Chapter 3. Angry Jack

第25話 再会

北海道中央神田世支社、そこは最後の楽園と呼ばれている。

人生を終えた者、務めを終えた者、または罪を犯した者たちが集められるその地には人の数よりも羊の数の方が多い。そこでは出社しても1日特に何もすることがなく、のどかな自然にたわむれることで人生の疲れを癒し、厳しい自然と戦うことで人生の罪を悔い改め、心が浄化されていくのを実感することだろう。だいたい1、2年でみんな辞めていくらしいが、残っている社員は猛者ばかりとも聞く。セカンドライフを楽しみたい社員には意外に人気があるらしいが。



僕は今月いっぱいで荷物をまとめて、現在働いている部署を辞めることになった。その間に神田世支社へ異動するか、会社を辞めるか選択すれば良いという訳だ。選択というが、これは99.9%辞めるパターンだ。


やはり前回の任務には裏があったということだ。報酬の大きさから怪しいとは思っていた。これは後から聞いた話だが、黒いテープのもう一つの噂だ。テープを送られたものはその後数ヶ月で部署からいなくなるらしい。これはあくまで確率的にいなくなる確率が上がるというだけで必ずしもそうとは限らない訳だが、僕の場合は明らかに厄介払いの気配を感じる。初めからそのつもりで僕を任務に呼んだのだろうと。


僕からすれば、すでに会社では変態の烙印を押されてしまっているわけで、このまま残っていても日の目を浴びることはないだろうと思っていた。退職金も報酬として戴く訳だし、この辺りが潮時かという感じだ。そう言って頭をかいた。やれやれ、年貢の納め時という所だろうか。早速荷物の整理を始めた。


帰り際に楓美子が寄ってきた。こちらの様子を伺うように近づいてくると、片手を上げて「ヨウ!」と慣れた感じで声をかけてきた。どうやら僕のことを心配してきてくれたらしい。それから片手をジョッキを持つ手の形にして顔の前でクイッと持ち上げるジェスチャーをしてみせた。多分おごりだ。


新宿方面へ出かけた。彼女は新宿駅に着くとスタスタと西口を降りて思い出横丁の方に行き、迷わずに立ち飲み屋へ入った。僕は楓美子の後をただ付いていった。立ち飲み屋なのでメニューの種類が豊富でたくさん頼める上に値段は安い。「何でも頼め」、やはりここは彼女のおごりだ、彼女は会社の先輩であるのでこういうのは意外と慣れているのだ。「お前には世話になったな」、そういうとビールを飲み干し、次に清酒を注文した。「ああ、ほんとお前には世話になった」、そう言うと反対側で飲んでた背の高いおじさんがウォッカを注文した。「では、これからお前に次の任務を伝える、でもその前にもう一杯だ!」。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る