僕の初恋の人の彼氏の妹はきっと好きになれない

一七六迷子

第1話

 僕は人を好きになったことなんてない。

 多分今後も誰かを好きになるということはないのだと思う。きっとそうだ。


 僕は将来、国家転覆を狙ったテロリストになって国に倒されるのだ。きっとそう。サイコパスなのだから。生まれつきのサイコパスなのだから。


 僕は歴史に残る大犯罪者になるんだ。人の死体を見たとしても、何も思わない。何も……


 それは学校に行く途中であった。大きな蜘蛛の巣があって、そこに一匹の蛾が引っかかっていた。その蛾は必死に抵抗をしている。あぁ可哀想だなと思う。だからその蛾を逃してやろうかと。いや、だけれどもそれはダメだ。その蜘蛛だって必死に今日まで生きてきたのだと思うのだから。そうしてようやく獲物が来たのだから。彼も生きるの必死なのだ。


 ナムアムダブツ。そう思い、僕はその場を去った。生き物の世界は生きづらし。


 ……いや、僕はサイコパスである。紛れもなくサイコパスだ。

 その証拠に、恋などしたことない。人間というのは子孫を残そうとするのが一般的であるはずなのだが、どうも僕にはそのような発想がない。


 学校にたどり着く。自分の席に座る。後ろに座っている男子たちが、毎日懲りず恋バナをしている。


「それで佐々木さんはどうなの?」


「いや、いいね。タイプ。特にあの胸」


 だなんて。くだらない。僕は人ではないのだから、同じ学校の女子になんかに発情しない。全く、これだからガキはと見下してしまう。僕は将来、有名になる人物だ。一体何で有名になるのか。それは分からない。だけれどもきっと有名になる。そうして、あの人たちとは一生縁のないような女性と付き合うんだ。


「あと、湯原さんとかどう」


「湯原友希か……」


 僕の心臓の高鳴りが激しくなる。

 そしてズボンからカッターを取り出す。やめろ。回答によっては殺してやる。


「いいよね。可愛いよね」


「そうだよね。付き合いたいよね」


 パッと後ろを振り向いた。殺してやる。そう思ったが……

 後ろにいた男子二人組。どちらも同じように髪を襟元まで伸ばしている。校則で毛染めは禁止だと言っているはずなのに、髪を茶色に染めている。


 所謂、ヤンチャな2人。あぁ、これは勝てないな。素直にそう思った。

 その男2人は僕の顔を見て、首を傾げた。それに対して僕は軽く会釈をした。そうして前に向き直した。


 あぁ、ダメだ。この2人に喧嘩をしたところで僕は勝てない! クソ! 僕に筋力があれば!


 湯原。湯原。彼女だけはダメだ。だって、彼女と付き合うのは僕だもの。僕は他の誰よりも湯原のこと好きだもの。


 えっ、恋をしたことないのではって。うるさい。湯原は特別なんだ。

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