第70話 VS聖教会 地獄門
聖世紀1211年夏 バーク近く 海の見える草原 アベル5歳
アベルが目を閉じて短く息を吐く。
アベルが呪文を唱えようと集中するとアベルの周りの魔力値が急激に跳ね上がる。
何か力が渦を巻いてアベルに集まっていくのがわかる。
星の聖女ダリアスが黒龍に聞く
「黒龍よ。今からアベルが使うアレがお前らの龍魔法か?」
黒龍がアベルを見つめながら
「オババ様、リトルドラゴンはまだ龍魔法の初級しか使えません。それに龍魔法はこんなに膨大に魔力を使いません。」
ダリアスが少し考えて
「と言うことはこれは・・・もしやアベルが失われた古代魔法を使いよるか!! 」
バエルが異質な魔力値の変化に気がついて焦っている。
「おいおいおい、これはやばいぞ。この魔力の雰囲気はなんだよ。なんでこんな魔法をガキのアベルが使えるんだよ。」
ダリアスがハッと気がつく
「やはりこれは、アルベルト・ラジアスの古代魔法じゃ。この魔力量は超級か?いや神級かもしれん。イベルマ、黒龍、ハン、そこの兄妹死にたくなかったら早くこっちへ来い。守り切れるかわからんがこのおばばの結界に早く入れ!! バエルはそこで大丈夫か?」
星の聖女ダリアスが叫ぶ
「大丈夫だ。俺はここで結界を張ってアベルの体を守る。こいつ自身の体も子供だから耐えられるかわからんからな。」
バエルがアベルの肩にしがみついている。
「ごめんねバエルさん。アベルを守ってね。」
イベルマが申し訳なさそうにバエルに言う。
「ああ、まかしておきな。俺はコイツの友達だからな。」
星の聖女ダリアスが結界を何重にも張ってイベルマも光の結界を唱える。
黒龍も龍魔法の結界を唱える。
ドラゴニュート兄妹は黒龍の腰を掴んで後ろで踏ん張っている。
星の聖女も叫ぶ
「いかん、もうすぐ詠唱が始まるぞ。皆の者気をしっかり気を持てよ! 」
アベルが目を閉じて両手を広げてゆっくりと魔法の詠唱を始める。
『我この世に冥府魔界を召喚せんとする選ばれし7人の闇の賢者なり、願わくば我が全魔力と31のこの罪深き汚れた者たちの御霊を対価にこの地に地獄門を出現させたまえ。』
詠唱が始まると先ほどまでの爽やかな天気と変わって空が赤黒く変化していく
深紅の雲から紅い雷が何本も地上の騎士たちに直撃する。
赤黒色の雲から血の雨が降り騎士の周りだけ血の海となる。
血の雨は騎士団の白い鎧を深紅に染めていく
騎士団たちが降り始めた血の雨に騒ぎ始める。
しかし踝まで冠水した血の海が騎士団を拘束して騎士たちが一歩も動けなくなる。
『ううううも嗚呼嗚呼、おおお、ぐわわうあああ。』
地の底から地獄の亡者の声が周囲に響き渡る。
というかその声しか聞こえなくなる。
騎士団たちがその声に耐えきれず全員耳を押さえてもがいている。
すると血の海から錆びた鉄のような魔法陣がゆっくり浮き上がる。
アベルの詠唱は続く
アベルが急に目を開ける。
その目は赤く染まりその目からは血の涙が流れている。
アベルの小さな体が魔法陣と同じように
1メートルほどの高さにゆっくりと浮上し停止する。
アベルは大きく広げた両手をゆっくりと胸の前で祈るように組んで
まるで祈りのような詠唱を続けた。
『この世に禁呪のひとつを召喚する罪深き我をお許し下さい。永遠の物のほか物として我より先に創られしは無し、しかして我永遠にこの世界に立つ、汝らこの門をくぐるものは一切の希望を捨てよ。我の命によって今ここに開らかれん。 第1界禁呪魔法地獄門。罪の重さを無限に悔いなさい。』
血の底から恐ろしい誰かの声が聞こえる。
『アルベルトよ。久しぶりよのう。其方の願い承知した。』
その声を聞いたバエルがつぶやく
「ルシファー?なのか・・・」
詠唱が終わると7つのラッパの音が順番に鳴り響く
普通に結界無しに聞くと気が狂いそうな音だ。
そしてラッパが鳴り終わると血の滴る魔法陣から
禍々しい地獄に落ちた亡者たちがよせ集められて形を成している門がゆっくり現れる。
その門の形を成しているかつて人間であった亡者が口々に悲鳴や唸り声をあげている。
そしてその猛者たちが一斉に目をあけて聖教会の騎士たちを見つめる。
門からも血が滴り落ちている。
亡者の視線とうめき声とその門のビジュアルで聖教会一団が気が狂いそうになっている。
星の聖女がこの光景を見て呟く
「これは・・・古代魔法なんかじゃ無い・・・これは失われた神の使う神級禁呪魔法地獄門じゃ。」
「禁呪魔法・・・地獄門・・・」
イベルマがアベルを心配そうに見つめている。
そして門の扉がゆっくりと開いていくとその先に
焼け爛れた歪な世界が延々と続いているのか見える。
星の聖女ダリアスが叫ぶ
「おい、皆の者あの門の中を見るなよ!!! あれは生きてるものが見てはいけない地獄の景色じゃ!!!まともに見ると頭が狂うぞ。」
『ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン』
扉が完全に開くと教会の鐘のような音が大音響で鳴り響く
その音で騎士団たちが耳を押さえて狂いそうにもがいている。
鐘の音が鳴り止むと聖教会の大司教一団に
血の海から出現した赤黒い髑髏が騎士団にとりついた。
赤黒い髑髏が生きている騎士の肉体から魂を無理矢理剥がしていく
大司教には大きな髑髏が取り憑いて魂を剥がしている。
その魂を抱えたまま赤黒い髑髏がそれぞれ門の中に持ち去る。
髑髏はイベルマたちにも近づこうとするが威嚇するだけで取り憑かれなかった。
生きたまま魂を剥がされる時に激痛が走るようで
聖教会一同の喚き声があたりに響き渡る。
その騎士たちの声が地獄門の声と合わさってまさに地上に地獄が現れる。
魂が全て門の中に吸い込まれると
門の前に残された死体や馬車や馬が血の海にゆっくりと吸い込まれていく。
そして地獄門の扉が閉まる。
地の底からまた声が聞こえた。
『アルベルトよ。またな。バエルよ。ククク、お前もおったか またな。』
すると地獄門が魔法陣に沈むと錆びた魔法陣が血の海に沈んでいく。
そして血の海も地面に沈んでいくと景色は何事もなかったかのように
元の爽やかな海の見える草原となる。
しばらく間、遠くの波の音しか聞こえない。
風に吹かれた黒い髪のアベルがみんなの方に振り返り爽やかな笑顔で丁寧に一礼をした。
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