第178話 クラウスの報告
「それで、お聞きしたいことはなんでしょうか?」
一通り挨拶が終わり、俺は切り出した。
「そなたがダンジョンを攻略したとの情報が入ったのだが、相違ないか?」
キングス四世が質問をする。
「ええ、間違いありません」
そのことについてはオリビア王女に報告済みだからだ。
瞬間、どよめきが起こる。
「現在、我らが把握しているこの大陸に存在するダンジョンを確認してみたのだが、いずれも変化はない。ルミナス男爵はどこのダンジョンを攻略したのだね?」
俺が読んだ物語では、ダンジョンは攻略すると活動を停止する。確信を持った言い方からして、通信の魔導具で確認したのだろう。
「実は【ガルコニア鉱山】奥に未踏破のダンジョンを発見しまして……」
俺は正直にどこにダンジョンがあったか話した。
「それで一人で突入したというのか? 何という無謀なことを……」
キングス四世が呆れたような顔をしている。
「ルミナス男爵。貴方は国内でも特殊な立ち位置にいる人物です。あまり無茶をしないでください」
公式の場なので冷めた口調と表情をしているのだが、彼女が真剣に俺のことを心配してくれているのは疑いようがない。
「オリビア様。申し訳ありません」
俺は申し訳なく思いながら頭をさげた。
「どうして、ダンジョンだとわかった段階で引き返さずに突入したのですか?」
オリビア王女の質問に、俺は冷や汗を掻きながら答えた。
「実は、ダンジョンだと気付くのが遅れてしまいまして」
「は?」
その答えが予想外だったのか、彼女は口を開きポカンとする。
宮廷の作法で言うところのはしたない行いなので心臓に悪いのだが、この場の全員の視線は俺に集中しているので誰も気付いていない。
「それは、どういうことなのか説明してくれるか?」
固まってしまった彼女に変わり、カーシス皇帝が質問をする。
「元々は火山で手に入れたSランクアイテム、それがどこからきたのか探す目的でガルコニア鉱山を調べに行ったんです」
俺はことの顛末を皆に説明する。
「探索の結果、火山奥深くにてほら穴を発見し、そこを通った先がダンジョンの財宝部屋だったのです」
場所がマグマの滝の裏だとか、ネージュの飛行能力でそこまで行ったなどの情報は伏せておく。一々驚かれると話が進まないからだ。
「すると、裏から入って財宝を手に入れたというのか?」
ギルバード王が質問をする。
「ええ、そうなりますね」
俺は彼の質問に答えた。
「それならまだ納得できなくはないわね。単独でガーディアンに挑むなんて自殺行為だし」
納得したのか頷くエレオノーラ様。
「グランツ王にエレオノーラ代表、流石にそれは無理というもの。余の帝国の祖先はダンジョンを攻略して国を起こした英雄だが、それでもパーティを組んでボスを倒している」
歴代の英雄ですら一人で倒した記録ない。確かにその通りではあるのだが……。
「ボスモンスターのアークデーモンは倒しましたよ」
俺は事実をそのまま伝えた。
「「「「「「「「はっ?」」」」」」」」
全員が口をポカーンと開けている。
「ちょっと待て⁉︎ Sランクモンスターを一人で討伐したと言うのか?」
この中で一番俺のことをよく知っているキングス四世が確認をしてきた。
「ええ、うっかりボス部屋に足を踏み入れてしまい、戦闘になってしまって……」
俺は気まずくて頬を掻くと皆を見る。
「うっかりでボスと戦うなんて、よく無事だったな⁉︎」
「……本当にギリギリでしたけどね」
新たな力に覚醒しなければ間違いなく死んでいた。
今回はたまたま運がよかったが、もう一度同じことをやれと言われても絶対に断る。
すると、ルイズ皇女が立ち上がり、俺の前まできた。
「クラウス様、一つお聞きしたいことがあります」
彼女はこれまでの怯えた様子もなく、真剣な目で俺を見ていた。
「ダンジョンのボスを倒したということは、何かドロップ品を回収しませんでしたか?」
彼女の問いに心当たりがある。
「ええ、特大の魔石を落としましたよ?」
「やはり!!!」
彼女は興奮すると俺に詰め寄ってくる。
「えっと、ルイズ様?」
慌てて後ずさると、
「あっ、申し訳けありません」
皆が見ていることに気付き、彼女は恥ずかしそうにそう言った。
「あの……もしよろしければ、その魔石を売っていただくことは可能でしょうか?」
「えっと……?」
突然の申し出にどうするか悩む。
元々、俺がオリビア王女に相談したのは財宝をどうするかについてだ。
相談しておきながら勝手な行動をしては、彼女の反感を買いかねない。
「ちょっと待ってちょうだい。いきなり交渉しないでよ」
「そうですぞ、少なくともこの場の四国は対等な立場のはず。そうなれば我々にも交渉権はあるでしょう」
ところが、そんな彼女の言葉を遮ったのは、サイラスとグランツの代表だった。
「Sランクモンスターアークデーモンの魔石ともなれば、希少価値はどんなアイテムよりも上なはず。それを独断で交渉するなんて許されることではないわよ?」
「えっと……はい」
エレオノーラさんに睨まれて、ルイズ皇女は萎縮してしまった。
「そうですな、少なくとも競売形式にするべきかと。でなければ公平とは言えないでしょう」
ギルバード王はそう言うとカーシス皇帝を見た。
だが、ルイズ皇女と違い、カーシス皇帝の表情に焦りは見えない。
この提案がルイズ皇女個人によるものなのか、それともユグドラ帝国の意思によるものなのか、皆測りかねている。
「ステシアはどうなのだ?」
カーシス皇帝はキングス四世に話を振る。
「ルミナス男爵は我が国の貴族ではあるが、遺跡やダンジョンで手に入れたアイテムの販売に関して制限をつけることは許されていない」
ダンジョンでドロップするアイテムに何らかの制限をつけると、危険な割に利益が薄くなる。そうなるとダンジョンに潜る冒険者が減るので世界中の国々でそういうルールを設けていた。
「だが、ユグドラ帝国がそうまでして魔石を欲するというのなら、ステシアとしても一枚噛ませてもらいたいところだな?」
四国の代表が互いに睨みを効かせあうのだが……。
その視線は結局俺の方へと向けられた。
まるで「自分のところに売れ」とばかりの圧力を感じる。
俺はそんな彼らを見ながら冷や汗が止まらなくなるのだった。
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