第22話 コザの村

 反論しようと口を開きかけたファジルに、ガイは更に言葉を被せてくる。

 

「ま、まあ、あれだ。黒竜がいなくなるまで、俺たちの根城でゆっくりしていけ。急ぐ旅でなければ、それがいいと思うぞ。何、根城と言っても小さな村だ。何の気兼ねもなく過ごせる」


 そう言われてしまえば、拒否する理由はないように思えた。いずれにしても、ガイが言うように黒竜がいる以上は先に進めないのだ。


 ファジルが同意を求めて茶色の瞳をエクセラに向けると、彼女は小さく頷いた。


「いいんじゃない。黒竜がいなくなるまで野宿ってわけにもいかないから。お邪魔させてもらいましょうよ」


 エクセラの言葉にガイは嬉しそうな顔をする。そんなガイの姿を見て根っこはいい奴なのだろうとファジルは思う。


「何と言っても俺の弟弟子だからな。特別待遇で迎えるぜ」


 そう言ってガイが豪快に笑うのだった。





 ガイが根城にしている村はコザの村といった。ガイの話では村民は二百人程度で、それに加えてガイの言う正義の山賊とやらの三十名ほどが暮らしているらしい。


 ガイがファジルたちを連れて村に戻ると、たちまち三人の男たちが近寄ってきた。


「兄貴、お帰りなさい!」


 三人の男たちは口々に馬鹿でかい声でガイを出迎えている。兄貴とガイを呼ぶぐらいだから、元々はこの男たちも山賊なのだろうか。


 そう思って彼らを見ると人相が悪く見えてくるのが不思議だ。。

 そのうちの一人がファジルたちを見ながら口を開いた。


「兄貴、客人ですか?」


 客人って何だよとファジルは心の中で呟く。


「おう、この男は俺の弟弟子になる男だ。偶然に出会ってな」


 余り弟弟子を口にしないでほしいと思いつつ、ファジルは出迎えにきた男たちに向かって軽く頭を下げた。


「ファジルです。彼女はエクセラ、そしてカリンです」


 エクセラとカリンもファジルと同じように頭を下げてみせた。


「兄貴の弟弟子さんですか。そりゃあ、強いんでしょうね」


 集まってきた男たちが感心したように頷いている。


 いや、名前はファジルだから。弟弟子には違いないのだが。

 ファジルは心の中で呟く。


「ファジルはもの凄く強いんですよー」


 カリンが鼻息を荒げながら、男たちに火蜥蜴を退治した時の様子を話し始めた。時折、男たちの間から嘆息めいた声が上がる。


「見た目はともかく、悪い奴らじゃない。もう悪さもしてないしな」


 ガイは何が面白いのか、そう言った後で大口を開けて笑っている。


「黒竜が近くにいるっていうのに、随分とのんびりとしているのね」


 エクセラは緊張感が見られない村の雰囲気を感じたのか、疑問を口にした。


「竜種は賢い。こちらが手を出さなければ、人を襲うことはないからな。だから、近くにいても村が襲われるような心配はないのさ」


 ガイの言葉にファジルはそんなものなのかと思う。ではなぜそんな賢い竜種が人里近くに現れたのかという疑問がやはり出てくる。


 そんなファジルの疑問も知らずにガイが言葉を続けた。


「ただ、念のために村の警備だけは必要だからな。それで、その警備を俺たち正義の山賊が引き受けている」


 ガイが胸を張っている。

 

 ……正義の山賊。

 もはや、その言葉を聞くと何かを言う気力がなくなってくる。


「村の東に宿屋がある。大した宿屋じゃないが、風呂もあるし旅の疲れぐらいは癒せるぞ」


 ガイの風呂という言葉にエクセラの顔が輝いた。


「村の警護は正義の山賊に任せて、私たちは宿屋に直行よ!」


 エクセラは既に鼻歌混じりだ。


「正義の山賊に任せるのですー」


 意味が分かっているのかカリンも嬉しそうにそう言いながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。ただ、エクセラが言うことはもっともなようだった。


「そうだな。どちらにしても、先には進めないみたいだからな。黒竜がいなくなるまで、この村にとどまるか」


 ファジルがそう宣言するとエクセラもカリンも笑顔で応えたのだった。

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