#010 第二美術部の財政

「一応、学校のパソコンは使えますけど、基本的に自分のパソコンで作業してもらう事が多いですね」

「それじゃあ……。……??」


 第二美術部はそれなりに入部希望者の多い部だ。そのため体験期間中は部長を中心に在中して、その対応にあたる事になっている。


「それで! シャルル先輩は何をするんですか!?」

「私も、シャルル先輩と何かしたいです!!」

「えっと、誘ってくれるのは嬉しいんだけど、私もまだ……」


 第二美術部を訪ねる理由は『デジタルコンテンツに興味がある』か『らくそう』の2択であり、活動も指導する必要はない(出来ない)ので対応は難しくないのだが…………今回は違った。今、師匠の話題は1年の間にも広がっており、物見遊山や本格的な共同制作を求める生徒が押し寄せてきたのだ。


「はいはい、悪いんだけど、共同制作は同じ学年同士でしか出来ないから。そもそもシャルちゃんは、もう、パートナーがいるから。変な気をおこしても、無駄だと思うよ~」

「「…………」」


 皆の視線が僕に集まる。


 ちなみに共同制作の縛りは嘘だ。この部にそんな細かい規則はない。しかしながら学年が違うと何かと都合が悪いのも事実で、基本的には同じクラス同士で組み、あぶれたらソロでってのが定番の流れになっている。


「はい、ジュンは私の同志であり、師匠なので"あげません"よ!!」

「いや、べつに……」


 取り合いになっているのは師匠であって、僕ではない。相変わらず師匠は少しズレているけど『人付き合いってものはそのくらい余裕あそびがあった方が上手く回る』んだってのを、最近よく実感するようになった。


「一応、風紀員の観点からも言わせてもらうけど、友達が入るからとか、そういうので部を選ぶのは止めてほしい。将来にもかかわる事だし、本当に自分のやりたい事か…………それがないなら形だけでも自分のキャリアに繋がるものを選んでほしいわ」

「「…………」」


 師匠のお目付け役として、当然のように我が部に居座る風紀委員。正直なところ、教師に見張られているようで落ち着かないが、こういう時はやはり助かってしまう。


「えっと、そろそろ他の部も……」

「そうだった! 今日中に4つ回らなきゃだったんだ!!」


 ぞろぞろと撤退していく入部希望者たち。


「すいません、出過ぎたマネを……」

「いいのよ操ちゃん。むしろ、助かっちゃった」


 ちなみに我が部は、正直なところ部員は求めていない。部によっては、部員数が部費に直結するが…………残念ながら第二美術部の部費はゼロ固定。


 その理由は、帰宅部の温床になっている事と、成果の有無。第一美術部や金管バンド部なども特別な賞はとっていないそうだが、それでも大会に参加してそれなりに学校の箔付けに貢献している。対して『第二美術部は何か役に立ったか?』って話だ。


「そうですね。その…………(一年の)私から見ても、彼らを受け入れるのはオススメできないかと」

「カグラは、何か知っているのですか?」

「いえ、そこまでは……」


 美少女転校生の噂に飛びついてきた相手が真面目なわけがない。妹さんの言い分はもっともだが…………ともあれ、部費が無いのは成果の問題であり、逆に言えば成果をあげれば部費が貰えるかもしれないわけだ。


 いや、部費はともかく、最低でも備え付けのパソコンに専門的なソフトを入れる許可くらいは欲しいところ。その点で言えば、とりあえず部員を掻き集めて、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる戦法でいくのもありなのかもしれない。


 とはいえ、非常に個人的な意見を言わせてもらえば、部員は少なくて不干渉な方が落ち着くので、今の方針に賛成だったりする。


「すいません、見学に来たんですけど……」

「え? あぁ、いらっしゃい」


 そうこうしていると、また新しい入部希望者が来てしまった。




 結局、入部体験中は部室でも落ち着いて今後の方針について話す機会はなかなかもてなかった。

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