第66話 ラブコメであることは当人たちが一番気づかない
朝食後、身支度を終えて学校へ到着。
本来なら検証と称して色んな生徒を調べたり、先輩とあれこれイベントがあったりの季節なんだけど。そんなことはすっ飛ばして、ボクは文芸部の部室で、家から持ってきた液晶画面を前に唸っている。
「………………」
時刻は午前11時。
1年生……いや、2~3年生でも授業中の時間にも関わらず、普通にサボっているということになる。が、誰も咎める者はいない。
廊下や教室の窓、部室から見える箇所は開けられていて風通しを良くしている。誰かいなければ開いてるわけないんだけど、どこからも、誰の声もしない。
「……………………」
このまま放置してても、世界は壊れそうだ。あるいはループに戻ろうとしているのか。どっちにしても、今のままでは何かが終わる。
それじゃせっかく自分を思い出した意味がない。なにかひとつくらい結果を残してから終わりたいところだ。ところ……なんだけど、
「やっぱり思いつかない」
夏にも似たようなことがあった気がするぞぅ…………!
『これを書きたい!』のような、大きな熱意があるわけでもない状態、とりあえず意識下の世界から抜け出すためにやろうってことで先輩とスタートしたんだけど、画期的なアイデアは出ていない。
「そんなにポンポン出るなら苦労はしないよね」
「滲み出し、それをさらに濃縮したような筆者の感情を読みたい人間は少なくないからねぇ」
「歪んだ愛だなぁ…………」
隣で滑らかにタイピングを続けるナツキ先輩が小さく笑う。
「私は君から抽出されたモノは好きだよぉ?」
「だんだん隠さなくなってきましたね」
する意味もないからね、と先輩は短く返した。
そりゃボクの中にまで入ってくるんだから好みをはぐらかす必要もないか…………というより、先輩は最初から隠していなかったような。
「私は好きなものを好きだと言うことに恥ずかしさはないよ。ま、この作り物の世界じゃなくて、現実で言ってあげたいところだけどねぇ」
「グイグイ来るじゃないですか……」
引き気味の問いに対して、先輩はただ笑う。手伝ってくれるって言っていた割に、ただただ楽しんでるだけな気がしますよ。
「使命感を持って書くよりも、楽しんで書いた君の物語が好きなだけさ。迷うなら迷えばいいし、どうしたらいいか分からないなら聞けばいい」
「わからないことが分からない場合は?」
「それは私にも分からないねぇ」
さもありなん。
学校のテストじゃあるまいし、出題範囲もない自由な創作だ。ボクが何を書きたいかなんて、ナツキ先輩が知るはずもない。
「だけど」
淀みない打鍵が止まる。
隣の先輩へ視線を移すと、彼女はにっこりしていた。
「分かるまで一緒にいるくらいはできるよ」
「優しい先輩に涙が出ますよ」
「おいおい、ここは号泣するシーンだろう?」
わざとらしく肩をすくめ、打鍵に戻る。
ひとつ、気になることがある。
「先輩。今書いてる作品も、この世界が終わったら消えるんじゃないですか?」
「別にいいんじゃないかな」
「どうして?」
「また書けばいいさ」
好きで書いてるだけだから…………と、いつもと同じように先輩は笑った。
記憶はまだ曖昧だけど、なんとなく思い出したことがある。
ボクは……先輩の作品をつくる姿が好きだったんだ。
「よし!」
「おや、なにか決まったのかな?」
「なんとなくで!」
やるだけやってみよう。
迷う必要はない。隣には、ナツキ先輩がいてくれるんだから。
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