第40話 不死者

「後はひょろっとした兄ちゃんと、胸がやたらとでかい姉ちゃん。そして子供じゃねえか。全然、強そうに見えねえぞ」


 まあ、印象としては間違ってはいないとファジルは思う。ただ、胸がやたらとでかいと言われた瞬間、エクセラの赤髪が宙を泳いでいた。


 横目でその顔を見ると、盛大に頬を引き攣らせている。カリンの方はほえーといった顔で平常運転のようだ。


 ただ男はエクセラの雰囲気を見て不穏な何かを察したようだった。少しだけ慌てた様子で口を開いた。


「そ、そう言えば少しだけ特殊な依頼があってな……」


「はあ? 特殊な依頼?」


 エクセラが片眉を跳ね上げて男の言葉を低い声で繰り返した。


「あ、ああ……」


 そんなエクセラに気圧されるようにして、男が再び口を開いたのだった。





 「……で、ここが不死者のお家なんですかー?」


 カリンが鼻息も荒く、大きな門の前で仁王立ちになっている。


 ガルヴィナの街を出て北西に暫く歩いた所にある古い洋館に不死者が棲みついてしまった。直接的な被害があったわけではないのだが、やはり不死者ということで街の皆が気味悪がっている。被害があったわけでもないので退治するということではなくて、穏便に棲みついた不死者の目的等々を調べてくれないか。そして可能であれば転居を薦めてほしい。


 それが冒険者協会の受付にいた男が口にした依頼内容だった。被害があったわけではないので、あくまでも穏便に。何ともこちら側の都合がいい内容だと思わないでもない。


 受付にいた男が提示した依頼はそのような依頼だったのだが、その依頼を聞いた時からカリンさんだけはかかり気味だった。理由は分からない。


 天使と不死者って相性が悪かったのか? 

 聞いたことはなかったが、何となく理屈として分かるような気もする。あくまでも何となくなのだが。


「ちょっとカリン、私たちは喧嘩をしにきたんじゃないんだからね」


 何故かやる気満々で息巻くカリンをエクセラが諌めている。


「喧嘩じゃないんですよー。生命の理から逸脱した不浄な者は浄化なんですよー」


 カリンは片手に持っている杖を何故かさっきからぶんぶんと振り回している。


 いやいや、浄化って喧嘩よりも過激なんじゃないか?


「カリン、まずは最初に落ち着いてから相手の話しを聞こうな。浄化だ、何だはその後だ」


 ファジルは鼻息を荒げているカリンを見て、取り敢えずそう言ってみた。


「大丈夫なんですよー」


 そう言ってカリンは変わらずに杖をぶんぶんと振り回す。そんな彼女を見ている限りでは何が大丈夫なのかが分からない。


「ちょっとカリン、本当に落ち着きなさいって」


 見兼ねてなのかエクセラが再びカリンに声をかけている。


「エクセラ、天使と不死者って仲が悪かったのか?」


 ファジルの言葉にエクセラが首を捻った。


「不死者にしても天使にしても珍しい存在なのよね。どうなのかしら。でも、天使が使う神聖魔法と不死者の相性は悪いわよね。何と言っても不死者は神の意志に反する存在だから……」


 エクセラはそう言ったが、今ひとつカリンがここまで鼻息を荒げて、前のめりになる理由にはなっていない気がする。


 なあとばかりに先程から黙っているガイにファジルは視線を向けた。そんなファジルにガイは茶色の頭を左右に振った。


「天使と不死者の相性が悪いなんて話は聞いたことがないな。そもそも、どちらも希少種だ。互いに出会うことなんて滅多にはないと思うぞ」


 ガイの言うことはもっともだった。その間もカリンさんは杖をぶんぶんと振り回している。


「ほら、カリン! いい加減にしなさいよ。杖をそんなに振り回したら危ないんだから」


 エクセラの言葉もあまり耳には入っていないようだった。ほえーっと言いながら、変わらずにカリンは杖を振り回している。

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