第14話 ハンナの決意

聖世紀1212年春 ユミルバ アベル6歳


走っていくアベルの後ろ姿を小さくなるまで

心配そうに眺めながらハンナが寂しそうにオンジに言う。


「ねえ、あんた。アベルは本当にいい子だね。」


オンジ、掃除をしながら同じようにアベルの後ろ姿を見て

竹箒の持ち手に顎を乗せながらオンジがハンナに言う。


「おいおい、なんだよハンナ。お前、今頃気がついたのかよ。俺なんか、アベルが赤ちゃんの頃からこいつはいい子だとおもってたぜ。」


ハンナが小さくため息をついて


「バカ違うよ。今、改めて思うんだよ。」


オンジ、ハンナの言葉の意味を何も理解できないようだ。


「なにを? なんで? どうして今さら改めて思うんだい。」


ハンナ、オンジを諭すように


「アベルは、あんな事件がなかったらさぁ、魔なし無能扱いされずにこの街で生まれた他の子と同じように魔導士にもなれたかもしれないのにね。」


それを聞いたオンジは問題ないと言わんばかりに


「なんだよ。そんなもん魔導士なんかになれなくてもあいつはいい奴だ。今はまだ周りに言えねえだけで龍魔法なんて人の身での使えねえ魔法も稽古してるんだぜ。それに天才アルベルト・ラジアス様の生まれ変わりだぜ。それだけありゃお釣りがくるぐれぇじゃねえか。」


それでも心配してしまうハンナ。


「でもね。今の貴族社会は平和すぎて本当にバカだから、現代魔法を使えないことや人と違うということは生きてて辛いこともあると思うんだよ。しかも龍魔法やラジアス様の生まれ変わりのことは今は公表できないから余計に辛いわよね。」


何もわかってないようで正論を言うオンジ。


「そらあ、辛いかもしれねえが、アベルが与えられた運命を一生懸命頑張ればいいじゃねぇか。」


ハンナも考え直す。そして決意する。


「そうね運命ね・・・よし、私決めたわ。あの子に私の技の全てを伝授して、この先、アベルをバカにする奴をアベル自身が腕力で排除できるように『鉄拳』の全てを相伝するわ。」


驚いているオンジ。


「オイオイ。ぶっそうな話だな。アベルがお前の「鉄拳」の称号を受け継ぐのかよ。」


固い決意を表明するハンナ。


「そうするわ。『鉄拳』の名前を継いでもらうわ。明日からのアベルの修行が本当に楽しみだわ。」


オンジがハンナのやる気に少しビビりながら


「おいおい、やりすぎるなよ。ほどほどにしてやれよ。」


ハンナはお構いなく


「あんたはそうやってすぐにアベルを甘やかすのね。」


オンジが口を尖らせながら


「そらぁ俺だってかわいいアベルを甘やかしたい年頃なんだよ。」


そのオンジの姿を見たハンナが少し笑いながら


「何が年頃よ。岩石みたいなゴツゴツのくそ親父が」


オンジの表情が緩む


「ちげえねえや。」


2人で顔を見合わせて大笑いしている。

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