たまたま発見した『魔法書』のおかげで、世界で唯一の魔法師になりました 〜ダンジョン配信や制裁配信をした結果、アホほどバズりました〜

志鷹 志紀

第1話 イジメと蔵

「……今日もダメだったよ、じいちゃん」


 仏壇に向かって、静かに呟く。

 じいちゃんが亡くなってから約1年。

 この1年間……散々だった。


 俺には両親がいない為、じいちゃんだけが心の支えであり家族だった。そんなじいちゃんが亡くなってから、俺は齢16歳にしてボロアパートで1人暮らしをしている。アルバイトで生計を賄っているが、学業との両立は難しく……毎日が苦しい。


 そんな生活を送っているせいもあり、勉強時間が中々確保できず……この間でのテストでは全教科赤点を取ってしまった。期末テストで同じ結果だったら、高校を退学することになってしまう。


 それに加え、俺は容姿も悪い為……イジメの対象になっている。毎日毎日クラスの不良生徒にイジメられ、苦しい日々を送っているのだ。じいちゃんがいた頃だったら、何とか頑張れたが……今ではそれも叶わない。


「じいちゃん、俺……苦しいよ……」


 心の支えのじいちゃんを失い、俺の人生は暗澹としている。毎日苦しみに塗れており、毎日死にたくなってしまう。弱音を吐露することもできず、誰にも相談もできない。


 どうして俺だけが、こんなに苦しいのだろうか。どうして俺だけが、こんなに大変なのだろうか。神がいるとしたら、俺のことが大嫌いなのだろうか。


 仏壇に備えられているじいちゃんは、いつもと変わらない笑顔を灯している。以前だったら、その笑顔だけで少しは満たされたが……今ではその余裕もない。


「……じいちゃん、もう寝るね。明日も朝からバイトなんだ……」


 深いため息を吐いて、その場を去ろうとする。だがその時、ズボンの裾を踏んでしまい……体勢が崩れた。


「おっと」


 体制が崩れた際に、何かに掴もうと思わず手を伸ばしてしまう。俺の右手はじいちゃんの写真に触れ、写真はカランッという音と共に地面に落ちた。


 あぁ……悪いことをしたな。

 心の支えのじいちゃんにこんな仕打ちをするなんて、俺は罰当たりな孫だな.自分のことが、心底嫌になる。

 

 深いため息を溢し、じいちゃんの写真を拾おうとした途端──


「……え」


 仏壇が輝き出した。

 黄金色、なんてレベルじゃない。

 まるで極楽浄土のような、燦然とした輝きを放っている。下賎な者であれば、即座に成仏しそうな勢いの光だ。


 ……って、なんだこれ。

 なんで、仏壇が輝いているんだ?

 ゲーミング仏壇? ……虹色じゃないか。


「あ」


 次の瞬間には、俺の意識は途絶えた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 目が覚めると、俺は汚い部屋にいた。

 築50年のボロアパートの俺の家よりも、遥かに汚く不潔だ。床の畳は痛んでささくれ立っているし、窓ガラスは割れて風がビュービューと入り込んでくる。天井には照明器具が付いておらず、部屋はどんよりと暗い。


 明らかに、ここは俺の家ではない。

 だったら、ここはどこなのだ。

 とりあえず、帰らないといけない。


「……え」


 振り返ると、そこには黄金に輝くドアがあった。ボロボロの部屋とは対照的に、その扉は防火戸のように頑丈な鉄扉だった。


「あ、開かない……!?」


 ドアノブをガチャガチャと捻っても、扉が開く様子はまるで無い。思い切り力を込めて引いても、押しても、何の反応もない。……どうなっているんだ?


 部屋を見渡す限り、この扉以外に扉は見当たらない。窓からの脱出も考えたが、窓の外には何故か暗黒の闇だけが広がっていた。光などはまるでなく、窓の外には何も確認できない。


 壁をドンドンと叩いても、何の反応もない。

 薄い壁特有の反響音もせず、まるでミッチリと詰まった粘土を殴っているかのような、鈍い音だけが部屋に響く。ボロい部屋のくせに、音響だけは優れている様子だ。


「脱出できない……? 詰んだ……?」


 そんなことを呟き、地面にへたり座る。

 そもそも、ここはどこなんだ。

 窓の外には暗闇が続いているし、黄金の扉はまるで開かない。俺の短い一生は、こんな汚い部屋で終わりを迎えるのか……?


 そんなこと、絶対に嫌だ。

 と心の中で叫んでも、何も解決しない。

 あぁ……せめて……もっと清潔な部屋で死にたかった。こんな汚い部屋で餓死だなんて、絶対に嫌だな。


 その時、地面に1つの書物が落ちていることを確認した。部屋が暗くて、見えなかった。

 書物を手に取ると──


「……『ジイボンの魔法書』?」


 茶色く埃を被ったその本には、見たことのない文字でそう記載されていた。何故だかわからないが、俺にはその文字を読むことができた。


 しかし……なんだ、魔法書って。

 ネット小説かよ。そんなことを考え、ふっと笑った瞬間──


────────────────────

【名 前】:緑山武蔵みどりやまむさし

【スキル】:なし

────────────────────


「うわっ!?」


 目の前に出現したのは、半透明なウィンドウ。ここまでくると本当に……ネット小説染みてきたな。


 そんな感想を抱き、俺は尻餅を付いた。

 ……畳が硬くて、尻が痛い。

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