第24話 報告

任務の後、社内のルーム401に呼ばれた。


部屋の中には楓美子が既に来ていた。彼女はグレーのスーツパンツと白いカットソーに黄土色のカーディガンを着ており、ウェーブのかかった長い髪に黒いフレームのメガネをかけていた。社内ではおとなしめの地味な方でこれまであまり人と話してる姿を見たことがない。外見ではゲーム内のキャラと同一人物にはとても見えないが、顔をよく見ると確かにゲーム内の彼女であった。彼女は下を向いてずっと携帯を触っていた。僕らは距離を開けて座った。が、暫くすると気まずくなってきて、遂に話しかけてしまった。

「か、楓さん、この間はどうも、」

楓美子は視線をこちらに移すとものすごい怨念のこもった大きな目でこちらをギロッと睨みつけてきた。「話しかけるな、殺るぞこの野郎!」と言われている気がした。それから視線を落とすと再びすごい速度で携帯を触り始めた。そう、彼女は僕を恨んでいるのであった。おそらくセルゲイと1億円を逃してしまったことを恨んでいるのだ。僕はドキドキしながら指令がくるのを待った。


部屋の中にはモニターが一つ置かれていた。暫くしてモニターに自動的に明かりがついた。砂嵐が流れた後に一人の人物が立っていた。鬼面であった。

「君たちご苦労だったな、それで例のブツはどうなった?」

楓美子は再び僕をギロッと睨むと、鬼面に向かって、

「あ、あれは全部こいつが悪いんで、私はちゃんとやりました、こいつがセルゲイを逃したせいで、私は悪くないんです」、そう言って完全に僕を裏切ると鬼面に助けてくれと懇願しているようだった。

僕はアイテムボックスを起動するとトランプを取り出して、そこからジャックのカードを鬼面に転送した。鬼面がジャックのカードを開くと、それは一本のUSBメモリに変換された。そう、これがジャックが盗んだ本物の文書だ。


「そうか、よくやったな、報酬は後日口座に振り込んでおこう、では帰っていいぞ」、鬼面がそう言うとモニターが消えて再び部屋には僕と楓美子だけになった。楓美子は何か喋りたそうだが言葉にならない声を発してこちらを見ている。僕はダンジョンでカードを手に入れた時、念のために自分の持っているトランプのカードと入れ替えておいたことを楓美子にゆっくり説明した。楓美子は納得してくれたようで、何度も頷いては僕の手を取り腕をぶんぶんと振り回し、君は何てことをしてくれたんだという顔で感謝され、終いには涙目で部屋を飛び出して行った。


それから僕に辞令が出た。内容は北海道中央神田世支社への出向ということだった。簡単にいうと退職勧告であった。どうやら任務の報奨金は僕への退職金代わりという意味だったようだ。

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