第14話 登録者数100万人
「……?」
目が覚めると、俺は自室にいた。
どうしてだ……? あの後、何が起きた?
考えても、理由がわからない。
時計を見ると、時刻は午前10時。
つまり、あれから一晩が経過している。
「……俺、殺人を犯したんだな」
起きてすぐに、あの時の感覚を思い出す。
魔物を倒した時とは、まるで異なる感覚。
殺人を犯した、特有の変な感覚。
あんなクズを殺したことに対して後悔はしていないが、人を割った感覚は少し……気持ちが悪い。それ以外は特に何も感じていないので、どうやら俺は自分が思っている以上に性格に難があるようだ。
「なぜ、捕まっていないんだ? そうだ、チャンネルにヒントがあるかもしれない」
そう思い、スマホを開く。
すると──
「……え」
ロック画面には、ビッシリと通知が届いていた。どれだけスワイプをしても、底が見えてこない。永遠にスワイプできる。その通知の全てが、チャンネル登録の通知だ。
一体どうなっているんだ。確かに以前のダンジョン配信の時も似た感じだったが、今回の通知はあの時のレベルを遥かに超えている。あの時はまたそこが見えたが、今回のは底なし沼だ。
「どうなっているんだ……?」
呟いて、自分のチャンネルを開く。
そこには──
「ひゃ、100万人!?」
【ムサシちゃんねる】
【登録者数100万人】
と、記載されていた。
最後に見た時の登録者数が、約10万人だったので一晩で10万人も登録者が増えている。さらにもっと言えば、チャンネルを開設してから……たった3日で登録者100万人の偉業を達成してしまった。
確かに中角のチャンネルは、登録者数が数受万人もいるとコメントに流れていた気がする。そんな中角を殺したことで、彼のアンチがみんな俺の元へと集まったとすれば……この膨大な登録者数も不思議ではないのか?
「いやいや、それにしても……増えすぎだろ」
その時ふと、1つの考えが巡った。
その考えを確認するために、俺は各種SNSを開いた。そこには──
【トレンド1位:ムサシちゃんねる】
【トレンド2位:ムサシ】
【トレンド3位:制裁配信】
【トレンド4位:魔法】
【トレンド5位:ダンジョン】
「トレンド1位〜10位まで、俺関係が支配している……!?」
ムサシちゃんねるや魔法など、俺に関係のあるワードが各種SNSのランキングを埋めていた。日本国内だけではなく、海外勢まで注目している様子だ。なるほど、こりゃ100万くらい行くわな。
唖然としつつ、トレンドを確認する。
10位以降もちょこちょこ関係のないワードが見受けられるが、大体が俺に関係のあるトレンドだった。そしてそんなワードの中に、1つ気になるワードを発見した。
「ん?」
【トレンド76位:中ずんみ死去】
76位のトレンドに、実に気になるワードがあった。中角は俺が殺害したハズなのだが、このワードの記載には違和感がある。そう思い、そのトレンドを開いた。
「……え」
そのワードについて呟いている人は大勢おり、その内のほとんどがネット記事からの引用で独自の感想を述べていた。中角が自殺をしたという、事実と異なる記事に対して感想を呟いていた。
一体、どういうことだ。
中角は確実に、俺が殺害した。
魔法で両断し、息の根を止めたのだ。
それが記事を読む限り、彼は俺に負けたことがショックで自殺したと記載されている。本件について呟いている人も、昨日の配信で俺に殺されたと記載している人は見受けられない。
「俺が身長を伸ばした時と同様に、記憶や認識が改竄されたのか? だとしたら……一体、誰がどういう目的でこんなことを行っているんだ?」
前回と同様に、あまりにも俺に都合の良い改変だ。俺としては嬉しいことなのだが、これは度が過ぎており……ちょっと気持ちが悪い。あまりにも作為的な、何かを感じざるを得ない。
改編を行った者の、理由も根拠も何もかもが一切合切不明だ。おそらく俺に魔法を与えたことさえも、何者かの狙いなのだろう。だとすれば……俺はその何者かの、手の上で踊っているだけに過ぎないのかもしれない。
「癪だけど、悪いことではないからな」
どれもこれも、俺に都合の良いことだ。
気持ち悪いが、悪いことは起きていない。
だったら……甘んじて受け入れるべきか。
何者かのおかげで、魔法を手に入れた。
何者かのおかげで、中角を殺せた。
何者かのおかげで、100万人を達成した。
何者かのおかげで、罪を咎められないで済んだ。
気持ちが悪いことは事実だが、感謝をすべきなのかもしれないな。仮に出会う機会があれば、まずはありがとうと述べよう。
「それより……100万人か。大物だな」
世界中の内、最低でも100万人が俺を見てくれている。昨日の配信ではスパチャ学が1000万を超えたことだし、今後は配信だけで十分食っていけるだろう。他の配信者では決してマネのできない、ダンジョン攻略という武器も有しているのだから。
「バイトをする必要も無くなったし、最高の気分だな!!」
そう叫び、俺は再び寝た。
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