第132話 VS シルビア 戦いの始まり

聖世紀1211年夏 アルバニ王宮内地下牢 アベル5歳


シルビアがクルッと方向転換してラムの牢獄の方に移動しはじめた。

アベル達は慎重にシルビアの10メートル後ろをハンの影移動とバエルの隠蔽の

二重のスキルで移動し始めた。


両側の石牢には串刺し死体しかなかったが奥に進むにつれて

かろうじて生きている囚人たちの姿に変わっていった。


アベルは囚人達を見つめながらプルソンとバエルに念話する。


[この人たちも助けないとね。]


プルソンが念話で答える。


[そうですね、今は無理ですから、アベル君がギルメサイア姫を助けることがこの人たちを助けることにも繋がりますからね。まずはラムさんを助けましょう。]


バエルもアベルに念話しながら笑っている。


[ふふふっアベルよ。子供のくせにあんまり欲張るなよ。今はドラゴニュートの娘を助けることに集中だぞ。それに言っとくが戦闘は無しだぞ。ふふふふっ]


すると目の前のシルビアが牢屋を通り過ぎて突き当たりの階段を上がっていくのが見える。

それを確認したアベル達はチャンスとばかりに急いでラムの牢獄の前まで移動する。

アベルがラムのいる牢獄の檻の中を覗くとラムは牢の壁に両手両足を鎖に繋がれて

衰弱していた。

アベルは牢の前で隠蔽を解いて、龍の宝物庫から素早くクリシアを登場さ

ラムに話しかけさせる。


「ラム、わかる?クリシアよ。リトルドラゴン様と一緒にあなたを迎えに来たわ。」


目を瞑っていたラムが薄く目を開けて弱々しく答える。


「リトルドラゴン?誰? あっ、お姉様、ここは危ないから、早く逃げないとダメですよ。私はどうなってもいいですから。」


それを聞いたアベルが悲しい顔をしながら答える。


「せっかく助けに来たのにそんな悲しいこと言うなよ。」


アベルが右掌をラムにかざすと鎖や柵など関係無くラムが龍の宝物庫に吸収された。


「クリシア、ラムを頼む。」


アベルがクリシアに一言言って続けてクリシアも龍の宝物庫に吸収する。


その時、すぐそばの突き当たりの階段の上からすごい勢いで

シルビアがこちらに向かってくる気配をアベル達全員が感じた。


バエルがアベルに声を出して警告する。


「やばい、あいつがくるぞ、とにかく姿を消すぞ。」


そう言うとバエルが素早く全員の姿を隠蔽してその場にじっと待機をした。

シルビアがラムの檻の前に到着すると檻の中のラムが既にいないのに気がつく。


「なにか・・・変な魔力反応がありましたね。んんっ、ふふふっ・・・どうやったのか知らないけど一瞬で人質のトカゲ娘が消えているわね・・・やはり裏切ったトカゲがここに侵入したのかしらね。まぁいいわ。見つけて殺すだけだから。」


そういうとシルビアの目が赤く光り始めて周りを見つめてアベル達の魔力反応を見つける。


「見つけましたわ。もうちょっと上手く隠れないと息遣いが聞こえますわよ。さあ覚悟しなさい。もうあなた達は逃げられないわよ。このブラッドソードの糧になりなさい。」


シルビアが右手に持った剣を上段から振り下ろしてくる。

アベル達は大きく後ろに飛んで攻撃を避けると同時に姿を現す。

アベルが声を上げる。


「嗚呼、戦闘になっちゃうね・・・会いたくないヤバイ子に見つかっちゃったね。こっちも準備しないとこれは殺されちゃうかもしれないね。ハン、後ろに下がってこの記録石でこの状況を記録しておいてね。バエルとプルソンは僕を補助してね。僕はこの場からうまく逃げれるように頑張ってみるよ。」


アベルの言葉を聞いたバエルがニヤリとして一言。


「死ぬなよ。アベル。助けて欲しかったら泣かないですぐ俺様に言えよ。くくくっ」


裏切ったドラゴニュートが来ると思っていたシルビアは目の前に現れた

肩に猫を乗せた美しい子供に驚いて攻撃の手が止まる。


「子供・・・お前は誰だ。」


アベルはシルビアに真剣に答えるつもりは無い。


「あのね、自分だって子供じゃないか。」


するとシルビアが勝ち誇った笑顔になってアベルに警告する。


「生意気な子供なのね。本当にかわいそうだわ。あなたは何も知らないのね。どうせここで死ぬから教えてあげるけど、私はこの国の次期女王のシルビアよ。しかもお前のような下等な人間ではなくて、崇高なヴァンパイア族の末裔なのよ。子供のあなたここまで来れたのは褒めてあげるけど私に出会ってしまって本当に運が悪かったわね。ここで死になさい。」


と言いながらブラッドソードをアベルに向けて横凪に払った。

アベルは間一髪、龍王の短剣でブラッドソードを受け止めて

シルビアに答えた。


「運が悪いのはどっちかまだわかんないよ。あのね、それにこの国の次の王女はギルメサイア姉ちゃんだよ。君みたいなヴァンパイアはずるい事しないとこの国の女王様になれないんだよ。」


ギルメサイアの名前が出た瞬間、笑顔のシルビアから一転して怒りの顔に変わる。


「なぜお前がギルメサイアを知っている!!!」


シルビアは一瞬、自分の攻撃を受け止められて驚いたが

ギルメサイアの名前を聞いてすぐに立ち直りアベルに向けて赤い瞳を光らせた。


『魅了』


赤い外見が光り輝いてアベルを包み込んだ。


「ほほほほっ。本当に残念ね。もう私の魅了からは逃げられないわよ。本当ならあなたは美しいから私の玩具にしたいところだけど、もう貴方が何者でもいいわ。私、子供を殺すのは嫌だから自分の短剣で自分で死になさい。優しいでしょ。ほほほほっ。」


シルビアの目が光ってアベルに命令する。


『汝に命令する。自分のナイフで自分の心臓を抉るのです。』


虚な目をしたアベルがゆっくりと短剣を両手で掴んで振り上げる。


勝ち誇ったシルビアはブラッドソードを腰にしまってアベルに近づく

アベルの顔を愛おしそうに左手で撫でる。

そしてアベルが短剣を勢いよく振り下ろした。


「ぎゃーーーー」


アベルが近づいていたシルビアを短剣で頭から真っ二つにした。


魅了を受けても平然としているアベルをシルビアは真っ二つにされながら

驚いて見つめ二つに裂けた体で弱々しく話す。


「うううっ何故だ。私の魅了にかかったはずなのに何故私に攻撃ができるんだ?」


というとシルビアの傷口がゆっくり塞がり始める。

アベルが左手首の蛇の刺青を触りながら後ろに飛んで距離をとりプルソンに念話する。


[やっぱりあれくらいの攻撃じゃヴァンパイアは死なないね。でも王都のギルド長ラキログにもらったアスクレピオスの腕輪のおかげで助かったね。]


プルソンも驚きながら念話で答える。


[いやいや本当にアルベルトさんの魔道具は良い性能ですね。ヴァンパイアの魅了を防ぎますか? 全く1000年前のものとは思えないぐらいの魔道具ですね。]


続けてバエルも念話でアベルに答える。


[まぁアベル、仕方ないぜ。伝説のヴァンパイアは強いからな。そう簡単には死なないぜ。もう不意打ちはできないからこれからが本番だぜ。]


目の前に少し左右がズレているシルビアが復活して激怒して叫んでいる。


「あなた何者なの。貴方私を怒らせましたよ。もう子供だからって手加減しないわよ。」


シルビアが力を貯めているのがわかる。

アベルも負けじとシルビアに言う。


「僕ももう女の子だからって手加減しないからね。」


龍王の短剣を龍の宝物庫に入れて代わりに銀の聖水弾を仕込んだアンブラを取り出した。


するとシルビアが獣のような声で咆哮する。


「グァアアアアアアーー」


髪の毛が逆立ち、目は一層赤く輝くと地下牢の床を濡らしていた血が

シルビアにズルズルと集まってシルビアに吸い込まれていく。

地面の血を吸い取ったシルビアの背中から蝙蝠のような羽が生え始め

頭には山羊のようなツノがあらわれた。そして口が大きくなり鋭い牙が現れた。


バエルが念話でアベルに話しかける。


[おい、あれがヴァンパイアの本当の姿だぜ。すげえな。]


アベルがため息をつきながら念話でバエルに答える。


[あんな可愛い女の子だったのにね。僕はがっかりだよ。]


プルソンが今までと違う雰囲気でアベルに警告する。


[アベル君。今からはお遊びはありませんよ。真剣に戦わないと簡単に死にますよ。]


アベルも気持ちを引き締めてプルソンに念話で答える。


「わかっているよ。獅子はね兎を狩るのも全力で狩るんだよ。]

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