第39話 冒険者組合

 混沌としてきた場でガイが呆れた様子で口を開いた。


「おいおい、どうでもいい喧嘩なんかしてないで、少しはもっと現実的な方向で考えようぜ」


 珍しく筋肉ごりらがまともなことを言う。


「はあ? もっと現実的って何よ? このなんちゃって幼児をファジルみたいな変態に売れば、万事が解決でしょう? 物凄く現実的じゃない!」


「ほ、ほえー? 売っちゃ嫌なのですー」


 カリンが両手を上下にぱたぱたとさせる。


 いや、だから、俺みたいな変態って……。

 心の中で呟くのも面倒になってきた。


「まあ、その話は置いておいてだ」


 いい加減にしろといった感じで、ガイが渋い顔をしながら言葉を続けた。


「まあ、魔獣討伐が現実的だな。何せ、俺たちは冒険者に近いわけだから」


「魔獣っていっても、こんな大きな町の近くには危険な魔獣なんてきっといないぞ」


 ファジルはガイの言葉に反論する。山間にあるような村ではないのだ。ガルヴィナぐらいの大きな街の近くに危険な魔獣が棲息しているとは思えなかった。もしそのような魔獣が近くにいるのであれば、そもそもここまで街が大きくなるはずもなかった。


「まあ、そうかもしれないが、分からんさ。これだけ大きな街だ。冒険者組合もあるだろうからな。明日、行ってみるとしようや」


「冒険者組合って言っても、私もファジルも組合になんか入っていないわよ。そこの何ちゃって幼児だって絶対に入っていないでしょうし……」


 そう言っているエクセラの横でファジルも頷いてみせた。


「お前たち、誰も入っていないのか? 旅をするなら冒険者組合に入っておくのが基本だろう。どうやって旅の路銀を稼ぐつもりだったんだ?」


 ガイの言葉はもっともで反論の余地はなかった。続けてガイは口を開く。


「俺がちゃんと組合に入っているから大丈夫だ。どんな依頼は受けられるぞ」


 ガイは少しだけ誇らしげだった。


「そうか。そいつは助かるな」


 ファジルはそんなガイに素直に礼を述べる。


「カリン、頑張って魔獣退治をするわよ。頑張らないと、本当に売っちゃうんだからね」


「は、はいっ! ぼく、頑張るんですよー」


 エクセラの言葉にカリンが真剣に頷いている。

 いやいや、エクセラにカリンを売る権利なんてそもそもがないだろう。それでいいのか、カリン……。

 そう思うファジルだった。

 




 「いやあ、流石に危険な魔獣なんてこの辺りにはいねえぞ。山や森の中に街があるわけじゃねえからな」


 ガイの問いかけに冒険者組合の受付にいた男が呆れたような顔で言う。田舎者が何を言っているのだといったような感じだった。それを聞いて不満そうな顔をしているガイとエクセラを横目に、ファジルはそれも当然だろうと思う。


「じゃあ、他にどんな依頼があるんだ」


 ガイが渋々といった感じで質問する。どうやら筋肉ごりらとしては魔獣退治をしたかったらしい。


「まあ、大体は旅人や商隊なんかの警護だな。商隊は山や森林を越えたりしないとならねえからな。それこそ危険な魔獣から守ってもらわないとってことだ。魔獣を退治したいのか? だったら好都合じゃねえか」


 男の言葉にガイは更に渋い顔となる。


「いやあ、時間を取られるのは困るな。俺たちにも目的があるからな」


「はあ? そんな自分たちに都合のいいような仕事が、都合よくあるわけねえだろう。冒険者組合の依頼を舐めるんじゃねえ」


 男がガイに負けじとばかりに渋い顔で言う。何だか随分と言葉が乱暴な男のようだった。


 もっとも普段から得体の知れない冒険者たちを相手にしているだろう。これぐらいでないと逆に舐められてしまうのかもしれない。


「こう見えて、俺たちはそこそこ強いんだぜ。ちょっとしたぐらいの魔獣なら、難儀するなんてことはねえ」


 ガイの言葉に男は胡散臭そうな目を向ける。


「まあ、あんたはその体格だからな。分からなくもないが……」


 男はそう言って残るファジルたちに視線を向けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る