猛毒母と私
@sa6ku8ra
第1話 祖父と私
祖母は3年前に亡くなった。
祖父は昨年亡くなった。
祖父の遺産が全て私のものになった。
祖父からの預貯金を、母の指示通り、少しずつ引き出して、母のアパートに宅配便で送っている。
会社からの帰り、ペットショップでトイプードルのわんこと目があった。ウチの子に
なってくれた。
チャッピーと名前を付けた。
同居している父とは、顔を合わせる事もなく、会話もない生活だったけれど、チャッピーのおかげで最近話しをするようになった。
祖母は優しい人だった。
祖父は厳しい人だった。私は祖父が苦手だった。
2015年7月、私は、母と、母の車で祖父母の家に行った。
「じゃあね。おばあちゃん待たね」
「はーい」
祖母が明るい返事をしてくれた。
祖母の部屋から廊下に出た私は、むわっとした空気で不快になった。
玄関で靴を履こうとした時、二階のドアのバーンという大きな音で更に不快に
なった。
祖父だ。祖父が杖で階段を叩きながら下りてきた。
顔は逆光で見えなかったが、白いシャツ、白いステテコ、首にタオルを巻いた祖父が
「お前はぁ」と言って目の前に現れた。
ものすごく怒っている。
鬼の概念は、人それぞれだが、私はこの顔に角を付けたのが鬼だと子供の頃から
思っていた。
「あ、じいさん」
言ってすぐ、しまったと思ったが、もう遅い。
「やっぱりな。あいつと同じだ。ワシのことをじいさんと言う。ぽかーんと口を
開けるな。しっかり閉じろ。余計、頭が悪く見える。ワシに挨拶なしで帰るつもり
だったな。あいつの言う通りしなくていいじゃないか。操り人形か。あなたの
おつむは空っぽですか?」
祖父は、左手に杖を持ち、右手を軽く握って自分の側頭部を二回トントンとした。
「ところで、前回、いつ来た?」
恐ろしい顔に戻った、祖父が言った。
「秋ぐらい」
「10月12日だ。ワシの日記に書いてある。下で、お前とあいつのギャーギャー騒がしい声が聞こえてた。かあさんの声は聞こえない。静かになったと思ったら、ワシの部屋の窓からお前の母親の車が去っていくのが見えた。お前、”米寿”というのを知ってるか?」
「米寿は、大抵の人が知っていると思う」
「可愛い気がないな。ワシの誕生日に、真也さんと奈津が大阪から来てくれて、お祝いに箱根まで連れて行ってくれた。富士山の裾野まできれいに見えた。夕食は河豚の
コース料理をご馳走になった。酒もいっぱい飲んだ。週末は、和也が神戸から、良子が横浜から来てお祝いしてくれた。お前のところは何もない。大体、茂雄はこの家を建てた20年前、新築祝いに来て、それっきりこの家に上がったことがない。旅行にワシらを連れて行くなんて発想はひとつもない。暇なくせに」
「お母さんが計画してくれて、みんなで軽井沢に行きました」
「なんだと。あいつの計画?あの嘘つき女は。お前の家では、そんな話になっているのか」
祖父の顔がどんどん赤くなっていく。赤鬼だ。
「軽井沢は二回行った。二回とも、真也さんが考えてくれた。ワシに手紙をくれて、電話も度々あった。お前のとこと調整してくれた。お前の家の4人はついてきただけだ」
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