第33話 盗難

建物の中に入った。多くの絵画、それに彫刻が綺麗に展示してある。ここは美術館だ。美術館の中はライトアップがされていた。夜の美術館は何故か胸がドキドキと高鳴る新鮮な気持ちになった。少し時間をかけて絵画を眺めてたいところだが、その時間はないだろう、立場的に僕らは泥棒になっている訳だし、直ぐに企業側の追っ手が来るかもしれない。文書はセキュリティの面で安全なこの場所に隠してあるのだろうが、セルゲイはどうやって文書の場所を調べたのだろう。ひょっとするとアメリカ側の内通者がいるのかもしれないな。


展示品に構わず通路を進む。赤い丸の地点がどんどんと近づいてくる。

「あったぞ、この絵を盗んでいく!」、セルゲイが指差した先に、一つの絵が飾られていた。アメリカの星条旗をバックに堂々とした風情の肖像画が飾られている。空色の背景に白髪の姿は絵であっても大きな威厳を感じさせる、そう!モランプ大統領の自画像である。


「まさか、こんな絵が文書だというのか!?」、僕は砂漠のダンジョンの隠し部屋を思い出した。文書は何に姿を隠しているか分からない。あの時はジャックのカードに姿を変えていた。文書はおそらくその場所で意味のあるものに姿を変えてあるはずだ。


「じゃあ、外すぞ」、マルコフたちがモランプの肖像画に手をかけたとき、突然館内にアラームが鳴り響いた。「まずいぞ、セキュリティが来る!」振り返ると、通路からガヤガヤと人の集まってくる音が聞こえる。まずい、このままではセキュリティに捕まってしまう。僕らは絵画を抱えて急いで元来た道を戻った。


何人かのセキュリティはソーニャが体技であっさりと倒してしまった。彼らはソーニャに服をボロボロにされて戦意を喪失した。それから楓美子を見ると、セキュリティたちから謎の歓声が上がった。流石に目立つ格好なので見とれてしまったのだろう。彼らは油断した隙に服をボロボロにされた。思わぬところで彼女のハードなコスプレ趣味が役に立った。僕らは急いで入り口へと向かった。


美術館の入り口にたどり着いた。後方からはまだセキュリティが追ってきている。階段の下を見ると企業の者たちが美術館の下に陣を取っていた。黒服が電磁銃を構えてこちらに向けている。中央には橅本が巨大な炎を両手に持ってこちらを睨んでいた。橅本は何発か炎をこちらに放つと、炎は美術館の壁に当たり大きな炎が上がった。「次は外さないぞ、さあその文書をこちらに渡して大人しく投降しろ!」前後を囲まれて確かに逃げ場が無い。どうしよう。


その時、オベリスクの突先から青い光がこちらに向かって降り注いだ。僕らは青い光に包まれると、ふわふわとした気分になった。これは、ゲートを通る時のあの感覚と同じだ。次の瞬間、僕らは大きなタワーの最上階にいた。

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