しかし、寸前で砂に足を取られ相手の体制が崩れた。すかさずチェーンを絡めて動けなくすると、最後残ったのは私1人になった。砂はいつも私に味方をしてくれる。


100点を取った私は、運営から砂を操る能力を授かった。砂の能力は手を触れずに砂遊びをするようなものだ。砂を移動させて穴を掘ったり、好きな造形物を作成することができる。しかし、能力の強さは術者の集中力に左右される。

砂の能力を手に入れてからというもの、砂漠で私に敵う者は誰一人いなかった。ある日倒した敵を踏みつける姿を見て誰かが呟いたらしい、まるで女王様のようだと。それからだろう、いつの間にか私は砂の女王と呼ばれていた。

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