Day15 解く

「おまえ、人の話聞いてたか?」

「ええ。護衛の任をくといわれました」

「それがなんでこうなる?」護衛に荷物のごとくかつがれた男が声をはりあげる。

「あなた、やはりバカですね」

「バ……おまえ、主人にむかって」

「もう主人ではありません。任を解かれたので」

「む」

「もしも本気で私を逃したかったのなら、あなたは『自分を置いて去れ』と命令するべきだったんですよ」

「……あ」

 もっとも、そう命令されたところで聞く気はなかったけどなと、元護衛の男は心のなかでつけたす。

「さあ、おしゃべりはここまでです。ちょっと本気で逃げますから、口はとじていてください。舌かみますよ」

「ちょ、なにす……このさき崖……!!」


 卍


「お、おまえ、やっぱクビだ」かつがれていただけの元主人は息もたえだえであるが。

「だからクビならもうなってますって」大の男を崖下までかついできた元護衛は涼しい顔だ。

「改めてクビにする」

「ならもう一回雇います?」

「クビにするために雇うのか」

「そうなりますね」

 元主人は真剣に悩んでいる。やはりこの元主人、本格的にアホであるようだ。などといっている場合ではない。

「休憩はおわりです。考えるのは無事に逃げきってからにしてください。ほら、敵さんはまだあきらめてませんよ」

「げっ。ウソだろ」

「走りますよ。それともまたかつぎましょうか」

「やめろ。走れる」


 はたして二人はなぜ追われているのか。それもこれも、すべては無事に逃げきってからの話である。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る