#017 斡旋

「(思ったよりは、集まりましたね)」

「(やっぱり、"自分の"パソコンってのは憧れだよね)」


 今日の部活動は、いつもの自主活動を変更して"個人用"パソコンの購入指南をする事となった。僕が……。


「もちろんピンキリですが、それじゃあ分かりにくいので金額別でコースを用意しました。2万円コース、4万、6万、8万……」


 部のパソコンを用意するのに、なぜ個人用の話をしているかと言えば、それは『モノには順序がある』ってことになる。当初、僕たちは部員(保護者)全員を対象に任意のカンパを募集しようとした。しかし結果は学校側からのストップで終了。


 まぁ、当然だ。入部時に事前通知をしていたならまだしも、いきなり学生(子供)主導でパソコンを購入するなんて信用できるはずがない。くわえて、学校側はすでにパソコンの使用許可を出している。学校や保護者としては『第二美術部の活動=お遊び』の認識なので、自由にカスタムできる専用パソコンなんて渡したくないのが本音。それこそ、部活動と称して『アダルトサイトを閲覧していた……』なんて事件が起こりかねないからだ。


「なんだよそのオモチャみたいなの。本当に動くのか?」

「2万なら、ギリだせそうだけど…………安い買い物じゃないしね」

「もちろん、あまりオススメできる性能じゃないのは確かなんですけど…………一応、最近ブレイクスルーが起きてこのあたりの低価格帯パソコンは、簡単な作業なら充分使える性能になりました」


 僕が用意したコースは、

①、2万円のミニパソコン。ノートパソコンのような一体型基盤で出来たパソコンで、モニターやバッテリーがついていない分安価になる。当然、これだけでは動かないが、すでにモニターなどがあれば使いまわせるし、無くても最悪テレビにつなげば使えてしまう。ポジション的には"サブ"の域を出ないが、これはデータサーバーや小説を書くのに便利なので僕も使っている。


②、4万円のノートパソコン。①と性能は同じだが、単体で使えるし部室に持ち込んで使うのにも便利。①も含めてコレでは本格的な作業は出来ないが、無いよりは良いし、下手に中古の自作パソコンを渡すよりは手間がかからない。あと、現実的に親が出してくれるラインはここまでと見ている。


③、6万円の型落ち自作パソコン。1~2世代前の底値がついているパーツで構成した新品のパソコン。古いが性能は①~②とは比べものにならないし、グラフィックに最適化した構成なので設定次第ではFPSゲームなども楽しめる。映像編集にはさすがにスペック不足を感じるが、漫画やイラストを描くならコレで充分。個人的にもオススメできるゾーンになってくる。


④、8万円のグラフィックボード強化版。基本構成は③のままであり、そこに高性能な映像処理パーツを追加したコース。僕のメインパソコンはこのあたりの分類になるのだが、ここまで来れば学生レベルの活動で出来ない事を探すのは難しくなる。もちろん上(プロ向け)を見ればキリはないが、ここから先はプロ向けの外部ツールや高額有料ソフトなどが必要になる世界で、パソコン本体の機能としては完成している。


 結局、ラインナップに中古を組み込むのはやめた。これらは供給が不安定だし、トラブルが起きると専門知識が必要になるので…………信頼できる人限定の裏メニューとなる。


「パソコンって、そんなにするのかよ? 高くね??」

「いや、安いだろ? 普通、こんな値段じゃ買えないぞ」

「値段なんてこの際どうでも良いだろ? 問題は(親が)買ってくれるかだ」

「買うなら、正月まで待たなくちゃだな」

「ん~~、誕生日プレゼントってことで、ネダれば…………ギリ、いけるか?」


 いつもは不真面目な帰宅部たちが、わりと真剣に考えている。もちろん、部活動に意欲を高めているわけではないのは理解しているが、種まきとしては上々だろう。


 部の専用パソコンももちろん重要だが、それよりも重要な最終目標は『成果をあげて第二美術部の権威を獲得する』事。部費や信用があれば、今回みたいな事で悩む必要もなくなるからだ。


「オススメのパソコンはプリントアウトしておいたので、欲しい人は持ち帰って家の人と相談してください。あと、部の専用パソコンですが…………学校側の反対もあり"中止"にしました」

「まぁ、そうだよな」

「しかたないわよね。いいんじゃない? 自分用のパソコンがあれば」


 そして部の専用パソコンは、"表向き"計画中止とした。このままカンパを募って用意しても、帰宅部連中のオモチャにされて…………最悪、イタズラや盗難、なんて事になるかもしれない。そのため専用パソコンは、あくまで『部長の個人所有パソコン』として信頼できる相手間で共有する事にした。




 そんなこんなで今回は、活動内容を変更してパソコンを斡旋した。

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